警察人生 5章
交通課へ異動が出た
刑事の夢は消えた
自分は刑事向きではないと判断されたようだ
交通課は課内の雰囲気が良かった
課長や先輩方は優しかった
取締係に配属された
主任は仕事熱心、人使いが荒かったが、先輩の二人は、でこぼこコンビ馬鹿ばっかりやっていた
主任は速度取締りに力を入れていた
全国一斉、県下一斉の取締日には朝から晩まで速度取締り
くたくたになって帰宅した
その頃、結婚2年目、娘が1人
妻は土日どちらかが休みだったので喜んだ
刑事課に手伝いに行っていた時は休みがなかったからだ
最初は良かった
しかし、違反者に
「こんなところでネズミ取りをやる
な、汚えぞ」
「善良な市民をいじめて、そんなに
楽しいか?」
「お前はいい死にかたをしない、地
獄に落ちろ」
「呪ってやる、わら人形で呪ってや
る」
などと言われる
1年経つと、取締りが段々苦痛になって来た
好きで取締りをしているわけではない
気持ちはわかる、速度違反となれば1万円以上の反則金、誰も払いたくない
1万円を稼ぐのにどれだけ大変か?
頭では理解している
そんなある日、当直勤務に従事していた
6日に1回、当直勤務をしなければならない
昼間は通常の取締り、夕方から当直勤務に入り、事故処理に当たる
土日は朝から翌日の朝までだ
かなり、きつい
1か月で何時間働くのだろうか?
おそらく、250時間近く働いていた
県警本部から無線指令が入った
子供が跳ねられ意識不明だった
1班が事故現場へ、私は事故の主任と病院へ向かった
主任は現場に立ち寄って車を見てから病院に行くと言って、病院到着が少し遅れた
子供は亡くなっていた
遺体安置室に行く
女の子だった
娘と同じ2,3歳だろうか?身体に損傷はなく、とても亡くなっているとは思えなかった
きれいな顔をしていた
合掌して、死体見分を始めた
私は女の子にカメラを向け写真を撮り始めた
まだ、こんなに小さいのに、生まれて2,3年、未来が失われた
つらい、悲しい
と感情が高ぶると、涙があふれてピントが合わない
当時はフィルムカメラでオートフォーカスがなかった
主任が怒った
「交通事故が憎いだろう、これが現
実だ、お前の仕事は何だ、お前は
取締係なんだ、取締りを通じて事
故を1件でも減らせ」
と喝を入れられたのだった
子供の飛び出しだったが、はねた人は制限速度30㎞の道路を倍の60㎞で走っていた
制動距離は倍以上だ、30kmで走って来たら、衝突直前で止まることもできただろう
完全な速度違反なのだ
速度の違反者は皆、大した違反ではないと言う
飲酒運転は悪質、速度違反は軽微という意識が強い
「何㎞だと取締り対象だと?」
「70㎞、80㎞?」
道路状況に応じて違うのだ
狭い道、学校の通学路、商店街はより低い速度が求められるのだ
その日以降、私は女の子を思い浮かべ速度取締りに従事した
事故を1件でも減らすという強い意志を持って
ーつづく