2泊3日の『娘』宿泊記
娘のような 年齢の友達がいる。
息子よりもうんと若くて、 高齢出産した 本当に娘のような子だ。
彼女とは、 散々 親子喧嘩を繰り返しながら、 あれこれ 教え合って、 こんにちまで来た。
先日の 確定申告の時、 ラストスパート の手伝いに、 2泊3日で彼女は飛んできてくれたんだった。
確定申告書を 税務署が開くのと同時に書き上げ、 彼女と2人で 税務署まで行った。
ところが 私は 税務署で頭がスパークしてしまい、 喋れない 聞いてることもわからない、 もう頭が 混濁してしまった。
次は役所で、 様々な 部署を 回らなければならなかった。
福祉課から始まって 全部回ってまた最後 福祉課に戻ってくるまで、 もうわけのわからない 私の代わりに、 全て彼女が説明をやってくれたんだった。
はじめ 福祉課に行った時、 ああまためんどくさい 精神 障害者が来た と言った 扱いを受けた。
その時 彼女が 対応した 福祉課の人に、 その対応は あんまりではないかと意見を言ってくれたんだった。
もう歩くことも困難な 私の手を引いて、 ゆっくりと歩いて ベンチで休ませてくれ、 飲み物を買ってきてくれたり、 肩を揉んだりしてくれながら、 彼女は 私を連れて 全ての部署を回って 丁寧に 私の代わりに説明してくれた。
どこの部署でも係の人から、「 優しいお友達ですね。 もう大丈夫、 書類の 処理は 終わりましたよ」 そう言われた。
正直言って 私はソファーに寝転がっているだけで、 係の人との対応をしたのは 全て彼女であった。
最後にまた福祉課に 戻ってきた。
彼女 から 意見された 福祉課の人の態度は、 もう まるですっかり変わっていて、 打って変わったように 丁寧だった。
そこでの処理も 無事に済み、 彼女に手を引かれ、 少し休もうと、 緑道のベンチに座った。
「 母さん( 彼女は私を母さんと呼ぶ)、 疲れたでしょう。 もう全部終わったから大丈夫だよ。 ここに 喫煙所があるから 一服して。 タバコを我慢していたの つらかったでしょう」
「 ありがとう。 ありがとう。 本当はもう、 誰かが何かを喋っていても 何言ってんだかわからなかったの」
立て続けに 2本タバコを吸って、 しばらく彼女が 肩を揉んでくれた。
私は徹夜明けで、 過覚醒のスイッチが入ってしまい、 せっかく 彼女が来たんだから、 5年ぶりのカラオケに行きたいと 彼女に話した。
倒れない程度に歌おうということになり、 お父さんに電話を入れて 2人でカラオケに行った。
お父さんが倒れて以来のカラオケである。
彼女と交互に歌いながら、 カラオケボックスの中で踊ったり、 ヘドバン したりしながら、 もうめちゃくちゃ 歌った。
ふと彼女が、
「 今日は暑いから、 多分今年で一番暑いから、 父さん倒れてなきゃいいけど 大丈夫かな。 心配になってきた! 電話してみて!帰ろう!」
そういった。
電話しても電話しても、 お父さんが電話に出ない。
慌てて タクシーを拾い アパートまで帰った。
お父さんは 暑さに伸びていた。
それでも 無事を確認できて ほっとして、 夕方 散歩に行こうと言いながら 彼女と色々話した。
「 母さん。 毎日毎日生きてるって、 いろんなことがあってこんなに面白いんだけどさ。 よく相談されることがあるんだよ。
毎日が同じことの繰り返し ばかりで、 もう つまんないし疲れた、死にたい。
そんな悲しいことを相談されることがあるんだよ。
だけれども それは、 その人にとってはリアルなわけじゃん。
安易に、 毎日毎日違っていて楽しいよ というわけにもいかないし、 こういう時どう言ったらいいかわからなくて、 とても悲しくなってしまうんだよ」
彼女は泣きそうな顔をしながら、 うつむいて、
「 生きていることの面白さを、 こういう時人に伝えるのって、 難しすぎてどうしたらいいかわからないんだ」
そう言った。
「 母さんはそういうことを言う人には、 だいたいこんな風に伝えているよ。 代わり映えしない人生だ と思ったら、 ちょっと、 生活に目を向けてください。 生活のそこかしこに、 嬉しいことを見つけてください。 ちっちゃくてもあるんですよ 結構。
それに、 人生の幸せも不幸せも、 同じくらい意味はあります。 私はそう思います。 どちらも大切な経験だと思います。 って言ってる」
