警察人生 10章
唯一の手柄と言ってもいい
郵便局強盗を逮捕した事件
当時、別の事件に従事中だった
ド田舎警察署は署員30名、刑事課員は鑑識を含め4名、人が足りない、駐在所員は何か事件がある都度、にわか刑事になる、私もその1人
別の事件で身柄を引いて帰って来たところだった
1階の110番指令台と無線台の近くにいた、刑事課の捜査車両のカギを返納したところだった
本部から緊急通報が入った
郵便局強盗の発生を告げていた
返納したカギを再び取り、刑事課の三菱ランサーターボに乗り込んだ
無線のボリュームを目いっぱい上げ
サイレンを鳴らして現場の郵便局に急行した
県道を時速160キロメートルで飛ばし、現場到着まで5分はかからなかった
郵便局の前で局員が逃走方向を指していた
現場をそのまま通り過ぎて、追跡を始めた
助手席の相棒が無線のやりとりをしていた
高速のインターに向かう気がした
隣の警察署の管内だ
何気なくそう思ったのだ、カンだった
ずばり的中した
局員が投げたカラーボールの塗料が付いた車をインター手前で発見した
追いついたのだ
そこからカーチェイスが始まった
三菱ランサーターボはトルクがある
離されてもすぐ追い付く
20分近く、カーチェイスをした
逃走車はやがて白い煙を上げ、動かなくなった
運転席のドアを開けた
助手席の足元に拳銃が見えた
助手席側から相棒がいち早く拳銃を取り上げた
模造拳銃だった
助手席に強取した現金200万円があった
犯人を逮捕した
三菱ランサーターボは後ろから体当たりしたのでボコボコになっていた
私が
「やらかした、こりゃ怒られるな」
と言うと、相棒が
「大丈夫、もう古くて近いうち廃車
にするらしいですよ」
と答えた
安心して帰ると、やはり怒られた
しかし、署長は
「よくやった、捜査本部を立ち上げ
事件を追うと莫大な金がかかる、
それを30分でスピード解決した
のだ、車の修理代なんか安いもの
だ」
と言った
署長は自分の財布から1万円札を出して
「これでうまいものでも食べろ」
と言った
しかし、解決ではなかった
逮捕は始まりに過ぎなかった
刑事ドラマは犯人を逮捕して終わるが、実際はそうでない
お前が逮捕したのだから、最後まで(起訴になるまで)捜査しろと言われ、にわか刑事は続いた
刑事課の部長刑事(巡査部長の刑事)は刑事一筋の人、
ドラマに出てくるイケメンでダンディーな刑事
スレンダーな体にスーツ姿が似合っていた
強盗事件でペアを組んだ
郵便局に強盗に入り200万円強奪した事件の処理だ
被疑者は素直にペラペラしゃべった
部長は違和感を感じる、本当のことは話していないと言った
車の捜索を徹底した
郵便局の収入印紙のレシートが見つかった
たまたま目にした郵便局に強盗に入ったのではないことを意味していた
入念に下見していたのだ
しかし、本部捜査一課の取調官は言いなり調書を取り、別の署の連続放火事件に回ってしまった
調書を一から取り直さなければならない
「余分なことを」とつぶやいたら、部長は、
「ムダなことではない、供述の変遷
は供述に信憑性が出る、遠回りで
も大切なことはある」
と言うのだ
カッコイイ
ますます惚れてしまった
刑事ドラマのワンシーンを観ているようだ
ーつづく
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