経路依存性へのチャレンジ #56
「経路依存性」という概念があります。
この「経路依存性」は、企業組織内にダイバーシティやDXなどの変革を起こそうとする時に立ちはだかります。
「経路依存性」とは、
個人や組織が過去の経緯や歴史によって決められた仕組みや出来事にしばられる現象(過去の決断の制約を受ける)
と説明されます。簡単に言えば、「慣れてることの方がいい」という感じでしょうか。
この「経路依存性」は、いわゆる「ルーティン」と関係しています。
「ルーティン」とは、「ルーティンワーク」などと表現され、個人の行動では「出社したらまずメールをチェックする」などの習慣として表れます。
定義としては、
繰り返し行われ、しかし状況によって変わることもある、行動パターン
となります。
企業組織においては、「ルーティン」は「暗黙知」と「形式知」に影響し、
組織メンバーが同じ行動を繰り返すことで共有する、「暗黙知」と「形式知」を土台にした行動プロセスのパターン
と定義できます。
つまり、「ルーティン」とは、「繰り返される行動パターン」のことです。組織メンバーの思考や行動がパターン化して組織内に根付いている状態のことです。「組織文化」として認識される場合もあるかもしれません。
この「ルーティン」は企業組織の中で、様々な形となって表れます。
「ルーティン」そのものは決して悪いことではありません。「ルーティン」として行動パターンが組織内に根付くことで、業務が効率化されると共に定着化し、円滑に回るようになります。また、その結果生じる時間的余裕が次の学習機会に繋がります。
問題は、この「ルーティン」が組織の中でいろいろな要素としてそれなりに合理的に絡み合って存在しているために、一部の「ルーティン」を変えようとしても他の「ルーティン」の抵抗にあって、うまく変化が起こらないところにあります。
例えば、これまでの日本の企業組織は、プロパーの役員を中心に組織構成員が同質的であったために(例えば、役員は50代以上の日本人男性)、終身雇用、年功序列の評価・報酬制度、新卒一括採用といった仕組みがそれなりに合理的に絡み合って成り立ってきました(経路依存性)。
そのため、ダイバーシティ経営を実践しようと、女性管理職を増やそうとしても(一部の「ルーティン」だけを変えようとしても)、他の要素が邪魔をしてなかなかうまく行きません。
その結果、ダイバーシティに取り組んでも意味がないといった誤った認識が生まれる結果を招いてしまうことになります。
よくよく考えれば、同質性を前提としている仕組みの中に、一部だけ多様性を取り入れようとしてもうまくいかない(期待する効果が得られない)のは当たり前とも言えます。
本来は、ダイバーシティ経営を実践するのであれば、その目的を皆に腹落ち(センスメイク)させて、採用から評価・報酬、働き方、職場環境等の人事を取り巻く要素の全てを多様性(ダイバーシティ)を軸とした仕組みに変えていかなればなりません。
DXも同様です。DXで企業変革を目指すのであれば、一部の「ルーティン」のみデジタル化してもうまく行きません(そもそもそれはデジタイゼーションであり、DXとは言わない)。
DXに取り組むのであれば、自社のビジネスプロセスのデジタル化は当然として(デジタイゼーション)、デジタル技術によるビジネスモデル変革(デジタライゼーション)や組織・人材のマインドセット、スキルセットなど全てをデジタルに対応したものに変えていく必要があります。
この「経路依存性」が、日本の近年の経済成長の足枷になっていると指摘する人もいます。
新型コロナは、多くの人や組織に経済的にも精神的にも大きなダメージを与えましたが、その一方で「経路依存性」を克服するきっかけも与えてくれました。
働き方改革は強制的で、テレワークも定着化しつつあります。そうすると時間給ベースの報酬は消え、成果主義、ジョブ型雇用が中心になってきます。従来のメンバーシップ型雇用も見直さざるを得なくなります。
また、デジタル化のおかげでいろんな人がつながり、個人のネットワークも広がりをみせています。今後はパラレルキャリアや副業、転職が増えると予想され、会社と個人の関係性も大きく変わらざるを得ません。
要するに「経路依存性」にこだわっていてはやってられなくなるのです。
これから数年が勝負だと思います。ここでダイバーシティやDXで全てを根本から変えられる企業組織はイノベーションで新たな変化、付加価値を生み出し、次の時代にも前進することができるでしょう。
逆に根本から変えれない企業組織は競争に敗れ、市場からの撤退を余儀なくされる可能性が高まります。
「経路依存性」へのチャレンジが今後の企業組織の命運を左右すると言っても過言ではないと思います。