【経営企画担当者のためのIR/SR実践講座】第5回:SRの目的と手法とは?
連載1回目から4回目まで、主にIRに的を絞って書いてきた。
今回はIRからは少し離れて、SR(Shareholder Relations)について説明してみたい。
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SR(Shareholder Relations)とは?
従来「株主対応」というと株主総会運営や総会屋対策という文脈の中で、企業の総務部所管事項とされることが多く、企業経営の中でもあまり注目を浴びる分野ではなかった。
どちらかというと、企業の総会対策といえば、一線から外れた「おじさん」の業務としてとらえられていた節が強い。
しかし、バブル崩壊後の日本経済において、金融機関の護送船団方式が解消され、金融機関独自の収益力が注目されるようになり、特に昨今において株式の「持ち合い解消」がコーポレートガバナンスコードにも記載されるようになってから、上場企業に「安定株主」が少なくなったことから株主対応が注目されるようになってきた。
また、従来の総会屋も公安による暴力団対策が奏功し、少なからず影を潜めつつあるというのが現状ではないだろうか?
現段階においては「特殊株主」と呼ばれる人々は依然存在するるものの、騒ぎ立てないことの見返りに金品を要求する輩は激減しててきているようにも思える。
また、上場企業側にとっても、コンプライアンス強化の潮流の中、金品要求されたところで反社会的勢力に安易に金品を授受するようなことはなくなってきているのが現状ではないだろうか?
したがって、SRは従来の総会屋対策のような株主対応ではなく、企業経営において注目度の高い自社のことを理解してもらい、中長期的に自社を応援してくれる株主作りがメインの仕事ということになる。
その流れの中、SR担当者は従来の一線から外れた「おじさん」から、幹部候補生のジョブローテーションの一つとなる等、待遇は格段に改善している状況がみてとれる。
SRの目的
広い意味でのSRは自社のことをよく理解してもらい、自社を中長期的に応援してもらう株主作りというものだが、狭い意味でのタスクとしては株主総会での議決権行使において、会社提案にフレンドリーな対応をしてもらうことになるかと思われる。
コーポレートガバナンスコードやスチュワードシップコードといった、昨今のガバナンスをめぐる動向については次回以降の連載に詳細を譲るが、SRにおいては自社の株主としっかりと対話をし、自社の方針を理解してもらうことで友好的な議決権行使を促すことに視点が集まる。
オーナー企業などでは創業者メンバーが議決権の過半数をすでに握っており、株主総会での決議において、会社提案が否決されることは現実的にありえない企業や、買収リスクにさらされていない企業も多い。
しかしそういった企業においても結果的には否決はされないものの、賛成率が著しく低い場合はSRの取り組みが機能しておらず、一般株主からの支持がえらえていないことを意味するのである。
また、最近は「アクティビスト」と言われる「物言う株主」が注目を集め、旧村上ファンド系のアクティビストファンドなどは、議決権の過半を取ることを目的とせず、少数株主として声高々に経営不全を叫び、他の株主に同調を求めて企業に改善を求める手法をとる。
取締役派遣や増配要求など、SR不全の企業においては自社の思惑とはかけ離れた株主対応を事後的に迫られることになるのでSRの必要性は高まっているのである。
SRの手法
SRの手法は地道な作業だ。
IR同様、自社の経営方針や戦略を投資家に理解してもらうということはIRと共通しているが、SRにおいては個人投資家、機関投資家を問わず、既存の株主と定期的にコミュニケーションをとり、株主としてより深く自社のことを理解してもらうことが必要となる。
機関投資家向けSR
機関投資家の中で規模が一定より大きくなると、「議決権行使担当者」が置かれているケースが多い。
