老子

中国の人々は、やはり現実的?③ ー 老子の思想


引き続き、中国の思想について。

中国の思想の中で、儒教とは別に現代にもなお続く思想に「老子」の思想があります。

この老子は中国の古代諸子百家の1人です。

この老子思想は「道家」とも呼ばれています。

この老子の思想は、人間の作為を否定し、無為自然なあり方を尊ぶといったところに主眼が置かれています。

よって、人間の無為自然とは正反対にある政治や、あるいは人間が人為的に作り出した道徳といったものを否定しています。

おのずと政治や道徳を持って人間を理していくと言う儒教と対立をする形になっていきました。

しかしなんといっても、道家の際立った特徴は「道(タオ)」でしょう。

この「道」とは、あらゆる事物の根源であり、ここからすべてのものが生ずるとされています。

それが一体どういったものかというのは、人間が知覚できないために表現は漠然としていますが、老子は次のように語っています。

『漫然と混ざりあったものであり、それは天地より先に生じた。
音もなく静かで形もなく、ただ1人あるのみで、そのあり方を変ずることもない。
どこまでも広がっていきとどまるところがない。これこそが万物の母たるにふさわしいものである。
しかしそれを何て呼んで良いのかは私にはわからない。
仮のなおつけて「道」と呼び、あるいは他の言い方をするなら「大」と呼んでも良いだろう。
大であれば、隅々まで行き渡り、隅々までいき渡れば、ここを遠ざかり、ここを遠ざかれば再びここに戻る。
このように道は大なるものであるが、大と言えば、天も大であり、地も大であり王もまた大である。
このようにこの世には4つの大なるものがあるが、人間である王またその1つの位置を占めている。
このようにして人間は地に則り、地は天にに則り、天は道に則り、道は自然に則っているのである』

一体何を言ってるのか判明しないような文言ですが、老子が言うところはこの世の全ては「道」と呼ばれているところから生じ、それは無限に大いなるものである。人間もその道から生じているため、この道に従うとき、正しく、天地も並ぶべき大きさと永遠を得ることができる、と言うことです。

さらに老子は道を次のように表現しています。

『道と言うものは恍惚として、おぼろげであり、見定めが難しいものである。
その恍惚とした見定めが難しいものの中に、何か形らしきものがあり、物らしきものがある。霊妙な何者かがある。しかしその霊妙の中に、否定しがたい真実を持ち、そのうちに確かなものになっていく。
太古の昔から現在に至るまで、道と呼ばれるものの存在は変化することなく、物の元となるべき全てを持っている。
私はなぜ道がすべてのものの元となるものであると知ることができるのかと言えば、それはこのような道の直感によるものである』

老子は道をつかまえどころのない神妙でおぼろげなものであると表現していますが、それは万物の元として確実にあり、しかし人間の知覚を超越しているため、それを知るためには「直感」で感じるしかないと言っています。

この老子の思想は、ある意味中国思想の中において異彩を放っています。

何故かと言えば、老子の説く道を見てもわかるように、それは人間の認識や知覚を超越したものであり、それを説く老子の思想は形而上学的な思想と言うことができます。

しかし何度も言うように、中国の人々の思想は、あくまでも現世における実存の中に置かれており、それは中国の人々が受け入れている儒教や、その他の思想を見てもわかる通りです。

儒教などは、徹頭徹尾、現実世界における人間のあり方や行動を説いており、形而上学的なものはほとんど触れていません。

しかし老子の思想は逆です。現世的なことも多く触れていますが、その中心は先ほど述べたように道という形而上学的な存在なのです。

その意味で、インドの思想や宗教に共通するものがあると思います。

インドではかなり古くから宗教が発達し、ヒンドゥー教やインド哲学などでは宇宙概念を詳しく展開しています。ブラフマンとアートマンなどはその例ですが、それらは形而上学的なものであり、その形而上学的なものを深く追求していくという姿勢がインドの人々の中に見ることができます。

しかし中国人はちがいます。中国の人々は現実を重視し、その中で理論を構築していくので、形而上学的な思想が育ちません。

そのような中国において、この老子の思想が受け入れられていったのは、とても画期的なことだったのではないでしょうか。

続く。


※ 表題の写真はYahoo画像より転載させていただきました。



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