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【コラム】これは「モニュメント」?「notモニュメント」?

column. (chapter4. に行く前に) 
これは「モニュメント」?「notモニュメント」?〜モニュメントについて考えてみよう

前回彫刻の「銘板」のお話をしたので、今回こそは彫刻やアートのお話を。

『鷺舞』
倉澤實

「モニュメント」と聞いてあなたはどういうものを思い浮かべますか?
…と聞くだけではちょっとわかりづらいですよね。人によってまず第一に思い浮かぶイメージもそれぞれでしょうか?

筆者思うに、恐らくこれ美術界的に一時期は新しい感じの流行りの言い方だったのでは?「モニュメント」も「オブジェ」も従来の「彫刻」という語ではしっくりこなくなった新しいものに対する呼称として美術界では取り入れられ、一般に定着した言い方だったのではないでしょうか。
今は更により広く使える「アート」という言い方をよく見かけます。「オブジェクト」「コンテクスト」も使うとよりそれっぽい。…そういうことです。

『Rubber Duck』
フロレンティン・ホフマン

「Rubber Duck Project」紹介頁 HeT大阪建築より

なので、ここはあまり難しく考えずに鑑賞者、あなたの直感で「モニュメント」を考えてみましょう。筆者と意見が違ってもかまわないのです。カッコ良さげな単語だっただけなのですから。

ではいくつか具体例を挙げて検証します。
題してこれは「モニュメント」?「notモニュメント」?


①まずはこちら。

『さわやかなみどり』
佐藤健次郎

画像はnoter takaさんよりお借りしています

いわゆる具象彫刻の「彫刻」という感じの銅像モニュメントですね。風、動き、瑞々(みずみず)しいリズム溢れる躍動感を若い女性像に表現したものでしょう。爽やか!
タイトルも大きくしっかり銘板に「さわやかなみどり」とあります。
(takaさんの記事↓)

大きく手を広げて
雄大な風景を一望
Googleマップ 東那須野公園より

自然あふれる公園の見晴らしの良い場所に設置されています。地元出身の彫刻家による、那須高原の豊かな自然を象徴する公園モニュメントです。

佐藤健次郎『さわやかなみどり』
(栃木県 東那須野公園)


②続いてはこちら。

Googleストリートビューより
Googleマップ
「赤い浮きⅡ」メアリー・アン・E・ミアース
より

抽象彫刻の街中モニュメントですね。鮮やかな赤色と艷やかな流線がお洒落で印象的。ビル前広場の空間のアクセントになっています。待ち合わせ場所として「赤いのの前で!」で通じそう。
(↓男女7人ファンの滝さんの記事、ドラマロケ地巡りされてます これこの頃からあるんですもんねぇ…)

Googleストリートビューより

川崎市とボルチモア市(アメリカ東海岸メリーランド州にある)の姉妹都市調印提携5周年に、ボルチモア市から贈られた記念モニュメント。素材はアルミ合金製だそう。

メアリー・アン・E・ミアース『赤い浮きⅡ』(原題『RED BUOYANT II』)
(神奈川県 川崎駅東口 川崎ルフロン前)


③次にこちら。

『切り株に座って』
黒川晃彦

呉市立美術館公式HPより

サックスを吹く男性像…なのですがなんとも愛嬌があってユーモラス。美術館通りの歩道を彩る野外彫刻のうちの一つです。

安心して下さい
現場で見た感じ ごく薄い着衣に見えないこともないのですが
多分わざと

裸婦ばかりじゃなく 男性像にも光を!
という作者の気概を感じて欲しい

画像は呉市立美術館公式HPより
Googleストリートビュー

背中を見せたくて切り株に座らせたのだ と思う

↓同じ作者の作品でも ベンチのだと見えない見せ場
(西洋彫刻ムキムキすぎて自己投影しづらいんだよォ!)
人生を背中で語る

ただこの③の作品は、モニュメント?notモニュメント?で言うと「notモニュメント」なのでは?と筆者は感じます。モニュメントよりは「パブリックアート」と言うほうがしっくり来そう。
②もパブリックアートですが

