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ゾイドバーサス3 ミッションモード20a 紅き猛虎。決闘の果てに。
かつて、ゾイドバーサス3で遊んだ全てのゲーマー。そして空の青さと風の声を愛する全てのゾイダーに、この文章を捧げる。俺のゾイダーとしての戦いの記録を。
〜〜
これで何回挑戦したのだろう。始めてから何時間経過したのだろう。
そんなことはどうでも良かった。そんなことを考えている余裕もなかった。
手汗で滑るGCコントローラーを握りなおし、おれは、スクリーンに表示された「MISSON FALED」の文字をボタン一つで消滅させる。そして、暗転した映像の中から姿を現した一体のゾイドを見つめた。
レイズタイガー。
ゾイドバトルストーリー「三匹の虎編」の主役にして、今挑戦しているゲーム、ゾイドバーサス3のストーリーであるミッションモードでの相棒だ。
虎型。全長20.5m。全高7.56m。重量87トンの蒼きハイテクゾイド。
ミッションモードを始めると一番最初に手に入る機体だが、そのスペックはゲーム内トップクラス。
走攻守揃った能力値とクセのない操縦性と、充実したオプションパーツであらゆる状況に対応できる柔軟性を兼ね備えた主人公機に相応しいゾイドだ。
俺はこいつと共に、この調整がガバガバで理不尽のオンパレードなゾイドバーサス3という戦場を駆け抜けてきた。
単純にクリアだけなら簡単だ。だが、このゲームを真に制覇するためには、全20のステージを評価sランク判定でクリアしなくてはならない。「自機と僚機の体力を8割残した状態でミッションをクリア」しなければならないのだ。
これまで突破したステージはどれもロクなステージじゃなかった。
常に一対三の数的不利な状況に放り込まれ足を止めれば袋叩き。役に立たないどころか誤射や無謀な特攻で足を引っ張る僚機。死角から飛び出してきて体力を2割持ってく自走爆弾。
3D対戦アクションでここまで苦しい思いをしたのは久しぶりだった。フロムゲーだって女神に思える。
だが、このステージ20aをクリアすれば全てが終わる。
終わらせたのなら、俺は全ステージsランククリアの称号を得て、ゾイドを愛するゾイダーとしてさらに箔をつけることができる。
小さな名誉だ。金にならなければ、何かのチャンスに繋がるわけでもない。あるいは、プライドが見せた安い幻想なのかもしれない。振り返れば、無駄なことだったと呆れる日が来るかもしれない。
だが、今はそんなのどうだっていい。
逃げなかったこと。投げ出さなかったこと。戦い続けてそして勝利を得たこと。
そこから見出せる、自己肯定感。即ち、自信さえ得られればそれで良かった。
プライドとサクセス。それを得るための、戦いだった。
俺は、スクリーンに映し出された格納庫に鎮座するレイズタイガーをもう一度見つめる。
調整は完璧だ。ヤツを倒すための戦術も「さっき」完璧に構築した。
後は、繰り返すだけ。勝つまで何度も繰り返すだけだ。
……せっかくだし、機体のカラーを変えておくか。別に能力が変わるわけではないが、気持ちが変わるかもしれない。そう考えた俺はいくつかのボタンを操作して、蒼い機体色を、自分の好きな赤色に変えた。
燃え上がるような、炎の赤だ。うん。これがいい。なんかいける気がする。
俺は一人頷くと、フッーと息を吐いてGCコントローラーの3Dスティックを動かして「BATTLE」にカーソルを合わせた。
願わくば、これで終わらんことを。何度繰り返したか分からない祈りと共に、俺はコントローラーのAボタンを強く押し込んだ。
〜〜
乾いた砂漠が眼前に映し出される。眼前に敵の姿は無く、ただただ黄色い砂の海が見えた。
自機の真横には、この最終決戦を共に戦う僚機の姿が現れた。黒いボディを持つ漆黒の虎型ゾイド、ブラストルタイガーだ。
全身に誘導性能と火力に秀でた火器を多数搭載したゾイドで、こちらもこのゲーム内で上位のスペックを誇る機体の一つだ。
レッドホーンやカノントータスなど砲戦能力に特化したゾイド達を凌ぐ火力を有しながらも、並の高速戦闘ゾイドよりも高い機動力を持ち合わせている。多少旋回性能の低さは目立つものの、格闘能力も高い。
常に自身の有利なポジションに移動して、一方的に高火力の兵器で対象を焼き尽くす。僚機としてこれ以上は望めないだろう。
