改造詩人参拾参号「ダズル・ステイトメント」
「夢はきっと叶う」と微笑む テレビの中の反町順子
「あなたは望まれて生まれてきた」と語る 担任の北山
「愛しているの響きだけで強くなれる」と歌う草野マサムネ
シトラスの匂いがうっとおしい1500円のワックスをつけて
胸躍るロマンスがやってくると思っていた 10年前の冬
エレキギターを首にかければ 何かになれると思っていた 狭い部屋の中
夕方のエルミロードで 風のような声が追いかけてくるのを待っていた
夜の街で 怪物と死闘を演じる 大鎌を持った少女を探した
何かすてきな何かを求めて ヴィレッジヴァンガードの中をさまよう
キラキラしたものに囲まれていた俺は
10歳でもう めくらだった
幻惑の中をさまよう俺は いい笑いもの
夢を見れば見るほど 俺の身体は失速していった
ショーケースの中で煌めく宝石が
俺のものにはならないと気づいたとき
俺は知らない駅に取り残されていた
たった一本の線路 終点は名前もない無人駅
何もできず
何も得られず
打ち捨てられて骨も残らない……
ショーケースの宝石が笑っている
俺はいつから 石ころの奴隷になったのだろう
取り戻せ 見失った俺を
もらいもののコンパスを捨てて舵を取れ
振り向くな 前も見るな
重力に縛られた世界に用はない
空想をどこまでもさまよい
幻惑をどこまでも潜れ
素晴らしきデリュージョン 歪んだ真珠に映るラビリンス
美しいものがあぶくのように溢れ出る
俺はそれを愛でることも
遊ぶことも
壊すこともできる
ショーケースのガラス玉は忘れて
憂鬱なエメラルドを踏み潰す
その破片で飽きるまで遊んだら
壊れかけのロケットで星座を造るんだ
俺は形而上世界の錬金術師
輝く暗黒の中を
どこまでも進むんだ