改造詩人陸号「美しきDNA」
蜜柑の枝に 丸々と肥えた芋虫
肉厚の葉を短い歩脚で抱きかかえて 一心不乱に貪っている
動きが鈍く 木の上を這うしかない芋虫は
抗う術を持たない
芋虫は蜜柑の葉を一心不乱にかじり続けた
鳥の糞のようだった体は蛇のように太くなり 今にもはちきれそうだった
蜜柑の葉はほとんど食い尽くされていた
芋虫は本能的に知っていた
いずれこの体は生まれ変わることを
背中に授かる羽は 鮮やかな鱗粉で美しく彩られていることを
自分が硬い枝の上を離れ 空に飛び立つことを
重たい肉の塊を捨てて この世界のどこにでも行けることを
見えない複眼で 芋虫は陽射しの眩さを感じ取り
その身をよじらせた
芋虫には多くの同族がいたが
鳥に食われ 蜘蛛に攫われ 蟻にたかられ 蜂に内側から食い殺された
運命に愛された芋虫は蛹となって Metamorphoseのときを迎えた
それは突然始まった
体内に仕込まれていたある器官が 芋虫の肉体をどろりどろりと溶かし始めた
芋虫は 自分の中にある意志の存在を悟った
もう一つの生命
DNAの奥底に潜み 宿主が育つのをじっと待ち続ける遺伝子
然るべき時が来ると その遺伝子は目覚め
過酷な時間をかけて育った肉体を自分のものとする
自分の命が終わることを悟り
自分の生が
夢が
苦しみが
自分じゃない誰かのためのものだったことを悟り
芋虫の情念は 蛋白質のスープとなって消えた
やがて蛹の中から 美しい蝶が生まれた
蝶が”はじめて”みる景色は
木々の向こうに広がる蒼い空
鮮やかにきらめく羽をはばたかせ
蝶は飛び立った
芋虫が夢見た空は
どこまでも広がっているように見えた