実習生教育日記⑪

実習11週目。2か月半という長いようで短い期間の実習も遂に最終週を迎えました。

今週の目玉は、水曜日に行った成果発表会です。これまでの集大成となるこの発表は、本社に学生を迎えて会議室で行われました。

我々とツバサ君の移動先店舗の薬剤師たちに加え、実務実習窓口(人事や教育も担う部門)の社員や部長といった上席陣もオブザーバーとして参加する結構本格的な発表の場です。

※当店とツバサ君の移動先のどちらも休業している水曜日の午後の実施しました。

ツバサ君とユキちゃん

当日の午前中、本社から一本の電話がありました。実習窓口の担当者からでした。


「ツバサ君が入院することになった。発表はユキちゃんだけですることになるから。」


突然の出来事。ユキちゃんもツバサ君から何も聞いてないようで狼狽していました。

実は2週間ほど前、プレゼン資料を作成していた時からツバサ君は体調が悪いと言い始めていました。

喉の痛みから始まったその症状。
一時改善が見られて実習にも来ていたようですが、なかなか完治せず休みを繰り返していました。

再度受診したところ、扁桃炎で膿が溜まっているとのこと。

手術は不要だけど治るまでは入院治療が必要となった、とのことでした。

入院となったのが前日の夜。ユキちゃんにも連絡するどころではなかったようですね。。。

日々の実習での課題対応に加え、プレゼン資料の作成と夏に来るインターンの準備に奔走していたツバサ君。

プレゼン資料は私も作成を手伝っていて、頑張っていたのがわかるだけに本当に残念です。

MRになりたい彼が、薬局の実習で感じたこと、それを今後MRとしての進路にどう生かすのか?を考えた、内容も充実した発表になる予定でした。


「彼の分も頑張らないとですね…」


ユキちゃんはそう言って発表に臨みました。

互いに相棒と呼び合うユキちゃんとツバサ君。
1番近くで発表の準備を進めていたユキちゃんは、ツバサ君の発表を最も楽しみにしていた1人でもあります。

発表が見れなくて残念な気持ちも、入院と聞いて心配な気持ちも、突如1人にされて不安な気持ちもあり。

そんな色んな気持ちを一心に込めて、ユキちゃんのたった一人の発表が始まりました。

ユキちゃんの発表

「今日は患者さんと薬剤師の関わり方について考えたことを発表します。」

そんな言葉から、ユキちゃんの発表は始まりました。

【実務実習を通して思ったこと】
①患者さんにも色んな方がいると知った。

「自分の症状が出始めた経緯を丁寧に教えてくれる方や『ありがとう、頑張ってね』と声をかけてくれる方がいる一方で、話しかけたら『何で保険証仕舞ってるのに話しかけるんだ!』と憤慨する方もいて、自分の至らなさを痛感することもありました。」

②薬剤師さんが患者さんの性格や顔を覚えている

「勝手なイメージですが、薬剤師の仕事はただ薬を出して薬歴を書くばかりだと思っていました。だけど、『この患者さんはこういう患者さんだよ』って患者さんのことを沢山教えてくれて、普段から凄く向き合っているんだというのがわかりました。」

薬剤師の仕事は対物から対人へ。
そう言われ始めてから久しい薬剤師業界ですが、普段から勉強している薬学生であってもそのイメージはやはり「薬を出す仕事」に他なりません。

