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『近代日本の文学史』伊藤整

『近代日本の文学史』夏葉社

 夏葉社の本は良い。良いからこそ、飛ぶように売れることはない。長い時間をかけて版を重ねていく。出版不況といわれるいま、出版点数だけが増えていく自転車操業の出版社が多いなかで稀有な存在だ。

 文学史を勉強したいと思い、何か良い本はないかと探していたところ、編集者の友人に勧めていただいたのが本書だった。本書も例に漏れず、じわじわと版を重ねているようだ。2012年の刊行から約10年が経って3刷。書店員という身としては、こういう本を大事にしていきたいと切に思う。

 全体を通して、著者の主観的な意見が顔を覗かせることは少なく、淡々と時系列に沿って描かれている。とくに江戸末期から明治までは、英文雑誌で連載された文章がベースになっているため、日本文学に馴染みのない者にも理解できるように書かれており非常にわかりやすい。巻末に人名索引があるのも嬉しい。

 ちなみに、本稿に載せている書影はAmazonのものだが、私の手許にあるものと装丁のムラの出方が違うことにたったいま気づいた。もしすでに本書をお持ちの方は見比べてみてもおもしろいのではないだろうか。


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