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【経営企画担当者のためのIR/SR実践講座】第8回:実質株主判明調査を活用したIR/SR戦略

前回の投稿第7回:実質株主判明調査とは?で株主名簿記載の株主の中で、カストディアンと呼ばれる信託銀行保有の裏側には「実質株主」と呼ばれる機関投資家が存在し、IR/SRにおいては実質株主判明調査により、実質株主を把握することが重要であることを説明した。

今回は、実質株主判明調査によってカストディアンの裏に存在する実質株主を把握したのち、どのような方法でIR/SR施策を練っていく必要があるか?そしてそれにはどのような手法があるかについてご説明したいと思う。

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実質株主判明調査結果とは?

コンサルティング会社や信託銀行に実質株主判明調査を依頼すると、その成果物として表面上の株主名簿とは様相が全く異なった実質株主リストが、その保有株数順に提供されることになる。

以下に表面上の株主名簿と、実質株主判明調査後の実質株主名簿の例について書いてみたい。

【例:表面上の株主名簿】
第1位:●●生命保険
第2位:日本トラスティ・サービス信託銀行
第3位:日本マスタートラスト信託銀行
第4位:●●物産
第5位:バンクオブニューヨークメロン
第6位:資産管理信託銀行
第7位:JPモルガンチェースバンク
第8位:●●損害保険
第9位:●●証券
第10位:●●商事

前回のおさらいとなるが、日本トラスティ・サービス信託銀行や日本マスタートラスト信託銀行等の信託銀行は国内カストディアンということができ、バンクオブニューヨークメロンやJPモルガンチェースバンクの信託銀行は海外カストディアンということができる。

生損保は保険料運用主体の機関投資家、●●物産のような事業会社は政策保有株式の主体と考えられる。

加えて●●証券については信用取引のための貸株用に保有しているか、自己ディールで保有しているものと思われる。

実質株主判明調査を行うと、以下のような実質株主名簿が提供される。

【例:実質株主名簿】
第1位:●●生命保険
第2位:野村アセットマネジメント
第3位:日興アセットマネジメント
第4位:Fidelity Investment Trust
第5位:●●物産
第6位:Invesco Fund Managers Limited
第7位:Vanguard Whitehall Funds
第8位:三井住友DSアセットマネジメント
第9位:●●損害保険
第10位:いちよしアセットマネジメント

変化がお分かりだろうか?

国内カストディアンが国内機関投資家に、海外カストディアンが海外機関投資家に変化している。

すなわち、国内カストディアンの背後には国内機関投資家が控えており、海外カストディアンの背後に海外機関投資家が控えていたことになる。

この国内外の機関投資家を把握することが実質株主判明調査であり、彼らが自社に真の株主であることが理解される。

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実質株主判明調査結果の活用方法

上記のように判明した国内外機関投資家を含む実質株主名簿だが、IR/SRの場面においてどのように活用してゆけばよいのか?

活用方法はIRとSRにわかれるため、各々説明してゆきたい。

IRにおける実質株主判明調査結果の活用方法

IRにおける実質株主判明調査結果の活用方法は以下のとおりだろう。

自社株主の属性確認
現在までのIR活動の効果測定
類似他社比較によるIRターゲティングの策定

自社株主の属性確認

IRにおける自社株主の属性確認の切り口は複数存在するが、例えば①伝統的な機関投資家が多いか、ヘッジファンドのような短期売買の機関投資家が多いか?といった切り口や、②GPIFといった年金資金受託による機関投資家が多いのか、公募ファンド資金受託の機関投資家が多いのか?といった切り口、そして③成長株投資、安定株投資、大型株投資、中小型株投資等の得意とする投資領域はどの範囲か?といった切り口となろう。

現在までのIR活動の効果測定

上記の属性確認とともに、現在まで行ってきたIR活動の効果測定を行うことをお勧めする。

四半期ごとにIRミーティング対応をしてきた投資家にもかかわらず保有が少ない機関投資家はいないか?や、決算説明会に高い頻度で来場する機関投資家の保有状況を確認する等だ。

これらを実施することによって、従来のIR活動の「費用対効果」を測定することができる。

類似他社比較によるIRターゲティングの策定

自社株主の属性確認を行い、従来のIR活動の効果測定を行った後、今後のIR戦略を構築することになるわけだが、必ず行ってほしいのは、ベンチマークする類似他社との比較だ。