②は「パブリックアート」で「モニュメント」

大きいし目立つし 姉妹都市調印提携5周年記念だし

画像はGoogleストリートビューより

対して③は

③は「パブリックアート」のおじさん

画像は呉市立美術館公式HPより

何故③は「notモニュメント」なのか。筆者思うに…

・展示状況。これは単体で広い空間を担う「碑」としての役割を期待されたものではない。他のものも通りに点在するうちの一つ。

呉市立美術館公式HP
「美術館通り」野外彫刻マップ
より
木陰
両脇の歩道にある作品を鑑賞しながら坂を進む

Googleストリートビュー
美術館通り(海軍病院坂)
より

何というか「モニュメント」と言うほどこれひとつが担わされたものがないのですよね。

いい表情
画像は呉市立美術館公式HPより

モニュメントというとそれなりの「格」を期待されていて、「記念碑」だとか「顕彰碑」のイメージもあるのでしょうね。

そして③が更にモニュメントらしくない点…
・作品の高さ。③作品は立った鑑賞者の目線より低く設置されており、これも「notモニュメント」となる要因なのでは。

Googleストリートビューより
実際木陰に隠れがち 遠目では気付かない

「モニュメント」というと見上げるほど大きなものというイメージもあり、たとえ大きくないものだとしてもそれなりに高い台座に設置されたもののほうが「モニュメント」的かな?と思います。
「モニュメント」に記念塔、記念建造物のイメージもあるんですね。

↓ちなみに同じ作者でもこちらの立像は「モニュメント」的。


じゃあ…
これはどうなのかというと

こちらは「モニュメント」かなぁ
明らかに歴史上の偉人だから(松尾芭蕉)

(『おくのほそ道』出発の地のいわれを伝えるもの)

③との違いは
・モチーフの違い
・いわれを伝える等の役目の有無
でもここは
「芭蕉さんの視点で深川散歩を」というコンセプトかな 偉人感も控えめ

一緒に撮影しよう

江戸深川 - 深川エリア商店街合同HP
(清澄白河エリア)採茶庵跡の頁
より

↓逆にすごくモニュメント的な例。

『ネルソン記念柱』
ロンドン トラファルガー広場
台座46m+像の高さ5.5m

ネルソン提督を讃えたい荒ぶる気持ち でも
像が見えない

(台座というかcolumnというものだそうですね)

数字はWikipedia情報

とはいえ↓③のこの作品は「notモニュメント」であるほうが作者の狙いどおりという気もします。

呉市立美術館公式HPより

というのも、この作品は美術館の中で腕組みして鑑賞するものではなく、「屋外の街の通りで道行く人に楽しく親しまれるものを」というコンセプトで作られているのでは?
(↓この後の作で椅子落ちちゃったVer.も。)

一緒に座ってみたり撮ってSNSにあげたりなどして親しむ鑑賞スタイルがぴったり!の楽しい作品なのですね。

おじさんはモニュメントでなくてかまわないよ

黒川晃彦『切り株に座って』
(広島県 呉市入船山 市立美術館通り)


④…そしてこちら。

『大曲浜地区東日本大震災大津波犠牲者慰霊碑』

画像はnoter ぺこさんよりお借りしています

東日本大震災後に建てられた慰霊モニュメントです。蓮座の観音立像ですね。水難慰霊碑の傍に建立されたそうです。

『大曲浜地区東日本大震災大津波犠牲者慰霊碑』
(宮城県 東松島市大曲上台)

(↓こちらぺこさんの記事より 震災遺構等見学と合わせて巡られたようです)

地域の共同墓地に地元の住民組織「大曲浜区委員会」が建立したもので、台座を含めた高さを大曲浜地区を襲った大津波と同じ6メートルに合わせて作られています。犠牲者の供養、また津波被害の記憶を後世に残す役目も担っており、慰霊の為の、まさに「祈り」を象徴するモニュメントです。

(↓宮城観光復興支援センター記事)

(↓河北新報ONLINE 石巻かほく メディア猫の目 場所等地図あり)

(↓Googleマップ 寿昌院上台墓地敷地内だそう)

