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今一度『命』を賭けて
いやが応にも、苦しみに貫かれる。
そして同時に、熱く 沸き立つものがある。
「お父さん」という一人の男の波乱の人生と、その猛々しくも静謐で深く やさしい心の機微に、身も心も奪われた「私」という粗野で無邪気で荒々しい母性。
そのおそらくは人生で一番の大恋愛を、今描いている。
「お父さん」の闘病。
そのまるまる一年間、今までにないくらい私もお父さんも全裸であった。
命と命、その極限でぶつかり合った。
そして お互いを飲み込みあった。
人目を憚らず、いくど口づけをしたかわからない。
人目を憚らず、どれだけ大声で心を伝え合ったかわからない。
人目を憚らず、体力の尽きるまでお互いがお互いを求め合ったかわからない。
毎日毎日、どれだけの涙とどれだけの笑いと、どれだけの抱擁をしたかわからない。
命懸けだった。
お互いに命懸けだった。
何度も訪れる、「最期かもしれない瞬間」。
その度に 何度も、0.01%に命を賭けて、私たちは本音を吐きあい、望みを捨てなかった。
「今度こそ最期だろう」
そんな時でもお父さんは「家に帰るんだ」とリハビリを続けた。
そうなるたびに私は、肉体も精神も全て使い果たすぐらい、お父さんに対し、ありったけの自分自身を余すことなく受け渡した。
私たちは、愛という愛を戦い 尽くした。
ときに激しく、ときにやさしく、ときに 穏やかに、しかしそれはすべてお互いの全力であった。
この一年間の苛烈な日々は、お互いの中の全ての垢を削ぎ落とし、余計なものを一切無くし、ただひたすら命と命、むき出しのそれであった。
そしてこの1年間を経て、私たちは「何ものにも代え難い最後の青春の日々」という、お互いを知り尽くしたかけがえのない時を過ごしている。
「今が一番幸せなんだ」
お父さんはそう言ってくれる。
やさしい時が流れている。
私は恐ろしいくらい無邪気になった。
時に私は若さゆえ、お父さんに対しヘマをする。
そして 思い悩んでは、心底 悔いてお父さんと話す。
お父さんは、そんな私を愛しいと言う。
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