好きな人① カレル・チャペック

カレル・チャペックは私の好きな作家のひとりだ。チャペックはチェコの作家で、ジャーナリストで、エッセイストで、小説家で、戯曲家で、動物愛好家で、園芸家である。大学では哲学を専攻していた。お兄ちゃんのヨゼフは画家であり作家で、二人で一緒に手掛けた作品も少なくない。

チャペックといえば『ロボット(R. U. R)』が最も知られているだろう。何を隠そう、「ロボット」という言葉はこのチャペックの戯曲によってはじめて生まれた。

『白い病』も名作である。かれはここで、「戯曲が存在するのは、世界が良いとか悪いとかを示すためではない」と言い切っている。我々はチャペックが戯曲を通して示そうとしたものをしっかりと受け取らなければいけない。戯曲の舞台に立っているのは誰か?唯一の希望を踏み潰したのは誰か?その罪を贖うのは果たして誰なのか?

『絶対製造工場』は単なる長篇小説ではない。チャペックによるとこれは「長編的連載短編」で、もとは新聞の連載作品だった。タイトルからも察するとおり、バルザックの『絶対の探究』を多少は意識しているのかもしれない。各人が「各々の絶対」を持つようになると、世界は一体どうなるのだろうか。この物語を進めるのは、作品のタイトルとは裏腹に相対主義の哲学である。

『園芸家12ヵ月』では、大の植物好きとしてのチャペックの側面を堪能できる。土や種子や天候を前にして奮闘する姿は、その熱狂ぶりに圧倒されるばかりである。年がら年中庭仕事。ここまで愛するものがあるというのは羨ましい。

『いろいろな人たち』というエッセイ集もある。この中の「「シカシ人間」たちについて」なんてのは傑作である。この一編を読むだけで、チャペックが国民的、いや世界的に愛されるであろうことは容易にうなずける。ここでは、なにかにつけて「しかしね、」と話の腰を折るような人間が、どれほど有害で恐るべき存在かということが述べられている。あなたの周りにもシカシ人間が潜んでいるかもしれない。それとも、ひょっとすると私自身が?

『ロボット』にせよ『白い病』にせよ『絶対製造工場』にせよ『園芸家12ヵ月』にせよ『いろいろな人たち』にせよ、チャペックの描くものの根底にはいつも人間愛がある。題材がロボットだろうが疫病だろうが戦争だろうが植物だろうが、チャペックが見ているのはいつも人間なのである。彼の作品は人間なしでは始まらないし、人間なしでは終わらない。

誰でも自分自身のすばらしい神様を信じているが、ほかの人のことは信じないんだ。その人だってなにか善なるものを信じているのに。人はまず、なによりも人を信じなきゃいけない。

カレル・チャペック『絶対製造工場』飯島周訳、平凡社、2010、274頁

おれたちのさびしさや、おれたちのうたがいなんてものは、まったくナンセンスだ。いちばん肝心なのは生きた人間であるということ、つまり育つ人間であるということだ、と。

カレル・チャペック『園芸家12ヵ月』小松太郎訳、中公文庫、2020、185頁

人間中心主義も、案外悪くないのかもしれない。チャペックの作品はそんな風に思わせてくれる。

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