椎名エリの『壊れた羽根』
あろうことか。
あなたの肉体は、脊椎の中の液体が骨化する病に犯された。
あなたの指は痺れ、物をつまむ ことも困難で、感覚が麻痺している。
ブラインドタッチで、その生を文章というかたちで吐き出し 吐き出しそうすることで自分を供養してきたあなた。
そして、ペニスのある女性との主従関係という2羽の外国の綺麗な蝶々のような婚姻関係を文章でしっとりと記録することが、あなたの大切な人生での行いであったのに。
キーボードを見ずにあなたの指先がキーを打つことは、今はもう指先の麻痺のために困難である。
それがどれだけの苦痛だろうかと考える。
びちゃびちゃに血濡れた、生い立ちを持つあなたは、それによりおおよそ一般の人間にはなれなかった。
はじめから精神は破綻していた。
それを繕うために、あなたは文章を書くという作業で、自分を供養し続けてきた。
あなたの病は、進行する病である。
やがて指先が動かなくなり、やがて 歩行が困難になり、脊椎からなる神経が骨化して硬くなって行き、手術をしなければ排泄すら困難になる。
やがて行わなければならない 手術も、100%ではないのだ。
どの程度 改善するかは、神のみぞ知る、いやこれは、悪魔のみぞ知るか。
あなたとあなたの妻との、日々の愛の交換。
コンクリートの廃屋の中の黒い首輪をした二人の間での、真っ赤な血液と精液の白と、それらが散らばった冷たい大理石の上での仄かなぬくもり。
そんな言葉のやり取り。
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