警察人生 2章
警察官の新人時代、交番勤務の下っ端は当直明けに刑事課へ書類の送達に行く
刑事課のドアを開けると、刑事の眼力がすごい
全員の視線を感じる
後年、カミさんに「ねぇ目付きが悪いよ」とよく言われた
職業病だから仕方がない
好きでなった訳ではない
それが今、鍼灸院を経営している
客商売なのだ
最近やっと、患者さんが「先生、穏やかな顔つきになったね」と言ってくれるようになった
嬉しかった、一般の人に戻れた気がした
近い席に座っていた鑑識の川口さんによくダメ出しをされた
川口さんは庶務も兼ねていて、書類の点検をしていたのだ
赤鉛筆で訂正するのだ
最初から書き直さなければならない
せめて訂正箇所に付箋でも貼ってくれたらいいのに 何度思ったことか
だから、何回も見直す 真剣勝負だ
でも訂正箇所を見つけられる
また、川口さんには特に指紋採取を指導された
交番勤務の警察官が盗難現場に行って指紋採取をしていたからだ
空き巣などの侵入盗は鑑識課員も現場に来るが、それ以外は交番で対応するのだ
がむしゃらに指紋採取した
でも、一度も犯人のものは検出されない
ある日、盗まれたオートバイが発見された
ナンバーが曲げられていた
そこに指の形にホコリが取れていた
虫メガネで見ると油膜の上にうっすら指の流線つまり指紋を確認できたのだ
犯人のものに違いない
でも、油がついている
油があるとアルミニウムでは採取できない
指紋がつぶれる
黒粉しかない
黒粉を指紋の上にのせ、はらう
慎重にゼラチン紙をのせる、採取するためのシートだ
のせて、ゆっくりはがす
ズレたら指紋がつぶれる
それを2、3回繰り返す
余分な黒粉が取れていく
余分な黒粉が取れ、いいあんばいになったらゼラチン紙に圧をかけ指紋をのせるのだ
圧が弱くても強くてもいけない
うまくできた
白い台紙に貼り付けると指紋が浮き上がった
川口さんは「まずまずだな」としか言わなかった
褒めもしないが指摘もしなかった
採取した指紋は本部で照合する
数ヶ月後、すっかり忘れていたところに隣の警察署の少年係の係長から電話があった
「君の採取した指紋が連続オートバ
イ窃盗グループの一味のひとりに
一致した」
「供述と状況証拠しかなく、供述を
くつがえされたら非行なし(成人
事件でいう無罪)になる」
「これで立件できる、助かったよ、
ありがとう」
と言われた
その時、初めてわかった
がむしゃらに採取してはダメだ
ピンポイントで採取しなければ
犯人なら、どこをさわるか?
を考える
それから、現場に行っても、すぐ採取しようとはせず、まず腕組みをして考えた
見ていた川口さんが
「やっと、わかったか」
と言って、それからダメ出しはかなり少なくなった
不思議なものだ、それからバンバン指紋が当たるようになった
・外国人の家電製品窃盗事件
・万引き犯が警備員を押し倒して怪
我をさせて逃げた強盗致傷事件
・外国人による広域自動販売機荒ら
し事件
・200件に及ぶ空き巣狙い事件
など、面白いように犯人に当たるようになった
宝くじは全く当たらないのに
ーつづく