11歳のまなざし(翡翠を探す旅 part4)
「僕もいく」
2023年、真夏。
今回の糸魚川遠征は、
この言葉から始まった。
毎日楽しそうに石を眺めている
父親の姿を見て何かを感じたのだろうか。
息子ちゃんも一緒に行くことになった。
小学生最後の夏休み、
息子ちゃんに
最高の思い出を作ってあげよう。
それが、父親である私の
夏休みの宿題である。
当日は、
早朝4時に出発。
助手席の息子ちゃんの顔を見ると、
表情がキラキラ輝いている。
こんな暗い時間から旅行に出かけるのは、
息子ちゃんにとって新鮮な体験だったようで。
関越道を過ぎて上信越道に入ってからも、
テンションが高いままの息子ちゃん。
ずっとルパン3世のオープニングテーマを歌ってた。
とはいえ、歌い疲れたのか、
更埴ジャンクションを
過ぎたあたりから熟睡し始めた(笑)。
午前10時前には、
糸魚川に到着した。
早速、翡翠拾いに行くことに。
親子ともどもテンション高め。
まずは歌へ。
超快晴。夏らしい陽気。
息子ちゃんにも、手作りヒスイ棒を渡す。
久々のこの感覚。
毎回そうだけど、数ヶ月ぶりの海岸に
足を踏み入れる瞬間は興奮がマックスである。
「翡翠を探しにいきましょう〜」
YouTubeでおなじみ、
ジョイテックの劉ちゃんの
掛け声を真似する息子ちゃん。
この日は、
波が穏やかで海底の石も見やすかった。
私が大きめの石を狙っている中、
息子ちゃんは小さな石ばっかり探していた。
「パパ、見て!」
息子ちゃんが緑色の小石を持ってきた。
見てみると、初心者が拾いがちな
キツネ石の感じではない。
これは翡翠かも。
ビギナーズなんとかってやつか。
「翡翠かもね。もっときな」
嬉しくなった息子ちゃんは
テンションが上がり、
ますます翡翠探しに集中し始めた。
肝心の私は、大物狙いだったせいもあり、
確信できる石が拾えないまま午前中が終わった。
ランチは、お馴染みのラーメンショップ。
息子ちゃんは、ラーメンを食べながら
拾った石を嬉しそうに見つめていた。
ランチ後は、
翡翠のお店「みどり店」へ。
息子ちゃんが拾った石を見てもらおう。
見てもらった結果、
息子ちゃん、なんと、
歌で翡翠を2つも拾っていた。
サイズが小さいが色や透明感など
なかなかのものだという。
ちなみに私が拾った石は全て、
非ひすいであった。
こうなったら現金採取である。
小さな翡翠を購入して
みどり店を後にした。
その後は押上海岸へ。
直射日光が肌に刺さる。
暑すぎて、すぐにへたった。
日焼けで首と腕がヒリヒリした。
炎天下の中の翡翠探し。
ちゃんと対策しておけばよかった。
「ねえ、いつまでやるのぉ?」
息子ちゃんガス切れ。
少し飽きてきたようだ。
二人とも集中できず終了。
夜は、たまたまやっていた
地元のお祭りへ。
地元の人たちがたくさん集まっている。
浴衣を着た家族づれが
ウキウキした表情で海に向かっている。
糸魚川はこんなにも人がいたのかと驚いた。
懐かしい夏の感じがした。
須沢付近がお祭りの会場だったが、
駐車場はどこもいっぱいで停められなかった。
車の中から花火を見て終了。
結局ホテルにトンボ帰り。
2日目
この日は、朝から市振海岸へ。
昨日と同様、ピーカン&凪の海。
美しい翡翠が上がることで
知られる市振海岸。
無意識に、目が
キレイなものばかりを
追いかけてしまうので、
当然のことながら見つからない。
私がゆっくりじっくり石を見ている中、
息子ちゃんは、市振海岸の
奥へ奥へと進んでいく。
「◎☆△□〜」
しばらくすると、
息子ちゃんが、海岸の向こうの方から
こちらに向かって何か叫んでいる。
何か見つけたのかな?
ゼーゼーハーハー言いながら
海岸を急ぎ足で歩く。
やっとのことで
息子ちゃんのところまでたどり着く。
しかし、もったいぶって手のひらから
石を出さない息子ちゃん。
「ねえ、見たい?」
「そんなにいいやつ拾ったの?」
「うん」
「どんなの?」
「結晶がキラキラしている黒と緑のやつ」
「ほんとに?」
黒と緑といえば、
金山谷の翡翠ではないのか!?
金山谷とは、青海川上流にある場所であり、
糸魚川翡翠のブランド採掘地の一つである。
「見せてよ」
「後から」
結局、車に戻るまで
見せてくれなかった。
ならば、海岸で呼ぶんじゃない。
車の中で見せてもらったその石は、
細かい結晶が輝いていて
重厚な感じの色合いだった。
あ、私ですか?
