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小説『エッグタルト』

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高校で吹奏楽部に所属している太田と、数学オリンピックに出場することが決まった女子高生、川野さんの話です。
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2020年10月の記事一覧

小説『エッグタルト』第十九章

 暑さのピークも過ぎたのか少し涼しくなってきていて、夏休みにも終わりが近づいていたとある日の夜、母さんと二人で夜ご飯を食べる機会があった。兄は塾講師のアルバイトで忙しいらしく、父さんも出張で大阪に向かっていた。
「あんた、学校で好きな子とかいないの? そろそろ彼女の一人でも作りなさいよ」
「いないよ。恋愛とか、よくわからないんだ」
「川野さんって子はどうなの? 仲がよさそうにしてるって水野さんのお

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小説『エッグタルト』第十八章

 翌月、夏休みに入り、野球部が夏の予選の準々決勝まで駒を進めたので、吹奏楽部の一部はスタンドで応援をしていた。野球部が準々決勝に進出するのは約三十年ぶりのことだったらしいので、みんなお祭り騒ぎだった。
 炎天のもとで応援するのは大変ではあったが、みんなで息を合わせて応援をするのは凄く楽しかった。プレーする選手たちを見て、これが青春なのか、などと思ってしまった。
 金属音と共に、打球は左中間へと飛ん

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