だが、悲しいかな。いくら優秀な機体であろうと、パイロットが無能ではどうしようもないのだ。
断言しよう。コイツは敵だ。僚機とは名ばかりの悪魔だ。sランククリアを目的とした場合、最大の障害になるといってもいい。
その理由を説明しておこう。
前述した通り、このミッションモードで最大評価であるsランクを取得するためには自機と僚機の体力を8割残さなければならない。
ほぼノーダメージが前提となるこの時点でも難易度が高いが、問題はパイロット。即ち味方AIの頭脳だ。
これが、どうしようもない間抜けなのだ。おつむが弱い、という言葉ですら生ぬるい。
敵機の射程外から援護射撃に徹してくれれば良いのに、無闇に近づいては反撃をもらう。当然、こちらから指示を出すことはできない。
それどころか、このAIは敵味方の識別に何かしらの異常を抱えている。仮に自機を隣接した場合、なんと、「こちらに攻撃を加えてくる」のだ。
つまり、ブラストルタイガー自慢の高威力の火器が容赦なくこちらにぶっ放されるワケで、誤射にもダメージ判定のあるゲームシステム上、sランククリアの妨げになるわけだ。
何十、何百と繰り返した戦いの中で背中から撃たれた回数は数え切れない。敵どころか、味方の位置も常時把握しなくてはならないという理不尽さが、このミッションの難しさに拍車をかけていた。
難しい。ああ。なんと難しい。だが、俺は進む。それだけだ。
「もう、やられてたまるものか」
そうつぶやくと、俺はコントローラー握り直す。刹那、何度繰り返したか分からない最後の戦いのゴングが鳴らされた。
僚機よりも先手を取る。
俺はコントローラーの3Dスティックを倒し込んだ。
走り出した自機(レイズタイガー)は追加入力で展開されたブースターでさらに加速する。
鋼鉄の猛虎が280キロを超えるスピードで砂漠を突き抜けていく。獲物はただ一つ、この先に見える「ヤツ」だ。
2秒走らせると、右上のレーダーに敵ゾイドの位置を示す赤い点が浮かび上がり、同時に自機のセンサーが獲物を捉えた。
トリガーを引く。
事前に選択しておいたレイズタイガーの装備、ピンポイントレーザーキャノンが火を吹いた。
機体の両肩から8本の光が放たれ、砂塵を突き抜けてターゲットへと集束する。
ヒット。
確かな手応え。頭で考えなくても経験で分かる。分かってしまう。
自機を走らせながら更に攻撃。いずれも直撃。ブースターの噴射を止めつつなおも前身。
やがて、視界の向こう側に大きなシルエットが浮かんできた。巨大な爪、太い両足。禍々しき眼光。
その腹部から放たれたレーザー砲の光を動線上から機体をわずかにずらして回避すると、俺は視線の先に現れた敵の姿を睨みつけた。
メガザウラー。
超弩級ゾイドに分類されるデスザウラーの系譜にして、オリジナルを凌駕する本作最強のデスザウラー。
紅白に染め上げられた装甲は通常ゾイドの格闘攻撃を無効化する上、射撃戦になれば全身に装備された火器が異様な精度の迎撃を行う。まさに、絶望的な存在。
あの悪魔の足元には、奴によって砕かれ散っていったレイズタイガー達の骸が眠っているのだ。
「さあ、次はお前の番だ」
そう言わんばかりに、メガザウラーの口が大きく開かれる。口腔内から眩い光が漏れ出し、山のような体がゆらりと前傾姿勢を取った。
荷電粒子砲!!
俺は、冷却を終えたばかりのブースターを再度点火し今度は右斜め前へと大きく機体を動かした。
直後、先ほどまでレイズタイガーのいた場所を光の奔流が飲み込んだ。まさしく紙一重、直撃すれば自機は確実に瀕死に追いやられただろう。
だが、奴の予備動作から荷電粒子砲が飛び出すタイミングを文字通り「体で覚え込んだ」俺にはもう通用しない。むしろ、これは好機だ。
発射体制を取ったままのメガザウラーの左脇を駆け抜け、俺は自機に素早くコマンドを送る。
スライドターン。通常ゾイドの戦闘機動。4つ足から火花を散らし急制動かけつつ急転換を行ったレイズタイガーは、メガザウラーの左斜め後ろから無防備な背中に向かってピンポイントレーザーキャノンを発射した。
ヒット。ヒット。ヒット。
3度の攻撃が全弾命中し、ターゲットカーソルの真横に表示されたメガザウラーの体力ゲージがわずかに下降した。
やはり、硬い。だが、これでいい。
