2024年8月 観た映画感想文
タイトルの通り、2024年8月に観た映画の感想文です。
対象は映画館で観た新作のみ。
ストリーミングで観た分や再上映で観た過去作品、テレビアニメなどの総集編作品、観るのが2回目以上の作品などは末尾にタイトルだけ備忘録として書いておく感じでいきます。
前月の分はこちら↓
劇場版 モノノ怪 唐傘
前作にあたるテレビアニメシリーズを観てなくても余裕で楽しめる作りになってたのが地味に嬉しい。
とにかく画面の情報量とその密度が尋常じゃなくて目が回るかと思った。極彩色で浮世絵調な背景のなかをキャラクターが縦横無尽にグリングリンと惜しげもなく動き回るクライマックスのシーンは圧巻の一言。ていうかそもそも全編を通して動きが止まってるシーンがほとんどなかったんじゃないか?ってくらいキャラや背景がずっと動き続けていて多分全容を把握しきれてない。細かい描写とかに気を配っていれば様々な伏線・布石を見つけられただろうに……と思う反面、細かい描写に気を配る余裕なんて一切ないくらい次から次へと視覚情報が飛び込んでくる本当に忙しない作品だったから仕方ない。
独特なのは絵柄だけじゃなく、他で見たことないような奇抜な演出もいっぱいあった。特に印象深いのは「香り」の表現で、ある意味力技だなとは思うもののあれは一つの発明とすら思える。
細かい設定は一旦置いておくと、ギチギチに詰まった画面の情報量に反して話の筋自体は結構わかりやすかったように思う。最初から漂い続ける不穏な空気、大奥に蔓延る謎の風習、転げ落ちるように悪化する事態、その最中にあっても中止を許されない催事、そして更に悪化する事態……最後には限界を迎えて……っていう、因習モノ的な話の運び方。あくまで薬売りが決め手を出せるのは限界を迎えて決壊した時だから、そこに至るまでのひたすら事態が悪化し続ける様子についてはじっくりと心置きなく描いてくるって点がなかなかエグい。
「最終的に薬売りがどうにかするんだろうなぁ」と分かっていてもヒリつかされるというか、途中からは「薬売りさん早くこの状況何とかして〜!!」って気持ちにさせられる感じ。当の薬売り本人も厚化粧とポーカーフェイスでわかりにくいってだけで結構焦ってそうではあったのがまた焦燥感を煽る。
エピローグに差し掛かったあたりで「そういえば井戸って結局何だったんだ?」「地下に鎮座してたアレは?」「てかこの世界における大奥の本当の目的って何だ?」「まだ回収されてない伏線・布石いっぱいあるな……」と思ってたら最後の最後でまさかの三部作構想ド〜ン!と出てきたのがアツかった。
「映画」というより「映像作品」と称した方がいいんじゃないかってくらいとんでもなく先鋭的で、この作品でしか観られないモノが目いっぱいに詰まった文字通りの「怪作」です。オススメ。
ツイスターズ
古き良き「あの頃の洋画」って感じがしてかなり良かった。実質金曜ロードショー、あるいは午後のロードショーと言ってもいい。
吹き替えで観たんだけど、台詞の翻訳の感触も明らかに「あの頃」っぽさを意識しているようで楽しかった。多分だけど翻訳前の元の台詞も小粋な感じなんだろうなと思う。
加えて作品全体を通じて何の捻りも入ってないのが殊更に良い。小難しくて回りくどい展開なんて投げ捨てて、誰もが先を予想できてしまうようなシンプルで真っ直ぐな展開の面白さを、観客の顔面に目がけて力強く思いっきり投げつけてくるかのようなストーリーには確かなパワーを感じる。洋画のテンプレートそのままなぞったんですか?ってくらいコテコテのキャラ付けがなされた登場人物たちも最高。思わず分かったような顔つきで腕を組みながら静かに「こういうので良いんだよ……こういうので……」と呟いてしまいそうになる。
では雰囲気が古臭いのかというとそういうわけでもなく、特にこの手の作品ではお約束とも言えるラブロマンスの要素を、匂わせるような場面こそあれほとんど描写せずに駆け抜けた点には現代っぽい潔さを感じた。ラブロマンスをちゃんと入れ込んでしまうとそれはそれで描写する要素が不用意に増えてしまい、せっかく計算して組み上げた良い意味での単純さにブレが生じてしまう可能性がある……という判断から意図的に要素をカットしたんだろうなと思う。実際その判断は結果的に正しいと言わざるを得ない。
続編が作れそうな終わり方だったけど、個人的にはこれ1本で畳んでしまってもいいんじゃないかな〜と思う。同世代かつ昔テレビで放送される洋画を観るのが好きだった人ほど観てほしい一本。オススメです。
コンセント/同意
実話に基づく作品というから本当に驚き。この映画を語るうえで一つのキーワードになるのが性加害としての「グルーミング」という単語で、観る前にコレだけでも調べておくと作品に対する解像度がかなり高くなると思う。
