「共感」と「ヤドカリの殻」の罠。
本文は最後まで無料です。オマケがあります。
(これの続き、みたいな文章です)
これはいつかの自身への批判でもあるし、あまり多くはないと思うが、少なくはない読者への批判でもある。「共感」を起点とした信仰。その危険性について実際にぼくが学び、考えを改めたことだ。
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ひとが「最高の思想だ!」と感覚的に判断するのは、そのひとがすでにボンヤリと考えていたことを、より明らかに、より物語じみた形で、それを提示したものにすぎない。
このときの「最高の」という形容詞は、けして「より多くの重要な領域における無知を埋めた」という部分にかかるのではなく、ただ「お気持ちゲージへの献身」にかかる。それは本質的な変化をもたらさない。
先日、自らを「反出生主義者である」と称した人が、「生まれない方が幸せだった」と言っていた。
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反出生主義とは、「生は苦しみであるし、死も苦しみであるから、どちらも存在しえないように、感覚があるもの(定義は不明)はすべて生まれるべきでない」といった思想らしい。
ものの3分ほど、専門家の文書に目を通すだけでも、「わたしは生きるのがつらい」の言い換えにすぎない、個人的な「生まれない方がよかった」という感情は、少なくとも論理的な破綻にはめっぽう煩い学術の世界における「反出生主義」とは全くべつの議題であることがわかる。
反出生主義は「功利主義」の一派のようで、つまり「社会のありかた」とか、そういうマクロなテーマをあつかう思想だ。
つまり、ぼくが思うことはこうだ。
ひとは「それっぽく自分のお気持ちを代弁してくれる、なにか高尚な思想っぽいもの」を脆い精神を隠すヤドカリの貝殻にしたがる。これを共感信仰と呼ぶことにする。自称・反出生主義者の「歴史なき思想」の正体だ。
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そもそも、よほどの知性と、よほどの染色体異常なしに、思想なんてものを一から構築できる人間はいない。だから、(それが無自覚であれ)すでにある思想にライドするのは自然のことだし、そのために、「古典」のインストールに10年を費やさせる現在の制度は利にかなっている。
けれども、「彼ら」は違った。自称・反出生主義を名乗るひとたちは、ぼくが3分で把握した議論すらも、「そんなものは繰り返されてきた揚げ足取りにすぎない」といって、まともに反論することができない。そんな「繰り返されてきた揚げ足取りに最適に対応できない思想」なのが、焦点だと思うのだが・・・。それもそのはず、異常なほどに若年層が多い。なかには「15歳」を自称するアカウントもいくつかあったのだ。
つまり、彼らは「反出生主義」の殻をかぶったヤドカリにすぎない。彼らは「反出生主義」の文献なんて殆ど読まないし、論文を書くこともないだろう。ただ「わたしの人生はつらい」「生まれないほうがマシだった」というお気持ちを、包括してくれそうな殻をたまたま見つけたにすぎないのだ。殻にこもるのがヤドカリであって、殻はヤドカリではない。
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ぼくはここに危険性を見ている。自称・反出生主義者は一例にすぎないけれども、「わたしの問題」を直視することが億劫であるあまり、それを外部に放り投げて「まるで最初からなかったかのように」してしまう行為は、社会においてはまだしも、確実に個人においては何も本質的な変化を生み出さない。
ただ、その「蓋」の下で無限の地獄は繁殖しつづけ、いつかは「蓋」を怒りの噴水と供に吹き飛ばす。自体は、わるいほうへ、わるいほうへ、と進みつづけていくのだ。
思想を構築する必要のない人生のほうが「生きやすい」に決まっている。そして、ありがたいことに、社会はそれを殆どのひとに提供してくれる。
思想を構築しなくていいし、これといった主義主張の存在を自身のなかに意識することなく(沈黙は最大の同調だが)、生きていける。
いやなこと、全部やめても生きられる。これは単なる事実であり、それを社会は許容している。少なくとも、2021年現在の日本においては。
だがしかし、社会は「じぶんの人生」が「いやなこと」になった人生に関して、なにひとつ対応策をもたない。自ら死のうとする人間を規制する法律はないし、そして自ら死んだ人間は、(芸能人や、パンダの)交尾と同列にあつかわれ、棺桶に入れられて、ともに記憶の焼却場へと葬られる。
言い換えるなら、死にたい人間には死ぬ権利がある。宗教なき世界に、公的な「魂の救済」は存在しないのだ。
いやなこと、全部やめても生きられる。けれども、じぶんの人生は例外なのだ。人生がいやなことになったなら、死ぬしかない。
生きていきたければ、人生を「いやなこと」にしないために、「生きていたい」と思えるまで、いやなことをやめていかなければならない。
幸い、こういった文章を読んだり、「反出生主義」に傾倒しているひとのスタンスは、それ自体が「生きていたいこと」をすでに示している。すごく死にたいひとはもう死んだし、これから死にたいと思っているひとは、こんな何の「自殺ハウツー」も含まない文書を読むことはないだろうから。
最後に、「今回のツイッター僕的まとめ速報」と、これは経済的、個人的人生観以外に、なんの根拠も持たない意見をオマケ部分に書いておく。うっかり「共感信仰」されても嫌なので、オマケに書いていく。あくまでこれは「ぼくの考え」と「ぼくの切り取り」だ。
今日のTips①
・「主義を唱える」のは結構大変なことだよ!
・「共感」は「共感」でしかないよ!
・嫌なこと全部やめても生きられる。
(けど、死にたいやつは無理だよ!)
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