観念絵夢のこと
AV 男優の観念絵夢と、初めて現場で会った時、面と向かって思いっきりこう 言われた。
「おい 卯月妙子!お前なんかに負けないぞ!!負けないからな!!俺は、○○○○○(本名)だ!覚えとけ!!」
本名を先に名乗られたので、この人の芸名が観念絵夢だと知ったのは、私の友達の女王様が観念絵夢の包茎の皮を切って料理し、観念絵夢に食べさせた、「裸のランチ」という AVが出た後であった。
観念絵夢との現場では、私は女学生の役で、クラスに皆が集まっていて、私は嘘発見器に引っかかり、それでクラスのみんなに輪姦される予定であった。
ところが 嘘発見器は、うんともすんとも 鳴らなかった。
「これ壊れてんのかなあ?」
みんなで片っ端から、ひとりひとり、嘘発見器をやってみた。
ところが 誰も鳴らない。
観念絵夢の番になった。
ビー!!!という音を連発して、観念絵夢が何を喋ろうと、嘘発見器は鳴りっぱなしだった。
「え?!なんで俺?!これおかしいんじゃねえの?!」
観念絵夢が大騒ぎした。
監督に食ってかかった。
「お前の心 真っ黒なんだよ!!もういいや!!シナリオ 変更!!お前、うるせえからもう帰れよ!!」
そのシーンだけで、観念絵夢は現場から 追い返されてしまった。
そんなわけで、私が観念絵夢と喋ったのと同じ現場にいたのは、たった この瞬間、「嘘発見器の場面だけ」であった。
その後、後にも先にも、観念絵夢と現場が一緒になるということはなかった。
観念絵夢は「Mであること」を追求するために、どんどん過激なことをやり続けた。
観念絵夢は、 大学の哲学科出身であった。
「Mであること」というのはなんだか、彼の偉大な哲学だったそうであった。
そしてついに、どこかの国に行って、十字架に磔になり、十字架に両手を釘で打ち付けてパレードするお祭りに加わり、それを AV で撮影したものがバチカンに訴えられると言う、大騒動になった。
私が観念絵夢のこと思い出したのは、お父さんにAV 時代の面白話をしていて、そういえばこんな奴がいたよ!と、観念絵夢の話をした時であった。
お父さんが大笑いして、「そいつはどうしてんだろう??断然興味が湧いてきた!!」そう言って検索し始めた。
お父さんは完全に、観念絵夢のトリコになっていた。
そして 太田出版 から、観念絵夢が本を出していた!ということを検索して見つけた。
「おい!!Amazonでこの本 すぐ買え!!」
観念絵夢の本が届いた。
お父さんはもう 爆笑 しっぱなしだった。
私も読んだ。
おかしくておかしくて、腹を抱えて思いっきり笑った。
その本の中で観念絵夢は、バクシーシ 監督に、
「結局 さぁ、お前の言いたい哲学ってやつは、なんだかんだ言って結局お前がアナルマニアだっていうオチじゃん!」
そう、看破されまくっていた。
「おい!!太田出版 ってすげー出版社だな!この本 最高だよ!!」
その本は、もう 縁の切れてしまった、当時落ち込んでいた友達を笑わせようと思って送ったまま、その人にあげてしまった。
今はもう、なんかすごいプレミアがついている。
Twitter で、「観念絵夢」と検索した。
観念絵夢は、フツーの人になっていた。
大して面白くない ポエムが、呟かれているだけだった。
我が家では、観念絵夢のことを本名で呼んでいるのだが、お父さんはしょっちゅう冗談にして、ほとんど毎日のように何かあるごとに引き合いに出している。
そんなわけで、観念絵夢の武勇伝は、我が家だけでは、今でも語り継がれている。