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後輩の家に招待された思い出

いつも楽しく読ませていただいている在間さんの今朝の更新から、古い記憶が呼び起こされたので書きます。

在間さんはご謙遜で子どもに好かれないとおっしゃっているのかもしれないし、それはそれとして捉えているのかもしれない。

私は学童クラブにお手伝い程度に出ているが、あまり子どもたちに人気はないと思う。
子ども、と言うより全般的に自分自身が子どもの頃から年下の者に好かれない。
顕著に自覚せざるを得なかったのは中学の部活動でだ。
吹奏楽部に所属しており進級すると新入生が入って来た。
ある後輩を友人と二人がかりで面倒を見ていたが、あからさまに「◯◯先輩がいい」と口にし、楽器の扱いを教わるのも隣に座るのすら友人を選んだ。
私が話しかけると顔をしかめるほどだった。

友人は当時人気絶好調だった浅田美代子さんを意識した髪型やしぐさの可愛い子で、そんなアイドルを抵抗なく支持し模倣する素直さとありきたりさ(こういう捉え方をするひん曲がった精神が私の顔や態度に滲み出ていたのかも!?)誰からも好かれていたから特別その子だけが慕っていたわけではない。
人気者なのである。
そうはいってもあからさまに避けられるのは悲しいものだった。

こんな私を好いてくれる後輩もいた。
ハンバーグを潰したような顔立ちの金管楽器の女子、仮にMちゃんとする。
Mちゃんは、あまり髪を洗わないのかベッタリと脂っぽく、少し太っていた。
変わった性格のようで、いつもぶつぶつと口の中で何か呟いていた。
急に怒り出したり、不意に泣き出したり不安定で扱いにくかった。
だいたい機嫌が悪かった。
そんなだから誰も近寄らず放っておかれた。
それには全く動ぜず、毎日部活に出席して熱心に練習していた。
よく覚えていないが、その割に演奏がうまくなってはいなかったと思う。

ある日、そのMちゃんが家に遊び来て欲しいと言う。
他の誰も招待を受けていない、私一人らしかった。
私も相当変わり者なので、単身後輩の家に出向くのを厭わない。
友だちの誰それを誘って、なんて考えない。

校区で比較的一戸建ての持ち家の多い地区にその子の家があった。
家を前にして面食らった。
私の住む、半ば朽ちたような社宅とは雲泥の違いである。
そんな豪奢な家に住んでいるような親戚、友人知人がなかった。

玄関チャイムを鳴らすと、応じる声がしてその子の母親らしき女性が出迎えた。
美容院から戻ったばかりのように髪をセットし、自宅だというのにスーツを着込み化粧を施した、大げさでなく(昭和四十年台の女子中学生の目であるが)女優さんのように美しい方だった。
Mちゃんとは似ても似つかない。
次いで母親の背後から、小学生と思しき女児が現れた。
ツインテールにリボンを結び、フリルのついたワンピースを着ていた。
これまた絵に描いたように愛らしいのだ。

二人は大歓迎で私を応接間に招き入れた。
テレビドラマでなく、ソファやピアノ、サイドボードが設置された応接間というのを見たのも、入ったのも初めてだった。
見上げると小ぶりではあるがシャンデリアが下がっていた。
少女漫画の世界なのだ。

促されるままにソファに浅く腰掛けて居住まいを正したつもりでいると、二人は出ていき代わりにMちゃんが入って来た。
特にいつもと変わりなく、笑いもせずお世辞を言うでなくその辺りに腰をかけた。

間も無く母親とは思えない母親と思しき人が、お盆にソーサー付きのカップとケーキを乗せた、カップと揃いの柄の皿と、銀色のフォークとスプーンと角砂糖の入った小皿を乗せてきて、乳白色のマーブル模様の低いテーブルにそれぞれ置いた。

私は目を白黒させるばかりだ。

ケーキなんていうのは、近くの食料品店で売られている赤いゼリーをさくらんぼに模した、口に含むとベッタリと舌にまとわりつくような、スカスカのスポンジのバターもどきケーキをごく稀にと、年一度クリスマスのホールケーキをきょうだいで分け合って食べる程度なのだ。

あっけに取られて身の置き所に困っていると、Mちゃんが口を開いた。
私にではなく母親と思しき人にである。
何を言ったのかは覚えていない。
覚えているのは、酷くぞんざいな口のききかたでなにか命令したということだけだ。

親に向かってこんなものの言い方をしたら、私の母親なら張り手が飛んできかねないと思うぐらい、乱暴で無礼だった。
しかし母親と思しき人は怒りもせず優しく美しい笑顔を貼り付けたまま、甲斐甲斐しくティーポットから紅茶をカップに注ぎ入れているのであった。

その一撃(?)で余計に萎縮してしまい、ケーキを味わう余裕もなく、その後のことは反芻しなかったので記憶にない。

帰りがけMちゃんと三人で玄関に出て見送ってくださった。
また遊びに来てくださいと言われたが、再び来ることはないだろうと心に誓った。

Mちゃんとはその後親しくなりもせず、たまにぶっ倒れたりしてそのうち病気かなにかで部活を辞めてしまった。


※昭和なシャンデリアの画像はよっしーさんよりお借りしています。
ありがとうございます♪


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