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大人のために生きてるわけじゃない、と

高校受験の当日、駅に向かう車のなかは静寂に包まれていた。大事な受験の日だ、ノートの見直しでもして試験に備えるべきだろう。しかし私はというと、盛大な反発心を胸に抱き、目には涙を浮かべていた。

べつに親と揉めたわけじゃない。その日はいつも通りだったし、朝ごはんもしっかり食べた。

じゃあどうしてこうなっていたのか?それは、miwaの『結ーゆいー』という曲を聴いたからだった。

われながらあほな選択をしたものだと思う。だって、大事な受験の日だ。そんな日に内容を何も知らない、はじめての曲を聴いたんだから。もしメンタルをやられるような曲だったらどうしていたのか…(笑)だけど幸いなことに、この曲はわたしに力をくれた。

「大人のために生きてるわけじゃない」と
うつむいた瞳には映らないけれど
見上げればこんなに青空は広いのに
どんなにがんばったって うまくいくわけじゃないけど
夢は描いた人しか かなえられないんだから
信じること
あなたの中に 眠ってる力に気づいて
あきらめないで
無駄なことなんて なにひとつないって思い出して
僕たちはなにより強い絆で結ばれている
人がひとりでは生きてゆけないように
ひとりで描く夢は小さいけれど
僕たちはきっとあの空を越えるはず
苦しくて逃げてばかり 自分が情けなくなる
だけどみんなと笑って たどり着きたいんだ
遠ざかる雲
手を伸ばしても 届かないものもあるんだから
いちばん手に
入れたいものって 簡単じゃないでもあきらめない
僕たちはなにより強い絆で結ばれている
信じること
あなたの中に 眠ってる力が欲しいの
自分のため
だけじゃ乗り越えられないときが今あるから
信じること
あきらめないで
僕たちはなにより強い絆で結ばれている               Uta-Netより引用 https://www.uta-net.com/song/216031/

ずいぶん衝撃的なはじまりだなと思った。「大人のために生きてるわけじゃない」なんて、「いい子」の私には言えない言葉だった。たとえ思ったとしても、腹の底に据えてくすぶらせておくことしかできなかった言葉だ。それでいて、ずいぶん現実的な歌詞だと思った。「どんなにがんばったってうまくいくわけじゃない」なんて、受験当日に聞く言葉ではない。

それでも、私がこの歌に力をもらえたのは、こういう現実的な部分をはっきり言ってくれたからだ。


受験とかそういう「大事な日」を控えていることを知ると、人は「がんばれ」とか「うまくいくよ」とか前向きなことを言ってくれるけど、わたしはそういった言葉をむやみに使うのはあやういと思う。だって、うまくいく保証なんてないんだから。言われた瞬間はうれしいけれど、そのあとに残るのは相手からの期待だ。言われれば言われたぶんだけ、期待が自分に積み重なっていく。

有難いことに私は「がんばれ」を言われ過ぎた。だからたぶん、このときの私は他人からの期待におしつぶされそうになっていた。そんな私をこの歌は解き放ってくれた。


衝撃を受けたのもつかの間、曲が進むにつれてむかむかしてきた。「どうして私は受験会場に他人を連れていこうとしているんだ、どうして私は他人の『がんばる』を体現しようとしているんだ、、自分のための受験なのに!」心のなかで騒ぎまくった。そういう大事なことに、たった今気づいたことへの悔しさと、今気づけたことへの安堵であたまのなかはめちゃくちゃだった。

混濁した想いが涙とともにながれきったあとの気分は爽快だった。いまならいける。身一つで勝負してこよう。…と、精神だけは無双状態で駅に着いた午前7時。

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