身近な場所が新たな学びの場になる 世界最古級の石器を三島市楽寿園でみた【紀行文】
静岡県三島市の国指定名勝 楽寿園へ
静岡県三島市には楽寿園と言う国指定名勝の庭園があります。三島駅の南口を降り左手・東方向に行けば三島大社があり、右手すぐに楽寿園の入り口があります。
この楽寿園の名称自体は、昭和27年に決まるなど新しいものですが、その歴史は古く、かつて富士山噴火による溶岩流がここで止まり、溶岩地形や自然湧水の小浜池などが形成されました。三島市の中心部が屈指の湧水地として知られるのも、この溶岩流の末端であるからのようです。
三島大社の「禊」の場として利用されたり、皇族の邸宅となるなどの経緯を経て、現在でも市民憩いの庭園であり動物園、そしてこうした天然の地形の特徴がジオパークとして知られています。
子供のころよく行った場所、もう一度見直してみると?
この楽寿園には子供の頃からよく訪れていましたが、改めて大人になってきてみると限られたところ(主に遊具や動物のいるところ)しか見ていなかったなと思います。
楽寿園内には、実際、楽寿園内の見所としては楽寿館や梅御殿などの文化財となっている建物があります。この中にある襖絵なども魅力のようです。 また、楽寿園自体が国指定名勝やジオパークとなっており、文化財的価値に加え、自然科学の面からも注目されている、こんなことを知ったのは実は、つい最近です。
価値を知ることって、本当に大事だなと思います。
楽寿園内にある郷土博物館へ
この楽寿園をゆっくりと見回るのも気持ち良いのですが、今回はこの楽寿園内にある三島市郷土博物館がお目当てでした。
三島市郷土博物館には、三島市内で発掘された考古資料のほか、各年代の郷土資料が展示されています。
三島の考古資料については愛鷹山麓との関わりが強く、そのため愛鷹山麓が跨る富士市、沼津市、三島市での合同展示を今年一年間やっているようでです。
旧石器時代から愛鷹山麓には人が住んでいた
旧石器時代より愛鷹山麓には人類が住みつき生活を行っていた跡があります。特に沼津の井出丸山遺跡では最古級の旧石器時代の石器が見つかっています。その井出丸山遺跡がある愛鷹山麓の中腹ベルト地帯には、数々の旧石器時代の遺跡があり、いずれも日本最古級のものとされています。
また、この三島地区での特質すべき点としては、落穴猟の罠の跡が見つかっていて、これが日本はおろか世界的に見ても最古級の狩猟における罠跡と言われており、非常に珍しい、価値のある遺跡です。
今後、この価値が日本の考古学界から世界に向けて発信されていく機運があるようです。このニュースに期待したいですね。
これらは東名高速道路などの道路開発の際の発掘調査で見つかったものです。今後何らかの理由でこの辺を開発もしくは発掘調査することがあれば、さらに多くの発見があるのではないでしょうか。
ただ、現在積極的な発掘調査と言うのには手が回っていないようで、事実上は工事開発に伴う緊急発掘調査、そして記録保存が優先となっています。
開発を優先しなければならない、考古学の悲しい実態があります。
世界も大注目!? 愛鷹山麓の旧石器出土物
今回の展示会では、愛鷹山麓の主要な遺跡を市域をまたいでピックアップしています。私は考古学の専門家ではないし、まして遺跡ごとの細かい石のや石器の分類はできず、また仮に分類できてもそれだけではあまり面白いと思っていません。
世界的に同時代の出土遺物を比較し、人類の足跡を考察するとか、その石器を使った人々が、何を考え、どのような心を持っていたのか、何かを信仰していたのか、などの精神や心性に興味があります。
この愛鷹山麓の遺跡ですが、世界的に旧石器時代の遺跡として注目が高まっている遺跡です。旧石器時代と言えば、打製石器と言われる石を打ち欠いて作ったものが主ですが、一部この愛鷹山麓では、磨製石器、つまり打製石器の一部を磨いたものが出土しているそうです。
つまり旧石器時代の特徴である打製石器でありながら、同時に新石器時代に登場する磨製石器の特徴も持っていると言うことです。
これは世界史的に見てもかなり特筆すべき部分であり、決してナショナリズムから言うのではなく、この日本に住んでいた人類の技術が世界に伝播していったと言う説についても、一定の説得力があると思います。
信州産や海を隔てた神津島からの黒曜石が運ばれてきており、海を渡る技術力があったことが証明され、このことも浪漫あふれる事実ですね。
丸木舟で三万年以上前の海を渡る技術を検証した動画はこちら。
こうして高い航海術を持っていた日本人は、40キロ以上離れた神津島産の黒曜石を調達し、また信州の和田峠などの良質な黒曜石を求めて、とてつもない旅をしていたことが分かります。
旧石器時代の遺跡としては、日本で最初の国指定史跡となった休場遺跡についての展示もありました。
身近な場所をもう一度学び直すと世界が広がる
三島市は隣町ですが、子供のころからよく訪れていた場所です。とはいえ、子供のころは、文化財的な価値は知らず、遊具と動物園の世界でいっぱいでした。
史跡は、公園として整備されている場所も全国に数多くあると思います。何気なく訪れている場所のことを、ちょっと調べてみると思いもかけず面白いことが分かると思います。
最近、考古検定を受験しました。
今では、調べることは飛躍的に楽になりましたが、ある程度体系的に知識を整理し、また代表的なものを覚えておかないと、本当に楽しんで紀行文が書けないと痛感しています。考古検定の勉強を通じて、ある程度の体系化された知識を吸収することができました。
ここ数年、遺跡巡りや縄文文化、歴史ある神社などを巡り、いろいろ調べつつ、こうしてnoteにまとめていますが、いつも知識不足を痛感します。
今年一年は、数多くの遺跡や博物館を訪れ勉強をさせていただきましたが、来年も引き続き、古代の人々の思想や思いについて調べ、それらを感じることのできる旅をしたいと思います。