すると 彼女は こう言った。
「 そうなんだよね 母さん。 どんなことでも勉強なんだよね。 どん底があるから、 ちっちゃいことでも喜べるようになるんだよね」
そんな会話をしながら、 函館の中でも 田舎の方に住んでいる私の たくさんの 緑が植えてある、 私の大好きな 町内の一角を、 お散歩しに行った。
ゲジゲジの子供や アリンコの巣、 大きな 雀の巣や、 この のどかな 家々の 小さなお庭に植えてある 様々な植物、 空き地の中の 草花や コオロギ、 寄り道をしながら そんな素敵な者たちを発見しながら、 観察しながら、 4時間 歩いて神社まで行った。
もう夕暮れ。
神社には、 昼間とは違うものたちが 集まってきている。
そんな気配 や 不思議な 者たちを、 感受性の豊かな彼女に、
「 ほら見て! ムジナの妖怪だよ! あそこにいる人たちは、『 千と千尋の神隠し』 の カオナシ みたいでしょう!」
そんなことを言いながら、 しばし 不思議な時間を過ごした。
彼女は 樹木と 自分のおでこをくっつけて お話をしたり、 様々に集まってくる 不思議な者たちに おずおずと近寄ったり していた。
とても大きな 真っ黒い 強い気のある 、洞があった。
「 不思議な手品を見せるから見ててね!」
私がそこへ 近寄って行くと、 彼女はほとんど泣きそうになりながら、
「 母さん そこだけはやめて! あそこ 危ないものがいるってはっきり分かるもの! 危ないよ やめて!!」
と私を止めようとした。
私が洞の中に 頭を突っ込んで 帰ってくると、
「 母さんに完全にくっついちゃった!! お家に連れて帰るのはだめだよ!! 危ないよ 怖いよ!!」
そう言った。
「 これがまた 不思議なんだな! なんと母さんからいなくなります!」
帰り道、 浜風 がやっと吹いてきて、 良い気が流れてきた。
涼やかな 浜風に吹かれながら、 道を歩きつつ、 私が連れてきた 大きな真っ黒いものを、 自然にゆっくりと 風に乗せて 抜いて見せた。
「 はい! どうでしょう 不思議でしょう!! 母さんからどんどんいなくなります!! とうとういなくなりました!!」
彼女は目を丸くして、
「 本当だ 本当だ!! もういない!! これどうやるの?」
というので、
「 風に乗せて 気を通して、 じゃあね! ってやるんだよ!」
そう言って彼女にやり方を教えてあげた。
そんなこんな不思議な遊びをして、 遊び疲れて帰ってきた。
お父さんが、「 函館の うまい 寿司を食わしてやれ!! うまいやつ!!」
と言ってくれて、 もちろん そのつもりでお金下ろしておいたので、 お客さんが来るたびに必ず 出前を取る お寿司を取った。
1つ1つ 美味しい と、
「 お魚ってこんなに美味しいと思わなかった!!」
そう言ってくれて、 とっても喜んでくれた。
その夜は 遊び疲れて 2人とも 寝落ちした。
彼女が帰る日、 駅までの タクシーが来るまで みっちり 話し込んだ。
将来の夢や、 勉強 したいことなど、 そのために仕事をどうしたい、 などなど。
明らかに、 初めて会った時よりも 、 地に足がついて 目標がしっかりとして、 浮ついたところのない、 成長して大人になった、 彼女がいた。
「 私はもっと、 母さんに甘えたかったけど、 親離れ っていうものは 来るもんなんだね。
なんだか寂しいな。 あんなに甘えん坊だったのに、 もう自分の足で歩けてるもの。
お願いひとつしてもいい?
本当に親離れする前に、 母さんに膝枕がして欲しい」
彼女は、 照れながら 膝枕して 目を閉じた。
私は彼女の頭に手を置いて、
「 母さんは 生きがいが増えたよ。 息子の将来と、 あなたの将来、 その2つの成功を見ること。 男の子と女の子、 2人子供を持てて、 母さんの人生は 本当に面白いよ!」
そこへタクシーが来た。
タクシーに乗る彼女をハグして、
「 頑張れよ!!」
と、 背中を2回叩いた。
タクシーが見えなくなる まで手を振った。
しっかりと 目標を見据えた 彼女の あの意思に溢れた目。
親離れしたんだなぁ。
寂しくもあったが、 息子の将来と 彼女の将来、 生きがいと夢が 2つに増えて、 いや なかなか! 私の人生って豊かだなと、 ありがたい 思いだった。