メガザウラーの体力はカンスト+a。つまり、これで体力ゲージに表示されない分の耐久力を削り切った。
何より位置だ。この位置がいい。
レイズタイガーの位置は、メガザウラーから見て左斜め後ろ。ここはメガザウラーの死角なのだ。ここに陣取る限り、奴の攻撃は当たらない。
これぞ、俺の構築した対メガザウラー攻略の第一段階、「虎の影踏み」だ。
メガザウラーは旋回し背中に装備された機銃で迎撃を測るが、機動力はこちらに部がある。間合いも完璧だ。
メガザウラーが右に旋回すれば、こちらも右に動いて銃撃。
ヒット。
メガザウラーが左に旋回すれば、こちらも左に動いて攻撃。
ヒット。
焦らず、確実に削っていく。そうだ。まだ焦る段階じゃない。まだ運が必要な時じゃない。
巧みにメガザウラーの背部ビーム砲の射程圏内に入り込み、背部ビームによる攻撃を誘発させつつ攻撃を加えた。そう。これでいい。背部ビームで攻撃し続ける限り、ヤツは他の武器で攻撃できない。間抜けは僚機だけじゃない。
メガザウラーの体力ゲージが9000を切った。気持ちがいいほど攻撃がささり続ける。
そして、対メガザウラー攻略の第二段階へと移行する時が来た。
奴の体力が8000を切ると共に俺は、装備を素早く切り替えた。レイズタイガーの背負ったユニットがほのかに発光を始める。
レーザーネスト。背中のユニットから放たれた高濃度レーザーで対象を射抜くレイズタイガーのメインウェポン。
その第一射がメガザウラーの死角から放たれた。
ヒット。
いいダメージだ。先程のレーザーとは一撃の重さが違う。苦し紛れに放っていた全身の火器がピタリと止まり、メガザウラーが大きくのけぞる。
奴が姿勢をただすのを確認しつつ、俺はカウントを開始する。
2。
ヤツが旋回を始める。
1。
ヤツの機銃の銃口が光る。
0。
次の瞬間、俺はレーザーネストから第2射を放った。
ヒット。
再びメガザウラーがのけぞった。
成功だ。俺は口の端を上げた。対メガザウラー戦術の第二段階、「虎の腰折り」が成功した瞬間であった。
レーザーネスト。この装備をレイズタイガーの主力武器たらしめているのは、その火力だけではない。攻撃を当てた対象にほぼ確実に発生するノックバックこそがこの装備最大の特徴なのだ。
ゾイドバーサス3。このゲームにはある一定の高ダメージを与えた場合、ダメージを受けた対象がダウンし、ダウン復帰直後に無敵時間が発生する仕様がある。
このいわゆるハメを阻止するためのシステムはメガザウラーにも適用されるのだが、通常ゾイドと超弩級ゾイドの場合は少し事情が異なった。
復帰と同時に敵機体へ自機を対面させられる前者に対し、後者はその巨躯のせいで、ダウンした時の方向のまま復帰を行なってしまうのだ。
つまり、一度ダウンしたメガザウラーは姿勢を立て直すことに成功しても無敵時間が消滅する数秒の間に死角に陣取った敵機と対面することができない。位置関係が修正出来ない以上、無敵時間が途切れた瞬間に再度の攻撃を許してしまう。
反撃を試みるたびによろけさせられ、腰を折られる。超弩級ゾイドの欠点を突いた合法ハメ技。これが、「虎の腰折り」なのだ。
メガザウラーが体勢を立て直す。2秒待ってレーザーネスト発射。
ノックバック。
メガザウラーが再び体勢を立て直す。2秒待ってレーザーネストを発射。
ノックバック。
何十、何百のレイズタイガーの犠牲によって練り上げられ、完成したハメ技が、着実にメガザウラーの体力を奪う。
残り体力7000。
決して、慢心しない。そして、罪悪感も抱かない。正々堂々などという言葉はこの戦場に存在しない。勝てる手段はなんでも使えばいい。
自機と僚機を守り抜かねば到達できないsランクという領域に至るために、俺は戦術と共に自己を最適化していた。余計な感情を捨て、余計な躊躇いも捨て、雑念を完全に切り捨てていた。
ただこの一瞬を切り開く。鋭敏な刃の如き心で俺はメガザウラーを無間地獄に叩き込んだ。
メガザウラー。残り体力6000。
気持ちいいほどハメ技が決まる。だが、決して慢心はしない。虎の屍達が、それを許さない。
それに、まだ「アレ」が来ていない。「アレ」が来るまでは決して油断は出来ない。
来い。
5500。
来い。
4500。
来い。
4000。
刹那、メガザウラーの両腕から煙が立ち上がった。
来た!!!