④はこれまでの①②③と違って美術鑑賞をするための美術的彫刻作品ではありません。
ご供養に来た人たちが、ここにせめて何か心安らぐものを…そうした声が上がって恐らく石材屋さんか土建屋さんか…どこか外構工事できるような業者さんに発注し製作されたものではないでしょうか。そう…こういった場合は「制作」よりも「製作」の字をあてることが多いかもしれません。

観音像の部分もある程度量産の形があるものかと思いますが、これを下段の土台、台座の部分で高さを6mに合わせることでしっかりと
・依頼された企画意図(津波被害の記憶を後世に残す)に沿い、
また
・予算規模(住民組織による建立)も
・注文者の想い(犠牲者の供養、慰霊、祈り)も考慮された、
誰もが納得するきれいな仕事をされていると感じます。


慰霊の為の「モニュメント」

モニュメントと言った時に「象徴」や「慰霊碑」「慰霊塔」という意味もあるのですね。
また、「後世に残し伝える役目を担っている」という点もモニュメント的な要素です。

①は那須高原の豊かな自然を「象徴」し
地元出身作家の功績を「後世に残し伝える」
「モニュメント」

そして「モニュメント」は必ずしも美術作品というばかりではなく、
④よりもっと「碑」に近いものや「建築物」を指す場合もあります。

『エッフェル塔』

パリを「象徴」する「モニュメント」 
「保存遺構」「記念建造物」の意味もありそう
『YS-11』
(埼玉県所沢市 航空公園駅前)
こういったものも「モニュメント」かも?

「モニュメント」はいろいろなものに使える便利な用語と言えるでしょう。またより広く、パブリックなものにもプライベートなものにも使える「オブジェ」という語もあります。

おじさんは「notモニュメント」だが
「オブジェ」はハマる

従来技法で作られているにも関わらず
モチーフの選び方や見せ方により
既存の「彫刻」の枠を越え爆誕した

「オブジェ」「notモニュメント」
「パブリックアート」キャラクター!

実際、「モニュメント」も「オブジェ」も従来の「彫刻」という語ではしっくりこなくなった新しいものに対する呼称として使いやすかったのではないでしょうか。

・美術界的には意味の広い順に
アート>オブジェ>モニュメント

『Rubber Duck』

こちら 高さ9.5mのあひるガァ子ちゃんは
「notモニュメント」

後世に残し伝えるための恒久設置をできないから

「Rubber Duck Project」紹介頁 HeT大阪建築
ラバーダック@大阪・名村造船所跡地2024
より
「ランドマーク」にはなり得るのね
ファンにとっては心のモニュメント(金字塔)
世界を旅するデカあひるちゃんです

おっ!12月は大阪 中之島にいるの?
Nakanoshima West 公式サイトより

さて、筆者が何故今「モニュメント」について語っているかというと。


今Nobさんと彫刻家先生と横浜みなとみらいの彫刻について書いていて、ここに「モニュメント」という語が出てくるからですね。
(注・Nob(ノブ)さん(=下田信夫画伯)は航空マニアでヒコーキを描くイラストレーターです。)

先に書いたものから再掲。
昔々1971年秋、拝島駅北口彫刻作品、倉澤實「四角柱上の胸像」について若き彫刻家(最上先生)と若きイラストレーター(Nobさん)が語る場面です。

画像はGoogleマップより

N「へえカッコイイね。鳥じゃなくて4分の1だったんだ!
確かにものだけより、これ(銘板)も読んでものも見るほうが良さそうね。こういうのってオブジェ?なんて言うの?」
最「うーんオブジェっていうよりは…
『モニュメント』かなあ。ムーアのなんかはモニュメントって言うよね。評論家が。」
N「『モニュメント』!現代彫刻っていうのは呼び方もカッコイイんだねえ…!」
(※ヘンリー・ムーア…有名な抽象彫刻家)

(先に書いた Intermission. 擦れた銘板 THE GREATEST UNKNOWN より)

