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『未開の地』【ショートショート】

「知ってるか? この世界には近づいてはいけない場所があるらしいんだ」
「なにそれ。めっちゃ面白そうじゃん」
 二人は、周りにはなにもない、だだっ広い場所で、雑談をしていた。
「今度そこに行ってみようかと思う」一人は冒険家だった。
「おい。近づいちゃいけないんじゃないのかよ」もう一人は無職だ。
 彼らは子どもの頃からの友達で、冒険家の彼が出発する前と後に、無職の彼のもとへ会いに行くのが恒例となっていた。
「行ってはいけないところに行くのが冒険家ってもんだろ?」
「まあそうだけどさ。大丈夫なの? 心配だよ」
 無職の彼は自他共に認める心配性で、冒険家の彼も二人で冒険に行こうと誘っていたが、何度誘っても断られ、仕方なく一人で行っていた。最近は誘われることすら無くなっている。
「大丈夫だって。なんでも、そこに住む民族は外部との接触がほとんどないらしい。だから文明も昔からほとんど発達していないんだって」
「それは興味あるけど、そもそもどうやって近づくんだよ」
「やっぱり船しかないだろうな。でも、過去に船で近づいた人は攻撃を受けたんだとさ」
「心配だなー。無理だけはしないでよ?」

 もう長い間、船からは同じ景色しか見えなかった。未開の地なんてものは全てデタラメで、本当は存在しないのではないかという思いが、冒険家の彼の頭を占領し始めている。彼はもう一度、資料を隈なく読み込んだ。
 その時、遠くの方で微かに色が見えた。それは次第に大きく、また鮮明になっていく。彼は船の速度を落として慎重に近づく。「これなら人間が住んでいてもおかしくはないな」
 宇宙船が白い雲を突き抜けると、青を纏った惑星から、緑や茶が浮かび上がってくる。そしてついに、彼は未開の地へと降り立った。そこは、ディスプレイやネオンサインに囲まれた、賑やかな街のビルの上だった。
「宇宙にこんな場所があったなんて」
 彼は、現代文明を一切排除した人々の暮らしに、少し恐怖を覚えた。

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