全細胞が沸騰する。臍の下の丹田が締まる。この時を俺は待っていた。
メガザウラーの腕から放たれ飛来する「アレ」を俺は自機を大きく動かして 避けた。
追尾ミサイル。CPUの操るメガザウラーの最も凶悪な装備。
一度、発射すると鬼がかった軌道を描いて襲いかかる追尾性能のイカレた壊れ装備だ。幸いにもミサイル単発の威力は低く、当たってもせいぜい2分か3分なのだが……
目を剥く俺の前で、更にミサイルが放たれる。その数、実に十発以上。ミサイルはそれぞれ自機と、僚機ブラストルタイガーめがけて襲いかかった。
これだ。このイナゴの大群の如く飛来するミサイルが最も恐ろしい。
俺が避けるだけなら簡単だ。メガザウラーに体当たりし、メガザウラーの格闘無効の特性でノックバックして無敵時間に入ればいい。だが、そうなると、ミサイルは僚機、ブラストルタイガーに殺到してしまう。
当然。敵と味方の区別もつかない残念なAIで捌けるはずもなく、全弾直撃してしまうのだ。このミサイルのせいで過去ブラストルタイガーが10機はスクラップになった。
現時点で取れる最善の手段は一つ。メガザウラー対策の最終段階「虎の骨折り」すなわち、ミサイルのマルチロックオン機能を逆手に取ってミサイルを一発でも多く自機に誘導し、レーザーネストによるノックバックを決めてミサイルを中断させる。これしかなかった。
なおもミサイルを発射しようとするメガザウラーに標準を合わせ、レーザーネストを発射。
ヒット。
メガザウラーが体を大きく退け反らせ、ミサイルの発射を中断した。
やった。だが、遅かった。
先に放たれたミサイルに続いて、更に15発のミサイルが放たれた。こうなるとどうしようもない祈るだけだ。
南無三。
限界まで引きつけたミサイルの直撃を避けるために、俺はメガザウラーに体当たりを仕掛ける。
衝撃。吹き飛ばされ大きく揺らいだ視界の端で、ブラストルタイガーにミサイルが殺到する。いずれも直撃。左下に表示されたブラストルタイガーの体力ゲージが8割2分まで削り取られた。
凌ぎ切った。だが、次はない。
メガザウラーの体力は残り3割。こちらに残された体力は2割あるかないか。
まさに最後の、ギリギリの戦いだった。
次のミサイルが放たれれば、ブラストルタイガーのせいで負けるかもしれない。このまま精神の均衡を保てずに、メガザウラーの正面に飛び出してしまうかもしれない。
不安が次々飛び出しては消えていった。
鼓動が高鳴り、周りの余計な音が次第に遠ざかっていく。呼吸の感覚さえ忘れて、視界が微妙に狭まった。
苦しい。辛い。だが、気持ちいい。
脳内麻薬が分泌されているのが分かる。何か、今まで脳を縛り付けていた制約が解かれるような、不思議な浮遊感を俺は感じ始めていた。
ああ。見える見えるぞ。レーザーネストの放つべきタイミングが分かる。5秒先の未来まで見える。メガザウラーの次の攻撃は……ああ……その先までも……肉体の動きはそのままに、俺の意識は駆け出していた。
このままいけば、メガザウラーを倒せる。このまま、このままでいいんだ。
全てが手にとるように分かった。どうすれば良いのか考える必要もなかった。
意識は加速する。
このゲームを始めてから、今1番上手くレイズタイガーを扱えている。根拠などないが何故か確信があった。
意識は更に加速する。
そして、視神経の映し出せない領域。脳の奥底に宿る何かが俺にビジョンをもたらした。
その、ニューロンが見せる幻の中で俺は、メガザウラーを倒し喜びに浸る自身の姿を知覚し、そしてその姿を追い抜いていた。
それこそが、ゾーンを超えたその先。確定していない未来に踏み込み、その可能性を現実のモノとする神の領域だと。そうこれこそが、限界を超えた究極の領域……真の最終段階
「虎の行く先」
ああ。とんでもないところに来てしまった。俺は、ここにまた来れるのだろうか。いや、心配することはない。何故なら……ここは……
悟ってからは全てが一瞬だった。
まるで巻き戻しのように意識が肉体へと引き戻されて意識が戻り、そしてその瞬間押し込んだコマンドがコントローラーを介してレーザーネストを起動させ、最後の一撃をメガザウラーに叩き込んだ。
ヒット。
俺を数時間苦しめ続けてきた魔獣がゆっくりと横たわる。爆発。メガザウラーは断末魔の一つも挙げずに動かなくなった。
ファンファーレが鳴り響き、プレイヤーキャラが歓喜の声を挙げた。
そして、画面に映し出された文字は……
「MISSON RANK "S"」
望んでいた、未来の姿だった。
やった。
やったぞ!!!
俺は、腕を震わせ叫んだ。
終わった。ついに終わった。
長く苦しい戦いが終わり、ミッションモードをオールSでクリアした俺は願い通り、ゾイダーとしての箔をつけ、自信をつけることに成功したのであった。
この誇りを胸に、俺はもっと高くへ、もっと遠くへ行こうと思う。これは、そのための記録なんだ。
おしまい。