![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/121619925/rectangle_large_type_2_a52993e38db5f7ebef08c9675b85b6e5.jpeg?width=1200)
東洋化成主催「OPEN FACTORY」を終えて
一昨日、東洋化成の工場でおこなわれたオープンイベント「OPEN FACTORY」に造園計画で出店してきました。
まず前提として東洋化成とはレコードのプレスなどをしている会社で、その東洋化成が自社のプレス工場を見学のために開放する、というのが今回のイベントの目玉でした。さらにそれに際して、東洋化成が公募で集めたレコ屋やレーベルなどがブースを並べ、各々が販売をおこなえるという、コミケ的なテイストが付け加わり、今までにない感じのイベントになりそうな予感が開催前からありました。
(実際に出店したストアのリストは以下のリンク先から見れます)
ちなみに、この出店ブースのラインナップは事前のコネとかそういうものとは無縁のもので、ぼくら出店者が1ブース5000円で東洋化成から出店の権利を購入するという仕組みになっていました。本当に一般公募ということです(多分ユニオンやタワレコ、HMVとかの大型店舗は別でしょうが)。
人によっては「なんだ金を取ってるのか」と感じるかもしれないですが、むしろ金(しかも5000円という極めて安い金額)を払えばある程度集客が約束されているであろうイベントに誰でも出店できるのですから、これは逆に考えた方が良いでしょう。ぼくらのような野良レーベルが、あらゆる有名レコード店やカクバリズムのような大きなレーベルに混じって出店ができたのは、まさにこの思い切った仕組みのおかげです。
で、実際のイベントはどうだったのかというと、「良いイベントだった」というのがぼくらの素直な感想です。
予想通りお客さんの入りは良い感じで、ひっきりなしにお客さんが入れ替わっているような状況でした。特に工場見学には長蛇の列ができていて、その工場見学を終えた人たちが出店ブースを覗いていくという流れができていたように思います。主催の東洋化成によると、のべ1000人くらいはお客さんが来ていたようです。
ぼくらはレーベルからリリースしているカセットやCDやレコード、マーチ、はたまた石やゴミなど、色々販売したのですが、思ったよりリアクションがよく、それなりに売り上げを出すことができました。
![](https://assets.st-note.com/img/1699874799611-lPOGuwqsbN.jpg?width=1200)
また売り上げ額の話ばかりではなく、ここで発生した売り上げのほとんどが、事前にぼくらのことを知らない人たちの購買によるものであった、ということもとても大事なことです。つまり普段リーチしないであろうラインに届いていた、ということです。この価値は売り上げの金額では測れないものです。
特にぼくらのような規模感のレーベル/バンドはどうしてもローカルなシーンの客層に埋め込まれてしまいがちで、「ライブハウスでコツコツ頑張る」以外の可能性がすぐに見えなくなってしまいます。そういう意味で、こうした別の規模感の、別の客層に自分達の商品/作品を開くことができる機会というのは本当に貴重なのです。
そしてあわせて考えるべきなのは、今回のイベントがなぜこのような規模感で、このような偶然の出会いを生み出すことができたのか、ということです。シンプルに考えれば、主催が東洋化成で、場所がプレス工場だったからでしょう。でもなぜ東洋化成が主催なら、プレス工場が主催場所なら人は集まるのでしょうか。
それは多分、メジャーの作家、インディーの作家、有名無名問わず、プレス工場という場所が音楽メディアにまつわる重要なインフラだからです。ものすごい音楽マニアも、「ちょっとレコードが好き」くらいの人も、音楽メディアを通した聴取経験を愛する限り、プレス工場は絶対に必要なものです。ロックが好きな人も、テクノが好きな人も、ハードコアが好きな人も、リスナーもプレイヤーも、皆がプレス工場という場所に依存しているわけです。だからこそ多くの人がプレス工場に興味を持ち、実際に足を運ぶ。要はプレス工場とは、音楽ジャンルという「趣味のレベル」の上位に位置するもの、ということです。
恐らく、東洋化成が出店者のラインナップを事前に選定しなかったのも同じ理由です。工場/生産のレベルはシーンとかジャンルとか、そういうものを超えている。だからディスクユニオンやタワレコやHMVのような大きなところに混ざって、ぼくらのような小さなレーベルも参加させてしまう。
それにこうした「プレス工場」という切り口のイベントだからこそ、お客さんたちのマインドも普段レコ屋に遊びに行く時よりもオープンな方向に設定されるのだと思います。ぼくらが出してる奇特な商品も、音楽の細かい趣味を超えて、「音楽メディアのひとつのパターン」という大きな括りのなかで受容してもらえる。それはひとえに、工場/生産というレベルで今回のイベントが進んでいたからです。
ところで、ローカルシーンのレーベルやバンドは、細かい趣味の区分けや美学の区分けを設定して、メジャーの世界と自分たちの世界を分けて考えがちで、その細かい区分けに入らないものを無視したり、初めから無関係だと決めてかかったりすることで、あらかじめ自分たちの音楽が届く範囲を狭くしてしまう習性があります。もちろんこういう発想があるからこそ、販売や人気が伴わなくても評価すべき音楽があると素朴に信じることができるわけですが、やっぱりそのことの弊害もたくさんあるわけです。
でも今回のイベントが持つ「レコード=音楽メディア」というある意味「雑」な切り口は、ぼくらのような「趣味の共同体」を日々先鋭化させ、顧客を狭めに狭めているローカルシーンの閉塞感を、もう一度偶然性の方に引き戻してくれた。ぼくらが無関係だと決めてかかっていたような世界にも意外と反応してくれる人がいる、そういう素朴な発見は、まさにメジャーもインディーも関係がない、プレス工場という場所だからこそ発生したものでしょう。
そんなわけで、昨日のイベントは、ぼくらのようなレーベルにとって、ある具体的な「趣味」やローカルなシーンがもたらすフィルタリングを取っ払って、もう一度純粋な偶然性と顧客に出会い直す場でもあったわけです。
イベントを終えてみて改めて思うのは、ぼくらのようなマニアックな作品をリリースしているバンド/レーベルは、諸々のローカルなシーンのあいだに、あるいはメジャー/インディーという区分けのあいだに横たわっている、工場/生産のレベルという根源的な共通性にこうやって思いを巡らすような、あるいはその共通性を「利用」したり、頼ったりするような日がたまにはあっても良いな、ということでした。もちろん、ローカルシーンをどんどん「外」に開いていこうぜ、なんて素朴なことは思いませんが、でもたまに部屋の窓を開けて空気を入れ替えるみたいに、こういうことがあってもいいはずです。
と、こうしたことから、工場を中心にしてイベントをおこなうという取り組みが持つ射程は広いし意義のあることだと思ったという話でした。
マジで2回目も切望しているのですが、東洋化成の人と話していたら設営がめちゃくちゃに大変だったらしいです。とりあえず東洋化成の偉い人は頑張った社員の皆さんにボーナスとかをたんまり出してあげてほしいです。そしてその給料エネルギーで2回目を開催してほしいものです。