例えば自社と同じような業種で同じような時価総額帯の他社においては多く保有しているにも関わらず、自社の保有が少ない場合(金額・割合)、積極的なIRターゲティングを行うことで保有を促すことができる。

また、相対的に自社株式保有が大きい場合、何らかの期待をしてくれてはいるものの、今後売却する可能性もあるため、手厚いケアをする必要がある等の戦略を構築する必要がある。

SRにおける実質株主判明調査結果の活用方法

SRにおける実質株主判明調査結果の活用方法は以下のとおりだろう。

自社株主の属性確認
保有株主へのエンゲージメント実施
アクティビスト/特殊株主チェック

自社株主の属性確認

SRにおける自社株主の属性確認はIRとは違い、議決権行使という観点がメインとなる。

すなわち、当該機関投資家は発行体とのエンゲージメント(=会話)を重視する投資家なのか、それともエンゲージメントをあまり実施したがらない投資家なのか?といった観点だ。

昨今はコーポレートガバナンスコードやスチュワードシップコードにより、機関投資家には発行体とのエンゲージメントを期待されていることから、そのスタンスについての理解は重要だ。

加えて、当該機関投資家は自社で議決権判断の機関を有しているのか?それともISSやグラス・ルイスといった議決権行使助言会社の推奨通りに議決権行使をするのか?といった観点も重要だ。

機関投資家が保有する銘柄は多岐にわたるため、大手の機関投資家出ない限り、なかなか議決権行使判断の機関を有していることは少ないが、要は議決権行使という観点において積極的に発行体から働きかけることによって一律の判定の変更が可能か?もしくは議決権行使助言会社の推奨通りなので働きかけは意味を持たないのか?といった把握も重要だ。

保有株主へのエンゲージメント実施

もし自社で議決権行使の基準を有し、判定を自社で行っているのであれば、IRとは別の機関投資家の議決権行使担当者と定期的にコミュニケーションをはかることによって、自社への理解を深めてもらい、友好的な議決権行使を期待することもできる。

仮に世の中的な「水準」を下回る指標であって、本来であれば代表取締役の選任議案に反対するところであっても、その水準が基準を下回っている理由を合理的に説明でき、企業が継続可能、成長可能であることが客観的に説明できていれば賛成を得ることができるかもしれない。

アクティビスト/特殊株主チェック

昨今、村上ファンドやサードポイントといった、発行体のイベントドリブンな売買により利益追求する機関投資家も勢力を高めている。

そういったアクティビスト(「物言う株主」とも呼ばれる)が使用するアカウントもコンサルティング会社は一定量情報を有していることから、そういったアカウントが登場しているか否かのチェックは毎四半期ベースで実施することをお勧めする。

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まとめ

いかがだろう。

実質株主判明調査を行うことによって、自社の株主名簿ではわかることのできない本当の株主を把握することで、IRにおいてもSRにおいても具体的かつ実効性の高い戦略立案ができることがおわかりいただけただろうか?

個々の発行体の個別事情もあるので一概に活用方法をご説明することは難しいものの、まずは実態把握を行い、将来のあるべき株主構成や時価総額といった経営戦略の一環として実質株主判明調査を活用し、戦略構築を行ってもらいたいと思っている。

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経営企画担当者のためのIR/SR実践講座
第1回:IRの目的とは?
第2回:IRの対象とは?
第3回:個人投資家向けIRとは?
第4回:機関投資家向けIRとは?
第5回:SRの目的と手法とは?
第6回:IR支援会社が提供するIR/SRコンサルティングとは?
第7回:実質株主判明調査とは?
【(新版)経営企画担当者のためのIR/SR実践講座】
第1回:IR/SRってなんだろう?
第2回:IRの目的とは?
第3回:SRの目的とは?
第4回:(コラム)「東証市場区分変更」
第5回:IRの対象とは?
第6回:機関投資家の種類とは?
第7回:個人投資家向けIRとは?
第8回:SRの手法とは?
第9回:(コラム)経営企画担当者が知っておくべき「コーポレートガバナンスコード」とは?
第10回:IR支援会社が提供するIR/SRコンサルティングサービスとは?
第11回:実質株主判明調査とは?


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