『千木良悠子著/はじめての橋本治論』を読み始めている。
千木良悠子著『はじめての橋本治論』を読み始めている。
2章の2つ目の文章を読んだところで、一旦息継ぎをするために、ここまでの感想を書く。
自由自在に怖いもの知らずに、サメの海を泳ぎ回るサーフボードに乗った冒険者みたいに、言葉は展開されていく。
まるで、次のページが全くわからない、おとぎ話を読んでいるみたいな、ちょっと怖いドキドキ感と、そこには何が展開されているんだろうと言う途方もない好奇心をかきたてられる。
そして、読み進めれば読み進めるほど、自分の形がボコボコヒビが入って古いものになっていく。
同時に、古くたって古くたって新しい、斬新なたくさんの世界に出会っていく。
橋本治と言う人を論じているのに、この本を読むと言う事は、自分の幼少期や思春期から、おばさんになってしまって入れ歯が欠けていても気にならない今の私が、思いがけず、総動員されて、素っ裸にひん剥かれていくようだ。
そうだった。
私はチビだった頃、昭和と言う時代を生きた。
校内暴力という言葉が、終わりかける頃思春期だった。
バブル全盛期と言うものを、なんだかうやむやにスルーしたまま上京して、一挙にバブル崩壊と言う世の中に飛び出して行ったんだった。
世の中はどんどん変わっていった。
エロ本が、本屋さんやコンビニから消えた。
いつしか私は、若い世代の人から、『いや、それ昭和の話でしょ?』と言われるようになり、自分の理論が通じなくなり、おじちゃん同士、おばちゃん同士、そこでしか本音で話ができなくなっていた。
今の若い人がわからなくなっていた。
自分だってかつては、右往左往した思春期だったり、何でもかんでも、腹が立つ、理不尽だらけの不幸な20代と言うやつを経験してきたと言うのに。
果たして、私は、このまま化石みたいに、ババアだからと、もう生理もない性欲もない、というか、欲と言うのが薄れた、なんというか、上がっちゃったおばちゃんのまんま、言葉を書いたり、漫画を描いたりやってっていいものか?
その現実に、千木良悠子と言う人が、『忘れてるよ!大切なこと忘れてるよ!!あなただって、女子中学生で女子高生だったじゃない?』と、とっても思い出したくない思春期と言う時代の自分を引っ張り出していこうとするのだ。
おずおずと、私の中から思春期の私が顔を出すと、そこには『橋本治』と言う人がいて、『ね?戦って抗って恥かいた自分がいたでしょ?リアルタイムでそういう子たちが、今の時代だっていっぱいいるんだよ?もうちょっと、思い出してごらんよ。彼らに、彼女らに、ババアの仮面を脱いで会いに行ってきたら?』
そんなドキドキすることを囁くのだ。
大人になるとはなんだろう?
子供であるとはなんだろう?
そして、思春期とはなんだろう?
私は何にもわからないまま、歯っ欠けおばさんになったんじゃないか!!
若い心も、年相応の心も、どっちも持ってるつもりでいた。
『今の時代を見てごらん?』
橋本治は、例えばおばさんぶって、政治を語るとか、そんなことをさせない。
あれが値上がりした!これも値上がりした!今月の支払いが!
そんな目線で目まぐるしく生きているところから、最もみずみずしい命や声に、おじ気づかずに、耳を傾けろと言ってくる。
『ものづくりしているなら、そうするのは役目だろ??』
グイッと首根っこ掴んで、人間たるものは何なのかを、生きるとは?社会に出るとは?大人になって食っていくとは?そう、闇雲に空をつかむような細い腕を伸ばしてくる、『今のご時世の思春期の子たち』の中に、準備運動もないまま、放り込んでしまおうとする。
最も、奔放にその宇宙地図を描いているのは、千木良悠子であるのだが!
なんてこった!!
ひっくり返されちゃったよ!!
たいした持論なんか持ってないけど、それもすっかり粉塵だ!!
いかに自分が無知で、思いやりなくおばさんになり、ものづくりをする人の1番しなければならないこと、1番見なければならないこと、そういった、本物の意味での責任を果たしていないか、思い知らされてしまった。
千木良悠子と言う人は、とんでもない本を書いたんじゃないか??
私は、こんなにこんなに、人に見透かされているような、ものづくりをする人としても、昭和に生まれて令和に53歳を迎える人間としても、ドキドキするやら恥ずかしいやら、自分で自分にダメ出しさせられるやら、本を読んでいて、こんな気分にさせられた事は無い。
千木良悠子は勇敢に正直に、自分を照らし合わせて、橋本治と言う宇宙地図の中に引きずり込んでくる。
真っ裸でだ。
こんなことをされちゃったら、もう万歳である。
私は正直になるしかない。
私は思春期、自分の衝動を暴力的に、あちこちぶっつけながら、自分と戦って、周りと戦って、孤独で本当は怖かった!!
毎日、嵐の中を歩いているようだった!!
バブル崩壊後の東京なんて、思春期と比べたら可愛いもんだった!!
なぜなら、社会に出ると言う一歩を、この冒険をやれるだけの大人になっていたからである。