鰯の丸干し
美しいとは言えない、焼いた生干しの鰯である。
私はこれが大好物だが、ガスコンロのグリルで焼くと魚の油が燃える煙の強烈な匂いが充満して、換気が追いつかない。
夫はこの青魚を煮たり焼いたりする匂いが大嫌いなので、自ずとイワシやサバから遠ざかる。
血液サラサラが実現しないのはあなたのせいよ。
この年頃になって、子ども時代に食べたものが無性に恋しい。
取り立てて料理好きではないし、グルメにも関心がなく、自然食や無添加などのこだわりもない。
スパゲティをパスタと呼ばないし、カレーはS&Bゴールデンカレーで作る。
子どもの頃とそう変わらないものを食べ続けていると思っていた。
でもじっくり思い出してみれば半世紀前とはガラリと変わっていた。
幼いころの台所では、カレーは小さな缶に入ったカレー粉を溶いて、うどん粉(小麦粉を母はそう呼んだ)でとろみをつけていた。
現在最も流通している固形カレー粉が出回り始めたのは私が生まれた1960年前後らしい。
今ではとても公共電波に乗せられないコマーシャル。
ウチではS&B食品のゴールデンカレーを常用しているが、先日夫と連れ立って食料品の買い物をしていて、懐かしいパッケージに目が止まった。
ハウス印度カレー
学校給食のカレーの味がした。
お正月に食べた家庭料理で思い出に残っているのは、八つ頭の煮物だ。
里芋がくっついて固まったようなゴツゴツした芋で、薄甘く煮てホクホクした味わいだった。
八つ頭は千葉県や埼玉県が産地らしく、こちら島根で見かけたことがない。
母の作った八つ頭の煮物を再現したかったので、海老芋でやってみたがうまくできなかった。
同じく関東の野菜に小松菜がある。
小松菜は栄養価がよく価格が安く安定している優良野菜で、今では全国津々浦々あるようだが、私がこちらに来た当時は出回っていなかった。
実家でお正月に食べるお雑煮は、鶏肉で出汁をとった醤油味で小松菜と焼いた角餅が入っていた。
こちら島根の夫の実家のお雑煮は、薄口醤油の出汁に茹でた丸餅と海苔を入れる。
海苔は、冬の岩場で採集する十六島海苔が最高級で、数グラム数百円である。
結婚以来三十余年このお雑煮を食べたが、数年前から小松菜のとふた通り作るようになった。
このお正月はとうとう、岩海苔のお雑煮は食べなかった。
餅は煮るより焼くほうが好きだ。
こちらは搗いた餅を手のひらで丸めるが、関東ではのして広げて四角く切る。
焼くと角のところが焦げて香ばしく、真ん中はプックラと柔らかい。
丸餅は、角がないので茹でると均等に柔らかくなって良いのだろう。
正月のお供え餅を崩して、寒風に晒して干したのを油で揚げてかき餅にしたのを、子どもの頃のおやつに食べた。
そういえば、かき餅もこちらでは見かけない。
あれは、関東地方のからっ風に吹かれてよく乾くものなのだろうか…
寒波が過ぎれば節分が来る。
大いばりで鰯の丸干しを焼いて食べよう。
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