恋で死ぬのは映画の中だけよ
あなたとの週末がとてもたのしいせいで平日は、次の週末までの虚しいがらんどう。がらんどうを埋めるひび。
あなたがロンドンに行く2年はとても長い、人が愛しあうにも、愛しあわなくなるにも充分すぎる。愛しあう時間が失われることと、愛しあわなくなる可能性が高くなることの関係の深さを、考えても仕方ないけど。仕方ないなら考えない方がいいけど。考えないとあなたへの愛が減りそうだから考えたいけど。
そうして、シェルブールの雨傘を見る。ふるいフランス映画は、普遍的で仕方ない愛よりも、いちどきりの詩的な愛を映していそうという偏見のもと。
事前にえたところだと、それは愛の映画で、すべてのセリフが歌われるように流れる。たぶんハッピーでラッキーでウッキーな、愛のいい側面だけを映した映画。愛について考えない方がよくても愛に関係したいときにいい映画。
金髪をたかく結んだ傘屋のむすめ・ジュヌヴィエーヴ、はじめての愛に浮かれちゃって踊っちゃって、ねえ17歳だけど結婚したいわ、子供につけたい名前だってあるわ。こういうのこういうの、現実ではまっぴら、映画ならたのしい愛の思考停止!お金がとか、愛情の減退がとか、人生計画がとか、ほっぽってしまえよ愛に狂えよ!
途中まではそうしてたのしかったの。
でも、愛するギイ、2年間の兵役に行っちゃった。お腹にギイの赤ちゃんできちゃってた。お金がないジュヌヴィエーヴ、宝石商の人と結婚しちゃった。帰国後はじめは荒れたギイ、支えてくれた人としあわせな家庭を築いちゃった。
わざとらしく映画的に歌われながら妙に「有りそう」。ハッピーでラッキーでウッキーに思考停止するはずが、わたしたちへいぜんと別離して他人と密着する世界線の思考開始。
傘屋のむすめのママが言うことには、
「恋で死ぬのは映画の中だけよ」
愛だ恋で死ぬのが映画なら、愛だ恋で生きるのが実存よ。実存には温度がある。温度には生がある。温度のないじぶんをおもうとふるえあがる、もうだれとも密着せずにはいられない。だれかの体温にねむりたい。わたしに流動する体温が、わたしの子守唄が、わたしの生が、ずっとあなたのものならいいとおもう。
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