ほぼ会社員
躊躇なく通勤定期更新し、もしもし未来わたしはいますか
魚からゆっくり人へ戻る朝シーツに波の痕を残して
蛇口より流れる水へ手を伸ばし五指の形を思い出してる
珈琲の苦みが胃の腑をなぞりだす 内より身体に炎がともる
鍵穴に差し込んでいた鍵ひとつ抜いて鍵穴からっぽにする
暖冬と呼ばれる日々にマフラーのゆるく結んでゆらゆら揺らす
改札が鳴る開いてく私たち毎朝なにかに許されて、行く
階段を昇りきったら発車する電車を追っていきたい魂
白線の内へ内へと伸びる列 足足足足みんな生きてる
駅ビルをぐんぐん小さくさせてって遠ざかってる通勤電車
評判のケーキ屋さんの最寄り駅 私は降りない電車は止まる
降りるべき駅はひとつと疑問無く身体ひとつをホームに降ろす
雑草という名の草は無いけれど道を行くのはほぼ会社員
鉄塔をすり抜けてきた向かい風猫背になって迎撃しよう
今日もまた同じ時刻で記録され律儀なタイムレコーダー おはよう
これは令和二年度に応募した短歌人の高瀬賞に出した15首連作に少し手を加えたものです。
2月末締切なのに出そうと決心したのが2月に入ってから。テーマを考える余裕が無かったので通勤詠にしました。
すぐに公開することについての是非はあるでしょうが、私は公開したい!