インセンティブ設計の肝は経済合理性以外を考えること
今までマーケティング領域における展示会のあり方とか、バーティカルSaaSの魅力について話をまとめてきました。
キャディのマーケを担当している、アブサンと言います。
今回もマーケティングがテーマですが、ぐっと抽象度の高いテーマを取り上げてみます。
我々は資本主義経済の下に生きているが、本当にそうか?
ちょっと堅苦しいテーマですが、マーケだけに限らず幅広く本を読むなかでそう思うことがありました。贈与に関係するような本を読んだり、哲学や心理学の本を読む中で。またCOTEN RADIOからも、歴史と現代における共通点や、世の中の原理や原則についても学ぶなかでもそう感じていました。
資本主義は、個人や企業が自由にお金や財産を持ち、それを使って商売や仕事をすることができる経済の仕組み。で、資本主義下では資本(お金や財産)を持ってる人が権力を持つ状態が生まれやすく、結果として目に見える資本に人々は執着しやすい。
お金持ち=権力者、成功者
この構図ができやすいのが、資本主義。
だから、今は自らの成功とか幸福と、お金を重ねて連想する。
と私は考えてるのですが、実際意思決定する際は、お金とか資本を基準とした経済合理性だけではない、というシーンが実際はかなり多いなと。そのことを改めて認識させて、言語化してくれたのは、この「ゆっくり、いそげ」という本。
詳細な紹介は割愛するんですが、ここ2~3年で多分100冊以上読んでるなかでTOP3には入る本でした。マッキンゼー→VCといったまさに資本主義の上位にいたような人の著者が、お金以外の経済のあり方とその可能性を模索、探索しているカフェについての話なんですが、その中での描写としての、「健全な負債感」とか「消費者マインドを刺激しない」あたりの表現は心打ち抜かれたので、over30の人には全員にオススメします。
話を戻すと、資本主義でお金の重要度が高い世界に生きていると、お金を優先して物事考えたり意思決定することは、資本主義経済下での攻略法的な生き方。でも実際はそうじゃなくて、お金を基準とする意思決定になっていないことは多い。
資本主義経済的には合理的な意思決定じゃないシーンが数多くあると考えると、資本主義経済という考えの中だけで生きているわけではないなと。
日常でも、安かったりとか特段なにか名物的な美味しいものがなくても、なんか行きたくなるカフェとか、ごはんやさんとかあったり。
その意思決定って結構おもしろいよなぁと。
株式会社COTEN代表の深井さんの記事でも、「お金が重要な価値観になり始めたのは、人類史上でも150年ぐらいの話でそうじゃないときのほうが長い」と触れられていて、なら資本主義的な意思決定じゃないものが多いのも当然だなと。
ビジネスのシーンでは特に資本主義経済の側面からしか考えていないことが多いが、物事を考える視点としては十分じゃない。
顕著なのはインセンティブの設計の時。結構資本主義的な観点でしか考えていないことが多い。それ以外のインセンティブの設計がうまくできれば、差別化できるものになるなと。マーケターとして、この辺を考えられていないとちょっと駄目だと気づき、以下に発散してみます。
よくあるインセンティブとそこで生まれる違和感
アプリDL獲得の施策やイベントへの集客などの集客装置としてのアマギフやお金、また社内でもヘビーユーザーへの恩返しってどうする?みたいな話で、インセンティブの話はある。
マーケティングに携わる人もそうじゃない人も、インセンティブについては日常的に触れている。例えばこんな感じ。
アンケート答えてくれたら、AMAZON ギフト券500円分をプレゼント。
友達にアプリを紹介してくれたら、500円分のポイントプレゼント。
金銭的なものに限らないが、実利的な観点での価値に換算されやすいものがインセンティブとして設計されていることが多いし、どうしてもそこばかり目が行きがちであると思う。
一番シンプルなのは、やはりお金。
最近顕著になってきたと思うのが、マーケティング施策でも特定のサイトでしか使えないような限定的なポイント還元ではなく、より幅広く活用できるポイント(要はお金に限りなく近い)や直接的にお金を渡す施策が増えてきた。
またそれがわかりやすくサービスグロースに寄与してきたこともあり、拡大している。
特に、キャッシュレスとかQR戦争とも言えるようなLINE payとか、paypay、メルペイ、origami pay、とかのプロモがきっかけで更に加速した感覚もある。
自分たちのプロモーションとかアンケート施策、また展示会で配るノベルティでもAmazonギフト券(以下アマギフと省略)配ったら早くないかな?って思うときは実際あるし、やればきっと効果は出る。
でも、なんか違うなと思って踏みとどまった。
展示会で配るノベルティは自社のロゴのデザイン入れると、結構な単価になる。ならこういったデザインとかぶっ飛ばして、アマギフを配れれば手っ取り早くて、おそらく名刺の獲得枚数には絶大な効果をもたらすと思う。
同一の人が複数回もらいにくるみたいなことはあったとしても、名刺交換の効果の最大化だけを考えると、インパクトをもたらす施策になりうる。
でもなんか違う。きっと違うはず。
このなんか違うの正体はなにか?
