小説『エッグタルト』第十八章

 翌月、夏休みに入り、野球部が夏の予選の準々決勝まで駒を進めたので、吹奏楽部の一部はスタンドで応援をしていた。野球部が準々決勝に進出するのは約三十年ぶりのことだったらしいので、みんなお祭り騒ぎだった。
 炎天のもとで応援するのは大変ではあったが、みんなで息を合わせて応援をするのは凄く楽しかった。プレーする選手たちを見て、これが青春なのか、などと思ってしまった。
 金属音と共に、打球は左中間へと飛んでいった。ツーベースヒットになり、二塁ベース上で三年の先輩だろうか、選手がこちらを向いてガッツポーズをしていた。スタンドのみんなも盛り上がりながら、歓声を上げていた。
 結果は、惜しくも二対一で敗北だった。選手たちは涙を流していたし、スタンドで応援していた女子生徒のうちの何人かも泣いていた。俺もこの先、涙を流せるほど熱中できることに巡り合えるのだろうか、と思いながら小太鼓を片付けるために持ち上げようとした際、ふと川野さんのことを思い出した。青空を見上げ、そういえば、数学オリンピックはどうだったのだろう、などと考えてしまった。もう帰国しているのだろうか。 
 周りでもあまり噂になっていないことから察するに、いい結果ではなかったのかもしれないなあ、と思った。川野さんがイギリスに出発したあと、川村先生の授業を受けていたときも、先生は少し浮かない表情をしながら授業をしていたことを思い出した。周りを見ると、ほかの生徒の多くも帰る支度を始めていたので、俺は、小太鼓を持ち上げ、片付けるためにマイクロバスへと向かった。

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