意匠権か、著作権か。-中国における応用美術-
1.中国における「応用美術」の考え方
4月26日、東京都知財総合センターで、中国をメインに、海外知財についてお話します。
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今回は、実用新案権、意匠権、著作権(また、出願ではないですが、冒認商標の取消等もお話します。)に焦点を当て、中小企業が、実際の製品において何をどの権利によってどう保護すべきなのか、実際の活用・対応事例などの具体例に即して、分かりやすくお話していきます。
このような観点から意匠と著作権をお話するので、やはり応用美術の話にも触れなければならないな、と思いました。今回のセミナーでは、あまり法律に詳しくない方にも必要な情報をお伝えできるよう、抽象的な法律論や判例の詳細には触れない予定ですので、こちらの方に簡単にまとめておこうと思います。
中国における応用美術、結論から言ってしまえば、判断基準は日本と似ていると思います。有名なのが、2021年に最高人民法院の指導的判例(157号)に指定された、最高人民法院2018年12月29日裁定の事案です。
2.「美術作品」としての創作性+分離可能性
この事案は、以下の「クローク家具」についての著作権侵害訴訟です。
最高人民法院は、「美術作品として著作権法の保護を受ける実用芸術作品は、①作品(※著作物)の一般的な構成要件及び②美術作品の特殊な構成要件を充足することに加えて、③実用性と芸術性が相互に分離可能であるという条件:両者は物理的に相互に分離、つまり、実用的機能を備える実用性と、芸術的な美感を体現する芸術性が物理的に相互に分割して単独で存在することができるか、両者は概念的に相互に分離、つまり、実用芸術品の芸術性を変更してもその実用的な機能が実質的に失われることはない、という条件を充足する必要がある。」と述べて、これらの要件のうち、主たる争点となっていた、「美術作品」としての創作性と分離把握可能性について、以下のような判断により、上記クローク家具の著作物性を認めました。
3.日本よりも著作物性が認められやすい?
判示の順序としては、上記のように創作性が先に来てますが、裁判官の頭の中では、先に機能と分離をしたうえで創作性を評価しているかもしれません。ともあれ、応用美術について、美術の著作物として認めるための要件として分離可能性を挙げている点は、日本(タコの滑り台事件:知財高判R3.12.8など)も中国も同じだと思います。
もっとも、具体的なあてはめについて、これまでの両国の裁判例を見る限り、感覚的には、どうやら、中国の方がより緩やかに、著作物性が認められる傾向にあるように思います。この点は、意匠との重複・融合領域のみならず、商標との重複・融合領域も同様です。
セミナーではこの家具以外の身近な物品の具体例も、ビジュアルでご紹介したいと思いますのでお楽しみに!(というか、特許のセミナーとまた違って、意匠や著作権だと、図や写真が多くなってビジュアル的にもカラフルだし、作ってる本人が一番楽しいんですけど笑)
4.意匠権との重複保護
さて、上で引用した本件家具の写真は、原告が取得していた意匠権の公報から抜粋したものです。つまり、原告は同じ家具について、意匠権も有していました。そして、原告は意匠権侵害でも同被告を提訴していたようなのですが、その後、当該意匠権は無効とされて、意匠権侵害訴訟の方は取り下げられたようです。
このように、同一人が同一対象について、意匠権を取得した後に、著作権による保護を主張することができ、もし意匠権が無効等により消滅したとしても、その著作権は影響を受けることはないと、実務上、考えられています(江蘇省高級人民法院2015年4月10日判決等)。
著作権の方が保護期間が長くなりますので、著作物性が広く認められ得るのであれば、意匠権は別に取得しなくても良いのでは?とも思う方もいるかもしれませんが、応用美術の著作物性の判断は主観的なものですし、特に中国では、権利帰属の証明が必ずしも容易ではないという問題もあります。ライフサイクルを含めた個別のケースに応じて、使い分けや重複利用を考えるのが望ましいと思います。
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