会話劇「田中童夏による絵画『ごー、ごとん。ゆらゆら(秋桜殺人事件)』を巡る群像劇」
SUNABAギャラリーで行われた「魂のふかいところで」展に出品された田中童夏さんの絵画「ごー、ごとん。ゆらゆら(秋桜殺人事件)」を見て思いついたもろもろを、物語風にまとめました。冒頭をTwitterで書き始めたのですが、時数制限のないこことで、全面展開してみます。戯言ではありますが、寛大な心で、ご笑納いただければ幸いです。
「「ごー、ごとん」は、薄れゆく意識の中で聴いた電車の音。「ゆらゆら」は、風にそよぐ秋桜の音。この後、被害者は絶命したと思われる。」と、田中童夏さんの絵画「ごー、ごとん。ゆらゆら(秋桜殺人事件)」を見ながら、現場に来た捜査警部は語った。なんでも、この絵画は、今回の事件を解く上で唯一と言っていい重要な手がかりだという。
それに対し、相棒の刑事は、「しかし、「秋桜殺人事件」は、一種の密室殺人事件ですね。」とつぶやく。
「何を言って居る。外での出来事じゃないか。」捜査警部は、この若手の相棒のいう事が理解できない。
「しかしですよ。死体の周りには、秋桜が踏みつぶされた形跡がない。しかも、雨が降った後であるにも関わらず、ゲソ痕がない。この不可能犯罪を如何に説明するか。」と必死に反論する若手。
「あのー。先輩、いいっすか。ふと思いついたんですが、一昔前に、UFOによるミステリー・サークルってありましたよね。あの幾つかは、作り手が自首して悪戯と判明したそうですが、サークルまでの足跡がない、と。空中から死体を落としたって可能性はないんでしょうかね。UFOから落とすとか。」ふたりの間に入って来たのは、研修中の見習い刑事である。どうも、この見習い、UFOを持ち出すとか、刑事としての適性に著しく欠ける。 「あのね、君。UFOを持ち出すと、警察としてはUFOが存在するという立証問題を解かないと、事件そのものを問うことが出来なくなっちゃうんで、そういうファンタジスティックな仮説は困るんだけど。それよりはさ、複数のドローンを用いて、秋桜畑の真ん中に吊り下げて落とすとか、なんかないの。」と若手が見習いに苦言。
「ほほう、犯人のなかに、ドローン操作の名人が含まれていると。それなら、犯人の絞り込みに役立つじゃないか。」と捜査警部が、妙なところで感心し、部下にドローンの線を洗うように、すでに指示を出す。 「おいおい、そんな捜査方針で本当にいいのか。今のは適当な思い付きだぞ」と若手は焦りだす。 「警部、ちょっと待ってくださいよ、犯人は、なぜ、そんな面倒なことをするんでしょうね。わざわざ、周りに足跡を造らずに、死体をコスモス畑のど真ん中に放置する動機はなんでしょう。そこから考えて行きましょうよ。」と若手は、ドローンの線を考え始めた捜査警部に別の線を考えることを促そうとする。
「何だろうね。愉快犯かな。足跡を残さずに、コスモス畑の真ん中に死体を出現させるという不可能犯罪をちらつかせた一種の謎かけで、報道を見て、謎に気付いて反応する人間はいないか、待っているとか。うーん。よくわからないな。なーに、そんなことは捕まえてみりゃわかるさ。動機は、後から何とでも説明はつく。それよりも、不可能犯罪を可能にする条件からの犯人の特定だよ。ドローン以外の手法が無ければ、ドローンの購入者等から絞り込む作戦で、ホシを上げることができるよね。」と捜査刑事は、ドローンの線に執心である。 「あのー、いいっすか。警部、先輩、ドローン以外にも思いついちゃったんですけど。あのーですね。テレポーテーションってやつがありましたね。瞬間移動ですね。思念の力で、異次元を経由して、忽然とお花畑の真ん中に死体が出現したというのはどうですか。この絵、そういう感じじゃないですか。普通の現実世界とはちょっと異質な、夜のお花畑ですよね。夜って面白いですよね。光だと「Enlightenment」。啓蒙ですね。啓蒙の中には、ライトが入っているんですよ。ところが、闇はその反対。すべてのものの輪郭がなくなり、理性では捉えきれない事が起きそうじゃないですか。そこでこそ、想像力の力が働くのですよ。アストラル・トリップですね。3次元を超えた意識は、4次元とかの高次元にはみ出ているんですよ。で、意識体になって、異次元空間を移動し、お花畑に出現する。この「ごー、ごとん。ゆらゆら(秋桜殺人事件)」は、ぼくらに問いかけているんですよ。事件の背景にある異次元に向けて、ぼくらの内に眠っている超感覚を研ぎ澄ませ!ってね。」 見習いがテレポーテーションと言いかけた時には、「おいおい」と言いそうになったが、絵に描かれた闇夜を見ている内に、見習いの言っている事が、あながち間違ってはいないんじゃないかと思えてきた。まぁ、調書には書けそうもない事だけど。