ええ、察しの通り、
何も拾えませんでした。
市振の後は富山方面へ。
宮崎海岸前のヒスイテラスには、
石を鑑定してくれるおじさんがいる。
息子ちゃんはルンルン気分で
おじさんにその石を見せに行った。
見せる石が特になかった私は車で待機。
しばらくして
息子ちゃんが戻ってきた。
「おじさんがね、何か変なこと言ってる・・・」
「何て言ってたの?」
「これヒスイじゃないって」
「どういうこと?」
「おじさん間違ってると思う」
「えっ、ちゃんと見てらったの?」
「うん、磁石とか持ってきた」
「その磁石に、石はくっついたの?」
「くっついた」
「・・・」
息子ちゃんよ、
それは蛇紋岩だ。
緑色っぽくて結晶がキラキラしていて
透明感があるから翡翠にちょっと似てるんだ。
信じたくない気持ちはわかる、わかるよ。
でも磁石は残酷なんだ。
ああ、みんなが通る道さ。
俺も昨年その道を通ったよ。
結局、堺海岸と宮崎海岸で
探したが、何も見つからなかった。
あまりにも何もないので、
薬石を集めて「石を拾った気分」を演出した。
もはや、ヤケクソ状態である。
3日目
3日目は歌&親不知海岸へ。
相変わらず穏やかな海。
石はあんまり動いていない。
今日も期待できないということである。
海底が見やすかったので、
大物海石を見つけてやろうと息まいた。
すると、高架下の日陰になっているあたりで、
水深50cmくらいのところに
紫色の大きめの石があるのが見えた。
「おお!」
翡翠棒ですくいあげる。
角ばっていて透明感がある。
これはまさか、あの・・・伝説の
妖精ラベンダー翡翠ではないのか!?
少し乾かすと、結晶がキラキラ輝いた。
これはラベンダー翡翠だ!
うん、絶対そうだ!
気持ちがたかぶる。
もはや、私の気分は、
ラベンダーのお花畑状態だった。
気分が良いと、
不思議と次の石も見つかる。
それらしい石を他にもいくつか拾った。
その後、ランチ休憩のため、
ラベンダービーチ前のセブンイレブンへ。
おにぎりを食べながら
さっき拾ったラベンダー翡翠を眺める。
「ん?」
「・・・んんっ?」
全身の力が一気に抜ける。
その石は、
薄紫色の石英だった。
しかも、アメジストと呼ぶには
中途半端である。
あー、これは、いつものあれや。
帰りの車の中で
翡翠だと思ってた石が
違う石であることに気づくあれ。
そう、これは、
翡翠ハンターあるあるである。
間違いない。私には何度も経験がある。
翡翠拾いは甘くない。
その時、息子ちゃんはなぜか嬉しそうだった。
昨日の自分を思い出したに違いない。
父親に変なライバル心を燃やしているようである。
そこで、急に
息子ちゃんの目から涙が溢れ出した。
「どうした?」
「翡翠ない」
「え?」
「昨日拾ったやつ落としちゃった」
「ズボンのポケットは?」
「全部みたけどない。歌で落としたと思う」
「ええっ」
記念すべき最初に拾った翡翠2つを
落としてしまい、ショックで
涙が止まらない息子ちゃん。
あれだけ大事そうに持っていたのに。
「うえええーん!」
声をあげて泣きだす息子ちゃん。
その後、セブンイレブンで
ハーゲンダッツを買ってあげたら
気分が30%くらい回復したようだった。
なんだか、親子とも
ついていない一日だった。
4日目
最終日。
朝起きてすぐのことだった。
息子ちゃんは、
紛失したと思っていた2つの翡翠を、
パジャマのポケットの中に見つけた。
大切な人生初翡翠。
見つかってよかったね。
ハーゲンダッツ得したね。
紫の石英は、朝起きても
翡翠に変身してはいなかった。
最終日、昼過ぎには
帰路の高速道路に乗りたいので、
比較的近い須沢海岸へ。
須沢海岸について間もなく、
知らないおじいさんが話しかけてきた。
どうやら地元の人らしい。
「はい、これ。キレイな翡翠。
そこで拾ったからあげる」
そう言って石を渡してきた。
私の手の平には、緑色の石がのっていた。
これは、
とてもとても
キレイな・・・
キツネ石である。
「あ、ありがとうございます」
断るのも申し訳ないのでもらうことにした。
おじいさんは、その辺に落ちている石を
「あれも翡翠だよ」「あれも翡翠」と
指差して話している。
「そ、そうなんですか!」
半信半疑で返答する。
指の先にあるのは、明らかに
翡翠ではないように見えたのだが、
地元の人が自信を持って話す言葉だったので
ちょっと信じてしまった。
そこらじゅうに翡翠が落ちてたら
翡翠の価値がなくなっちゃうよ。
と、内心思ってしまった。
その一方、
息子ちゃんは、
早く帰りたいようである。
翡翠を2つ拾えたので
十分に満足してしまっており、
モチベーションがあまりないようだ。
そのおじいさんと話した後、
少しだけ須沢を散策したが成果ゼロ。
大人しく帰ることにした。
帰りの車で、息子ちゃんは
嬉しいことを言ってくれた。
小学校の修学旅行より楽しかった。
色々あったが、息子ちゃんにとって
一生忘れられない夏休みに
なってくれたいいな。
お読みいただき
ありがとうございます。
翡翠を探す旅 part5、
近日公開予定!
お楽しみに。
⇩⇩⇩⇩⇩翡翠を探す旅シリーズ 過去記事⇩⇩⇩⇩⇩
#ヒスイ海岸 #ひすい海岸 #糸魚川 #ラベンダー翡翠 #糸魚川翡翠