ノベライズコント「命乞い」
注:是非ライスYouTubeチャンネル、コント「命乞い」を観てからお読み下さい。
『命乞い』
父は時計屋を営んでいた。
と言っても高級な時計を扱うようなお店ではなく、一日のほとんどが常連の持ち込む時計の修理ばかりしているような、そんな小さなお店であった。
当然裕福な家庭とは言えず、私は幼少期からそんな父の姿に常に小さな嫌悪感を抱いていた。学校の友人が持ってくる最新の玩具やゲームを見る度に貧しい家柄を呪った。
そんな私が人一倍野心の強い人間に育つ事は最早必然だったのかも知れない。
人の物は何でも欲しかった。
そしてそれを叶える物はただ一つ、『お金』だと言う事に気付き、自ら事業を立ち上げたのは22の頃。
一分一秒でも早くお金持ちになりたいと言う子供染みた夢を原動力に会社は肥えていった。
何事も遠回りはせず最短ルートで辿り着きたがる私を周りは一様に「我儘」だと卑下したが、当然聞く耳は持たなかったし、法に触れたルートを取る事になるのにそう時間は掛からなかった。
30も後半になり、大きな屋敷を構えた頃には反社会勢力との繋がりも随分増えた。
お気に入りの靴下が見当たらない、廊下の電球が切れかかっている、そんな些細な事の積み重なりであったとしても、その日は明らかに朝から嫌な予感がしていた。
取引先との会食に向かう準備をしていた手を止めたのは、自分の仕事を疎ましく思う人間が増え、屋敷の周りに配置するようになった大勢のボディーガードからの第一報だった。
「何者かが屋敷に侵入しました。」
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