2024年12月 観た映画感想文

タイトルの通り、2024年12月に観た映画の感想文です。
対象は映画館で観た新作のみ。
ストリーミングで観た分や再上映で観た過去作品、テレビアニメなどの総集編作品、観るのが2回目以上の作品などは末尾にタイトルだけ備忘録として書いておく感じでいきます。
前月の分はこちら↓


ニッツ・アイランド 非人間のレポート

DayZっていうオンラインオープンワールドサバイバルゲームを舞台に長時間の撮影を行い、バーチャルな世界の中で思い思いに活動するプレイヤーたちにオープンボイスチャットを通じてインタビュー、記録したドキュメンタリー作品。

意外とありそうでなかった奇抜なコンセプトだけど中身はめちゃくちゃ良質なルポルタージュになってて好奇心をくすぐられた。正直コンセプト一発勝負っぽいな~と思いながら足を運んだみたいなところあったけど、蓋を開けてみればめちゃくちゃしっかりした作りのドキュメンタリーになってて大変素晴らしい。

オンラインゲームならではの特徴はいくつか感じられたんだけど、中でもとにかく登場人物の幅が本当に広いという点は非常に面白い。「カナダ生まれで現在は南アフリカの先端に住んでる人」と「オーストラリア生まれで現在はドイツのベルリンに住んでる人」が一つのコミュニティ内でリアルタイムに一緒に遊んでたりする。そうやってゲーム内で出会った友人とゲーム内の非日常的日常ノンビリ過ごす者もいれば、一方で徒党を組んで悪辣非道を繰り返し混沌とした世界観を楽しむギャングもいる。そうやってロールプレイに徹する者もいれば、限りなく素の自分に近い部分を赤裸々に曝け出す者もいる。「取材をしたい」と交渉する撮影班を無言で射殺する者もいる。

そこには「人種」「ジェンダー」「国籍」のようなリアルに存在する座標軸に加えて「ゲームにどう向き合うか」といった別の軸が追加された多様性社会が広がっている。

ゲームの世界はバーチャルであるが、しかし同時に画面の向こうにはキャラクターを操作している誰かが確かにいるということ。ゲームであろうと他者との関わり合いが発生する以上、そこには必ず大なり小なり人間性が滲み出てくるということ。むしろゲームというフィルターを一枚挟むことによって色んな壁を一気に取り払った対等な関係を簡単に構築することが可能であるということ。この映画は多くの興味深い事実を我々に提示してくれる。

何より「映画って何を題材にどうやって撮ってもいいんだなぁ!」と心底感心させられる一本です、オススメ。

不思議の国のシドニ

フランス映画の悪いところを煮詰めたような映画だなってのが第一印象だった。これはこれで文学的な楽しみ方もあるのかもしれないけど、個人的には妙に気取りすぎてる感じがしてあんまりハマらなかった。

主人公はある一人の小説家。彼女は幼いころ交通事故に遭い両親を亡くし、また最近になって同じく交通事故により夫を亡くしている。どちらの事故も自分だけがほぼ無傷のような状態で生き残ってしまったことに対して、彼女は自責の念を抱えながら悲しみに暮れる日々を送っていた。

そんななか舞い込んできたのが日本でのサイン会イベントの仕事。ただでさえ欧州を離れたことすらないのに、あまつさえこんな精神状態にも関わらず、10時間以上のフライトで極東の島国に行けというのか?はっきり言って彼女は全く乗り気ではなかったが、仕事は仕事。しかし渋々向かったその旅路の最中で、驚くべきことに彼女は亡くなった夫の幽霊と出会う。「見えなかっただけで私はいつでも君のそばにいた。ここが日本という国だから、こうして君の前に姿を現せたのだ」と微笑みかける姿は生前と何一つ変わりがない。大阪を始点に京都、奈良、静岡から終点の東京まで、「不思議の国」日本を横断しながら各地を訪ね、夫の幽霊と対話を重ねることで改めて彼女は彼女自身を再発見するに至るのであった……。

と、こんな感じであらすじを書き出すとめちゃくちゃ面白そうなロードムービーなのでは?と思えるんだけど、本当に面白くないんだな、コレが。

まずテンポが悪い。ゆったり、じっくり、つぶさに登場人物の心情の変化を描きたいのは分かるんだけど、正直やるべきことをただ緩慢に進めているだけのように感じる。

それとあんなに夫のことを思って塞ぎ込んでいた主人公が結局プラトニックな愛によって立ち直ってしまった展開も個人的には気に食わない。大きな愛の喪失を一時の激情で穴埋めしてめでたしめでたし、とか言われても根本的には何も解決してないように思えて困惑する。高尚な面構えのくせに実状は薄っぺらいと言ってもいい。

極めつけは主人公の相方になる編集者の日本人男が「マジでこいつ何?」って感じのどうしようもないヤツでね〜。妻がいる身で主人公とよろしくしてるわけだからそもそもやってることが不倫なうえ、厭世的な自分に酔ってそうな言動もイラつく。この男も事故や災害で家族を亡くし自分だけが生き残ってしまったという過去を持っていて、主人公はそんな自分と共通点を持つ男と惹かれ合うことになるわけだけど、傍から見れば二人はお互いがお互いの傷に憐憫の情を感じ、自身を投影し、ただそれを舐め合ってるに過ぎないとしか思えない。

一連の出来事を経て二人は前を向いたかのように見えても、そこにあるのは「愛」というより「同情」であり、結局は過去に縛られたままなのでは?とすら思う。この辺のプロセスも見せ方次第でもっと良い感じにできたのかもしれないけど終始「こいつら何なの?」って感じの展開が続く。全編通じてスッキリとした気分になる瞬間が微塵もなかったのがフラストレーションでしかなかった。

ストリーミングで観た作品など

◆グランド・ブダペスト・ホテル
◆SAKANAQUARIUM 2024 “turn”

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