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焼酎呑んで生肉を喰らう
※今回のトップ絵はPixAIさんに「レストランで熱々のステーキをフォークとナイフを使って美味しそうに食べようとする紙エプロンをした女の子」というお題で描いていただいた一枚。
何故か女の子が二人登場して、エプロンもちゃんとしたヤツだし……。
でも、可愛いからいいかw
生肉を食う
まあ、厳密には生肉ではないのかもしれない。
世界的にはこの肉を食うことを公言できない程度にヘイトを集められるであろう「鯨」という生き物(厳密にいうとミンククジラ赤肉)の冷凍した肉を、冷蔵庫のチルドルームに一日ほど放り込んで、「あ、鯨の肉解凍してたの忘れてたっ!」って感じの、ドリップ(水分と血液の混じった赤みの強い水っぽい液体)が肉からかなり出ている真空パックのシロモノだ。
冷凍した肉は、厳密に言えば生肉ではないが、まあ加熱調理してはいないので、ここでは生肉扱いとさせてもらう。
鯨の肉は、数少ない「生で食べることが許されている肉」なので、僕は鯨の刺身なんかを食べられるとなると、なんだか嬉しくなってしまう。
鯨ベーコンに魅せられて
今ではちょっと脂がキツくてあまり食べられなくなったけれど、鯨を初めて自ら食べたという記憶は、父親が晩酌の際に食べていた鯨ベーコンや尾羽といった部位で、子供の頃に夕飯が出来上がるのを待ちながら、安いウイスキーを飲みながら酒の肴をつついている父親の一瞬の隙を見つけて、ササッと箸を突き出して横から鯨ベーコンの切れ端をかっさらって口の中に放り込んだことだろう。
世代的に、鯨の竜田揚げ的なものが給食に出ていそうなのだけれど、そちらの記憶が僕にはなくて、鯨というとベーコンの記憶が僕には強い。
商業捕鯨モラトリアムの頃になると父親の酒の肴がカツオのたたきに変わってしまい、当時はそういう世界の動きを知らないものだから「鯨ベーコン、どうして食べなくなったのかなぁ?」と、とても不思議だったのを、今でもよく覚えている。
確か父親は「売ってねえんだから食えねえんだよなぁ」みたいにボヤいていた気がする。
ただ、食べられないとなると無性に食べたくなるもので、その欲望はずーっと記憶の奥底に刻み込まれて、僕が成人して、色々挫折をして関東から地元に帰ってきて、長々と記事にもした風俗誌の編集部に入って、嫌々参加していた宴会の場に鯨ベーコンに再会した際には、小躍りして喜んだ。
あの職場の宴会で数少ない嬉しかったことは、鯨ベーコンを飽きるまで食えることだったんだよなぁ……。
何故鯨を食うのだろう?
まあ、今でこそ、一部スーパーなんかでニタリクジラを手に入れることができるようになったけれど、やはりいわゆるジビエ的な存在なので、供給量は限られているし、積極的に売り出すことのできない食材なので、鯨を好んで食べる人というのは正直少ない気がする。
いや「気がする」のではなくて「少ない」んだよね、事実として。
某団体の資料によれば、国民一人あたり数十グラム程度の消費量らしい。
まあ、そりゃあそうだろう。
そもそも流通量が少ないものだし、手に取る機会も少なければ、売っている場所も食べられる場所も少ないからね。
それを畜産の精肉と比較すること自体が馬鹿馬鹿しいわけで、それを「国民一人当たり」とか表現するのは、僕に言わせれば愚の骨頂以外のナニモノでもない。
じゃあ、そんなシロモノを、何故僕は好んで食べようとするのだろうか?
一つには、ノスタルジーがあるのだろう。
僕にとっては鯨の肉は未だにご馳走で、赤身の刺身を頬張るその時にな、かつて父親が酒の肴にしていた鯨ベーコンを思い出すのかもしれない。
もう一つには、感謝があるのだと思う。
かつて、僕らの上の世代の人たちは、食べるものにも困って、鯨を貴重な食糧として生き延びていた時代があって、それを踏まえて今の僕らが生きていると考えると、世の中がどんなふうに動いていこうと、食べられる限りはありがたく頂きたいと、ある時期から思い始めたからだ。
その話は更に長くなるので割愛するんだけど、僕が思うに「クジラを食べていなかったら、僕らは生まれていなったかもしれない」と、そんなことを思うから、できる限りマメに鯨を食べるわけだ。
奇異の眼で見られながらも
適当に仲が良くなった人には、僕が鯨を食べることを話すわけだけれど、多くの場合は「変わった人だ」という目で見られる。
中には強烈な拒否反応を示す人もいる。
「蓼食う虫も好き好き」だから、それは仕方がないと思うし、まあぶっちゃけ癖のある食べ物だから、好まれないのも仕方がない気がしている。
でも、まあ、幸いなことに奥様はその辺寛容なので、この先も多分、鯨の刺身を食べながら焼酎を呑んで、僕は生きていくのだろう。
世の中、どうなるかわからないからね。
食べられるうちは、ありがたく頂きたいと思うんだ。
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