心の底から嫌な気持ちになる映画で、観るにあたってはかなり気を張っておく必要があった。人によってはフラッシュバックの引き金になってつらい気持ちになる可能性があるタイプの映画でもある。こんなことがあっていいんだろうかと筆舌に尽くしがたい思いになる一方、そう思うからこそこの映画で語られていることから目を逸らすべきではないとも感じた。
50代の中年男性がミドルティーンの女子(本作の主人公であり、原作書籍の著者)に甘ったるい恋文を書き、耽美的な言葉で巧みに誘い、性的搾取の凶行に及んで、果ては支配欲のままに精神的DVまでし始める。しかも中年は一連の出来事を恣意的に描写した文章を私小説として執筆・出版し、フランス文学会でとある文学賞を受賞するにまでいたる。
これほどグロテスクな出来事ってそうそう無い。賞を授与する側もおかしいだろ!という思いはもちろんあるが、とはいえ誰もが両手をあげて中年の作品を絶賛していたかというと実際にはそういうわけでもなかったらしい。ただ、「まあ、彼はああいう人だから……」と半ば諦められる形でユルく存在を認められていたようではある。
この中年と同じように色んな面で問題を抱えてる一方、何かしら秀でた能力を持ち合わせているが故にユルく存在を認められてしまっている人ってのは結構実在するもんで、背筋が凍るような思いになるというか、「あぁ~、本当にあった出来事なんだなぁ~」という嫌なリアリティを痛感させられる。
当然だが、ヒロインの母親は中年とヒロインの関係を最初は認めない。それに対してヒロインは猛烈に反発する。中年は中年でヒロインの苛烈な態度に乗じて母親を説得しにかかる。ヒロインが中年に心の底から惹かれる気持ちは、実際のところ中年が彼女の幼さ・あどけなさ・無邪気さに上手く取り入り精神的に支配した結果ではあるが、彼女からすれば紛れもなく本物の感情だった。だからこそヒロインがどれだけ本気であるかを母親も少しずつ「理解」してしまい、やがて目の前に広がる異常な事態を受け入れ、「納得」してしまうのである。
それは障害を抱えた恋の成就を祝福するような華やかな場面では決してなく、中年が「親」という最後のセーフティネットすらも奪い去り、ヒロインのことを完全に掌握することに成功した、おぞましい瞬間だった。
ちなみにヒロインの両親は既に離婚しており、登場するのは母親だけ。父親が真っ当に存在していれば事態を回避できたような気もするし、生半可な男では結局上手いこと中年に絆されて「むしろいない方がマシでは?」という事態に発展したんじゃないかという予感もある。
紆余曲折を経て最終的にヒロインは中年の支配から何とか自力で脱することに成功するものの、心の中に溜まった澱はいつまでも彼女の内面に残り続け、彼女を過去に縛りつける鎖となって苦しめ続ける。それでも随分と長い時間をかけて何とか少しずつ自己を取り戻していった彼女は、ある出来事をきっかけに筆を執って一冊の本を執筆する。それがこの映画の原作にもなった書籍である。長く長く伸びた鎖を絶ち、呪いから自身を解放し、全てにけりをつけるために上梓したその一冊は、やがて社会現象を巻き起こし、中年が築き上げてきた社会的地位を完全に崩壊させることへと繋がった。
これで彼女はやっと救われたのだろうか?真の意味で心から自由になれたのだろうか?そうなっていて欲しいと切に願うばかりである。
きみの色
↑書きたいことがたくさんあったので単品で記事に起こしました。本当に素敵な作品です。
ソウルの春
タイトルから察せられると思うけど韓国映画。描かれるのは韓国国内でその昔勃発した軍事クーデターの一部始終。「粛軍クーデター」あるいは「12.12軍事反乱」と検索すればWikipediaのページがヒットするからそれを読んで予習・復習するのもいいと思う。
細かい部分ではところどころ脚色が入っているらしいけど大筋は実際にあった出来事をなぞったもので、どちらかといえばノンフィクションに近い仕上がり。政治的な混乱を背景に、野心に燃え権力の掌握を目論む軍人一派と、それを表からも裏からも抑え込もうと奮闘する別の軍人一派が繰り広げる、文字通り血みどろの勢力争い。実際にあった出来事とはにわかに信じられない重厚なドラマが描かれる。
ただ、手に汗握るような場面における張り詰めた空気、一触即発の緊張感、何もかもが綱渡りで進む危うさといった描写が真に迫っていて圧倒されてしまうのは、やはりこの映画が「歴史」だからこそなのだと思う。迎える結末があまり気持ちの良いものではない、という点もノンフィクションならではという感じがする。
たとえそれが軍事クーデターであろうと、最後の最後にモノを言うのは「使える縁は何でも利用する」という泥臭さと「何が何でも成功させなければならない」という意志の強さなんだなぁ……と感じずにはいられない。
別に日本のエンタメ産業を腐すわけではないんだけど、終始「日本じゃ作り難いタイプの作品だろうな〜」と思いながら観ていた。カロリー高めだけどオススメです。
ストリーミングで観た作品など
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