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ミエルセカイ
よく寄席で落語を聞いていて思う。咄家さんから見た客席ってどんな感じなんだろう?ウケてる?スベってる?表情とか目線とか反応とか仕草とか、どんな風に見えてるのかな?
職業柄、大勢の人の前で話さなきゃならない機会もわりとある方なので、注目されて喋る人の気持ちがふと気になることがある。
学生の頃は、いつも窓側の一番ウシロの席が定位置だった。先生の目線を回避して教科書で隠した弁当を食べたり、ボーッと窓の外を眺めたりして過ごしているつもりだったけど、いざ自分が喋る位置に来てみると、意外と見えてるもんだった。マヌケだな。
「他人の気持ちになって考える」とか「俯瞰で物事を見る」とか、言うほど簡単なことではないよ、なかなか。
坊主になって、それなりに人前で法話したりした経験のある、まーいちおーマイノリティーになるのかな?聞く方が多数派だと仮定すれば喋る方は少数派なんだと思うんだけど、そっち側の人なら「あー、ハイハイ」って言ってくれるかもしれない噺。
お寺の本堂でも、お仏壇のあるお座敷でも、中央前方のアリーナ席には、ご年配の方や家長など、それなりの人が座られるケースが比較的多いもので、法話の最中は腕組みをしてたり、難しそうな表情で伏し目がちだったり、若しくは目を閉じていたり、反応は薄めだけど、一応コチラに配慮して、最低限度は話を聞いてる風の素振りはしてくれる人が殆ど。これは暗に『コッチに質問したり、話しかけたりすんなよ』オーラを醸し出しているよーに見えるので、なるべく要望に応じるよう努めている。
そういう意味では意外と油断して、そんなに話を聞いてもいないのに、大きく頷いたり反応を示したりするのは、その周辺にいる方だったりする。とは言え、心配しなくてもコチラから話しかけたりはしない。僕も小心者だから勇気がいるうえに、イレギュラーの事態に対応できるような器用さもない。
更に後方席、一見すると僧侶と距離もあり、排他的経済水域を挟んで、セーフティゾーンにいるつもりの人たち。やはり見えている。話はテキトーに聞き流し、影でスマホを触りながら頷いていたりするけど、話の脈絡とは無関係にニヤニヤしていたり、表情まで見えたりする。べつにいーよ。どーでもいい。コッチだって、どーでもいいんだ。僕の話を聞こーが聞くまいが、阿弥陀さまはすくってしまう。無論、質問したり話かけても、聞いてるはずないんだから無駄なことはしない。お互いの為だ、安らかに過ごそう。
なかには目を逸らさず、真っ直ぐにコッチを向いて真剣に法話を聞いておられる方もいて、テキトーな姿勢ではコチラが威圧されてしまうような人もいる。でも、なんだかおっかないので、決して質問したり話しかけたりはしない。
仏前、僧侶の手前、だいたいの人はモジモジと、どこか居心地悪そーな、畏まった雰囲気を感じさせるものだが、時おり、ぶっ飛んだヤツや若気の至りみたいなのがいたりして、偉そーにふんぞり返って、堂々と質問したり大胆にも話しかけてきたりされることがある。そつなく返答できればホッとするが、怖いし困る。「仏とかマジでいんの?」とか「浄土へ行ったことあるんスか?」とか「救うとかウケる~」とか「やっぱ坊主って儲かるんでしょ」みたいな、土足でズカズカと聞いたらアカンよーな話代表みたいなところを、余裕でブチかましてきたりする。正直、羨ましい。まさに、そこにシビれる!あこがれるゥ~!だ。僕にできないことを平然とやってのける。「それを慈悲で受け止める存在は仏だろう」とか「そこが浄土だ」とか「ウケる~とか超救う~」とか「お前が出した分だけな」とか応答してみたい。できんけど。
冗談は扨惜き、先述したモジモジやオドオドして、どこか居心地悪そーな、気恥ずかしそーな態度ってのは、やっぱり畏敬からくるものであって、坊主の場合、それは僕の中身や法話の質よりも、仏教の歴史と伝統の重みが功を奏して、仏法聴聞の姿勢を育み、その躾を施された者だけに許される尊い嗜みの精神と感じ、掌が合わさる。その背景に自然と頭が下がる。
他人からどう見られるかなど気にする必要はないが、他人からどう見られるか意識している自分は見失わないようにしたい。それは単純なナルシズムなどからではなく、人間として育てられた誇りのように感じるのです。またそれは他者を見る時に於いても、尊厳と慈憂を持った眼差しでいられるはずだと思うからなのです。
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