あらためてちゃんと考えてみた。
通常の企業のロゴ入りの弊社で使ってるノベルティはこんな感じ。
オリジナルチロルチョコ
受け取る側は、広告宣伝文脈も感じるから、
・他者貢献(受け取ってあげる):60
・メリット(チョコ食べたい):40
ぐらいの気持ちになってると思う。
コンパニオンさんや社員が頑張って渡しているから受け取ってあげるかと、他者への貢献感もある。
参加者側:情報収集をしたい。+頑張って配ってる人のために力になるか
企業側:有益な情報を渡したい。
この場でノベルティを基点にサービス紹介をすると、双方の目的がマッチングしている。この頑張って配ってる人に期待に応えたい!という思いからスタートするマッチングは多い。実際そこを狙って、キャディで全員で通る方にお声がけしている。
他者への貢献感が生まれ経済合理性とは違うインセンティブが生まれている。
ここでアマギフを渡しているときに受け取り手の心情を考えると、
・他者貢献(受け取ってあげる):0
・メリット(アマギフ欲しい):100
みたいになる。
受け取ってあげるかという気持ち(他者への貢献感)はほぼ0になり、金銭的なメリットを得たいという思いが心を占める。
そうなると、渡す側の企業側の力関係が優位になる。
このとき、参加者は展示会に参加しているときの情報収集的なモードから、500円を得るという消費者的なモードに変わる。
明確に参加者の態度は変わりうる。
本来情報収集に来ている参加者が、500円のインセンティブのためにサービス紹介を聞いているということになり、自社の業務改善の情報収集のためではなく、500円のためにサービスを聞く形となる。
500円を仲介したコミュニケーションで、お金に限ったインセンティブが発生していて、それ以外のインセンティブは少ない。誰かへの貢献感が消える。
これらの状況を対比したときに、どちらが関係性として長く続くかとか、商談のきっかけになるかを考えてみたら、きっとノベルティを渡す方法なんだろうなと。金銭はすごく便利で成果を得るプロセスを短縮することができるツールではあるが、人と人とのコミュニケーションにおいて間に入ることは、万全ではない。今回の例だと、お金がない方がいい。
インセンティブを渡してはいけないタイミングはきっと存在する。
経済的側面が強いインセンティブを渡すとネガティブなことは起きえる。
これ実は無意識的には日本で生まれ育った人なら持っている感覚ではある。
友達やパートナーに誘われて遊びに行って、めちゃくちゃ楽しかったとする。
で、その時のお礼として、じゃあ今日楽しかったから、1万円。とか渡さない。
そうここでは、渡しちゃダメなんです。
そこのインセンティブの渡し方は、次こっちから誘うとかめっちゃおもろかったなとか行って飲みにいくとかであって、想いに対しては想いを返すことが必要なんです。
お金を渡してきたら、それ目的で遊びにいくとかなるとギクシャクしちゃう。
なのに、対企業のコミュニケーションだと結構この観点が抜けてて、結構わかりやすいインセンティブを返していることも見るなぁと。アンケートに協力してくれたら、アマギフ500円とかはまさにの例だなと。
時間作って協力してくれた人に500円ってことだけじゃなくて、そこの協力してくれた想いにはなんらか応えた上で、気持ち程度のアマギフをという設計は必要になるかなと。ここが抜けると、500円目的の人ばかりが回答するという本来集めたいデータからはどんどん遠のく事態を招く。
人間味のあるコミュニケーションを、ビジネスの世界でも。
ちょっと長くなったが、資本主義経済の観点だけでインセンティブを考えるリスクを考えた。
その資本主義の先にというか、違う次元なのかもしれないが、すぐ近くに存在しているのは、社会主義経済ではなく贈与経済なのかもしれないと最近は思っている。
経済合理的な判断だけで、人は動いていないし、動かない。日常生活的には当然なようだけど、人対人のときには理解しつつも、ビジネスでの企業対企業もしくは、企業対人の状態になると、経済的なメリットで判断をしがちだ。
500円のインセンティブがないと、アンケートに回答してくれない。
そうじゃない。
そのアンケートを取る意味や、背景、活用の仕方について、協力をお願いする立場としてきちんと伝えきれているだろうか。そこをサボって、500円のアマギフを渡せばデータが得られるとだけ考えていないか。
企業と企業のコミュニケーションに関しても、普通に礼儀を持ってやりとりすることは必要。どうしても、マーケティングだとコミュニケーションのベースが対N(不特定多数)の考えがあるので確率論的に考えたり、数字的な見方に偏りがち。
その先にいるのは、結局は人。
営業の現場で、購買の意思決定の要素として大きいのは、結局誰から買うかという”人”に依存するよね、という話が増えてきている。
マーケティングも同様、先にいるのは”人”だ。
キャディの大事にしている考えで、「至誠」というものがある。
これを会社で働いていると会社間での関係性で扱われることが多いが、会社だけじゃなく全ての関係性において意識をして行動していきたい考えだ。
私自身キャディで大事にしているから大事にするということを超えて、自分にとって必要な考えだと認識している。
お金で人を動かすではなく、対”人”の意識をもって「至誠」を持ったコミュニケーションが今後はより重要度は増す。原則的には、人間は他者への貢献がベースで、利己的な行動の先に利他的な行動を取るようにできていると心理学的にも、生物学的にもいわれている。
参照文献(心理学と、生物学的なやつ)
事業成果のために自分たちが何を得るかを先に考えるのではなく、
相手に対して何ができるのかを自由に考える。その上で、マーケティングとして相手の気持ちを動かすキーは何なのかに対する打ち手を選んでいくことを大事にしていきたい。
そんなことをキャディのマーケティングでは大事にしています。マーケティングは様々な手法やテクノロジーがあるが、枝葉のことよりも幹になるような本質的なことを考えている組織です。
マーケティングの方法論に閉じず、根本的な考え方、本質について突き詰めたいと思っている方をお待ちしています。
また、何かご意見いただける際はぜひ直接ご連絡ください!
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参考文献