したがって、IRにおける1on1ミーティングとは別に、既存株主となっている機関投資家の議決権行使担当者と定期的にコミュニケーションをとり、自社の戦略や方向性、そしてガバナンスに関する考え方などについて理解してもらう必要がある。
特に株主総会前に議決権行使担当者を訪問し、次回株主総会に上程する議案を説明し、事前に賛同を得ておく取り組みが必要となる。
議決権行使助言会社への対応
上記のように、機関投資家が個別に投資先のガバナンス状況等をチェックし、総会議案を精査することもあるが、多くの機関投資家は議決権行使助言会社の推奨をもとに議決権を行使しているケースが多い。
スチュワードシップコードの制定もあり、投資家側としても発行体との「会話」が要請されているものの、集中日に集中する多くの銘柄の議案の一つ一つをチェックして、しっかりとした議決権行使ができる投資家は限りなく少ないと思ってよいだろう。<br>特に海外の機関投資家は時間的な制約もあることからその傾向が強い。
議決権行使会社とは、主に機関投資家向けに各銘柄が上程した議案につき、独自のガイドラインに従って賛成推奨や反対推奨をレポートとして提供することを業務としており、昨今は業績基準はもちろん、ガバナンスの度合いによる議決権行使推奨の相違を明確化するなど、依然強い影響力をもっている。
したがって、議決権行使助言会社に賛成推奨をしてもらうこともSRのミッションとなる。
議決権行使助言会社は複数存在するが、有名どころはISSとグラスルイスの2社だ。
双方とも海外の企業だが、日本をウォッチしている担当者が存在し、それらにアプローチしてコミュニケーションをとる必要がある。
両社は昨今のガバナンス強化の流れの中で各国の実情に応じたガイドラインを出しており、概ねそれらに準拠した内容での賛否推奨を行うことになるが、発行体とのコミュニケーションの中で推奨結果が変動することもないわけではない。
個人投資家向けSR
正直これは難しい。
以前にも書いたが、個人投資家は議決権行使率は低いものの、行使すれば会社フレンドリーな行使をすることが多い。
一方で、メディアなどでバッシングされるとエモーショナルな行使をすることが多い主体だ。
そしてどうしても機関投資家と異なり少数分散しているため、なかなか個々に対応することが難しい。
したがって、個人投資家の既存株主には定期的に株主通信やクローズドな説明会を実施すること、そしてIRページなどを通じて自社理解の深掘りを促進し、自社のファンになってもらい議決権行使を促進し、かつ会社フレンドリーな行使をしてもらえるよう働きかける必要がある。
まとめ
いかがだろう?
SRは現在の企業経営にとって不可欠でありながら、IRと比べてかなり地道な作業だ。
しかし、以前は総務部的な業務でスポットライトが当たることが少なかったこの業務だが、昨今は経営の関心事の中核的なものとなっており、従来の総務部的なミッションから、経営企画的なミッションとなっている会社が多い。
以降の連載で昨今のガバナンス強化の文脈を紹介するが、それらと相まって、SRは経営企画担当者としてしっかり理解して実践できるようにしておく必要があるのである。
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経営企画担当者のためのIR/SR実践講座
第1回:IRの目的とは?
第2回:IRの対象とは?
第3回:個人投資家向けIRとは?
第4回:機関投資家向けIRとは?
第6回:IR支援会社が提供するIR/SRコンサルティングとは?
第7回:実質株主判明調査とは?
第8回:実質株主判明調査を活用したIR/SR戦略
【(新版)経営企画担当者のためのIR/SR実践講座】
第1回:IR/SRってなんだろう?
第2回:IRの目的とは?
第3回:SRの目的とは?
第4回:(コラム)「東証市場区分変更」
第5回:IRの対象とは?
第6回:機関投資家の種類とは?
第7回:個人投資家向けIRとは?
第8回:SRの手法とは?
第9回:(コラム)経営企画担当者が知っておくべき「コーポレートガバナンスコード」とは?
第10回:IR支援会社が提供するIR/SRコンサルティングサービスとは?
第11回:実質株主判明調査とは?