改造詩人拾参号「金色の少年」
春の気配に覆われた町
風にあおられた濃緑の木々が 音を立てて踊る
空は恐いくらいに青くて
道路やマンションは
白く輝いていた
その輝きにざわつく心を
冷たい風がなだめている気がした
アスファルトの上を
人と蟻が行き来している
公園では 少女たちがバトミントンをしている
高架下に はしゃぎ声が反響する
ベンチでは 母親がベビーカーに乗った幼子に話しかけている
自転車に乗った男子中学生の集団が 自分の横を追い抜く
変声期の前の青い声が 風とともに過ぎ去っていった
坂道を見上げると
少年が立っていた
春の輝きの中で
黄金に輝く少年
細く それでいて男という性の力強さが肉に浮き出ている手脚
坂道の真ん中に立ち 私を見下ろしている
茂る緑は風に揺れ
空は恐いくらいに青く
春の光が世界を輝かせていた
この世には 私と春と 少年しかいないのだろうか
坂道を登るけれど
少年の輪郭はいつまでも曖昧で
ともすれば輝きの中に消えてしまいそうだった
私が歩くときに生じる風で
どこかへ飛んでいってしまうのではないかと思えた
半分も登りきらないうちに
私は足を止めた
少年はまだ 坂の上に立っている
電柱
階段
地蔵尊
自転車
植木鉢
全てが神秘を纏っているようだった
私は 首に下げていたカメラのスイッチを入れ
フレームに少年を納めた
光り輝く風景を見つめて
カシャリ
機械的な音とともに シャッターがおろされた
それによって 世界も分断された
カメラを下ろすと
少年はいなくなっていた
この世には 私と春と あまりにも多くのものが存在している
茂る緑は風に揺れ
空は恐いくらいに青く
金色の少年を探して
私は春の輝きの中をさまよう