この時、最上先生は
「モニュメント」=美術評論家が使い最近の抽象彫刻などを指すカッコ良さげな単語。これは野外の公共彫刻で抽象作品、それに作者である先輩倉澤さんもムーアに熱心な人なのだからムーアっぽく「モニュメント」と言っておけば失礼もなくていいだろう。
…と使っています。
(注・モニュメント=抽象 は最上先生の誤認)

『着衣の横たわる母と子』
ヘンリー・ムーア

福岡市政100周年を記念
市民からの基金(ヘンリー・ムーア彫刻設置市民の会/会長 永倉三郎 の募金活動)
により設置(博多駅前)

一方Nobさんにとっては、(Nobさんはまず最上先生のような美大芸大系の美術界の人ではないので)
「モニュメント」=美術品にも工業製品にも使え、「碑」「象徴」「顕彰」「慰霊」の意味をも内包する、新しい未来を感じる呼称。「祈念碑」なんて言うより断然カッコイイ!それに「保存遺構」の意味も含めてアレもコレも『モニュメント』と言えば(不朽の功績を)残せるかも。これは良さそう!
…と捉えたのではないでしょうか?
(注・Nobさんは芸術に理解のあるイラストレーター、かつ航空史に詳しく工業遺産の保全にも協力的なヒコーキマニアの重鎮です。)

N「作った人に言っといてくださいよこれカッコイイですね是非残しましょうって。」

Intermission. 擦れた銘板 THE GREATEST UNKNOWN より

つまり先程
・美術界的には意味の広い順に
アート>オブジェ>モニュメント
と言いましたが

・美術界以外では意味の広い順に
オブジェ(オブジェクト)>モニュメント>アート(美術)

そしてアートに「人の手で作られるもの全般」
の原語的意味も拾うと また変わってきますね
Nobさんは家に帰って辞書で
引いてみる位はしたでしょう

ライターでもあるので
chapter3. より

まずNobさんはさらりと話す内容が正確だ。情報の信頼性は非常に高い。観察眼がある。調べ魔である。広く人と交流する。

chapter2. より

この二人の「モニュメント」の違いを最上先生は理解しておらず、曖昧なままモニュメントという語をそれ以降も使い続けていました。
このことが更にすれ違いを加速させてゆきました。

私が在学当時の最上先生は声の大きい明るい健康そうな大らかな性質の人だ。

chapter1. より

…Nobさんにとっては、つまりモニュメントは「後世に残し伝える」ことができるというところが大事でした。

最上先生が「後世に残し伝える」と聞いて思い浮かんだのは「彫刻の作者の不朽の功績を後世に残す」でした。

?いやでも…ちょっと待って?
①の台座に大きく書いてあるのは
「みどり」で
「健次郎」は脇に控えめですよね?

一番後世に伝えたいのは
「那須高原の豊かな自然(みどり)の美しさ」
これだって後世に伝えたいのは
「ネルソン提督の功績」

作者誰(ウィリアム・レイルトン設計
サミュエル・モートン・ペト建設)
少年よ、大志を抱け!

『丘の上のクラーク』
坂坦道

さっぽろ羊ヶ丘展望台公式HPより


(大らかだなぁ…)

大らかに
大志を履き違えたんだ




……最上先生がなんとなく思う「モニュメント」のイメージからは、
「依頼者・設置者の想いを後世に残し伝える」パターンは完全に抜け落ちていたのです。


「機体の慰霊碑」…



その想いを最上先生は生涯知ることはありませんでした。

(→chapter4. へ続く)



今回のこのcolumn. これは「モニュメント」?「notモニュメント」?
昔とある学生がそこらの外廊下で美大院生や先生方交えてやってもらったディスカッションをここで再現してみたものです。

chapter1. でいうとこの場面↓

それ以来、最上先生以下彫刻科の先生達に本当にその筋に詳しい人間だと思われてしまったのか、忌憚ない物言いが…あれは気に入られたというのか…。通りすがりに何かと声を掛けられた。

chapter1. ジャックと豆の木 より

作品例も概ね7割程は当時挙がったものです。それ以降の事例、あまり知られない作品例も挙げたい為一部アレンジしました。

後半やや筆者の私見も入りましたが、皆様にとって語の理解の一助となれば幸いです。



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