そのイメージとのギャップに気づいてもらえたのは、こちらとしてはとても嬉しいです。

【在宅医療の実例】
〈症例1〉
感じたこと:処方提案って楽しい!!
以下のような症状訴え
①太ももの筋肉の痛み
②足の付け根の痒み

この方は寝たきりの患者さんで、太ももの筋肉が凝り固まってしまい、痛みを感じていました。

使用する痛み止めの湿布薬に温感・冷感のタイプがあることに、ある時ユキちゃんは気付きます。


「それぞれ効果が違うので両方試してみて患者さんの実感を聞いてみました。」

実際に患者さんとお話しをして、痛みが軽快した冷感湿布に変えてみたそうです。

また足の痒みに使う塗り薬には軟膏やクリーム、液体タイプといった、剤形の違いが存在します。

「薬の効果だけじゃなく、様々な観点から薬を考えて、それを提案するのが凄くやりがいがある仕事だと感じました。何より、その提案が通った時は本当に嬉しかったです。」

〈症例2〉
感じたこと:患者さんの望みを叶えたい。
以下のような症状訴え
足の浮腫み

浮腫みが出ていて靴を履けない、外に出られない、というのがこの患者さんの悩みだったといいます。

「車が大好きな方で、家にもミニカーがたくさん飾ってあるんです。運転がしたいといつも仰っていました。

また、奥さんと野球観戦に行くのが趣味で『車いすじゃなくて自分の足で歩いて見に行くんだ』と言っていました。」

自分の足で歩くこと、その目標が彼にとっての生きがいにもなっているとユキちゃんは言います。その為に自分が考えたこと。

利尿薬を使うのはどうか、と思ったんです。でも利尿薬の追加で筋肉が衰えたり、血圧が下がったりするのは望ましくない。そこで薬剤師さんは、患者さんが飲んでいる血圧の薬を、浮腫が起きにくいものに変えてみるように提案していました。」

力の及ばなさを痛感したというユキちゃんですが、患者さんの思いに寄り添って考えることができるのは彼女のとてもいいところですね。薬局長もその部分をすごく評価していました。

【はなたへの挑戦】

ここで問題です!!
とユキちゃんから突然の薬学クイズ。

「…はなた先生、お答え下さい!!

私の知らないスライド。私に相談する中でバレないように、薬局長と相談して作成したようです。

ユキちゃんから私に挑戦という形の意趣返し。


…やってくれるじゃないですか(笑)


かなり専門的な知識のクイズ。調べたり、理解するのにも時間を要したハズです。

スライド作成だけでもかなり忙しかったこの数週間。このクイズの為だけにどれほど頑張ったのか。

それを思うと、このクイズにはユキちゃんなりの「今までありがとう」っていうメッセージが込められているように感じました。


本当に成長したな…と思う傍らで、クイズの答えは全然わからなかったので、得意の場回し力を発揮して、上の人に答えて貰いましたとさ。

【実習を通して成長したと思うこと】
・投薬に対して抵抗感がなくなった
・患者さんとの会話が楽しい

「患者さんに説明するのが最初はすごく苦痛でした。処方箋にたくさん薬があるとあれもこれも言わなきゃ、と気を張って説明がめちゃくちゃになっていました。」

真面目で責任感の強いユキちゃん。当初及び腰な感じだったのは、失敗したくないという思いも大きかったようですね。

失敗しても次に繋げればいいんだと思うようになりました。そうなれた要因として、投薬後に自分で反省点を考えたり、薬剤師さんが足りない部分をフィードバックしてくれたりすることが大きかったと感じています。

心に余裕が生まれてからは、患者さんも教えてくれることが増えて、会話をするのがとても楽しく感じられるようになりました。」

どんな仕事でも、完璧にこなすことはできませんよね。薬剤師の仕事でも、患者さんと対面する5分未満の間にすべての情報を伝えることは不可能です。

「伝える情報の優先順位を考えて話せばいいことがわかった」とも自身で言っていましたが、気持ちに余裕ができた、という感情面だけでなくという理性面でも気づきがあったのが良いことだと思います。

「2か月半、本当に色んなことを教えて頂いてありがとうございました。お世話になりました。」

涙をこらえるような声でそう締めくくったユキちゃん。お疲れ様でした。

あとがき

発表の後、率直にいって実習どうでしたか?という実習窓口の社員さんからの質問に、ユキちゃんは迷わず一言。

「楽しかったです。」

成長した、とか勉強になった、とかよりもまずは楽しんでやってもらえたというのが本当に良かったと思います。

ユキちゃんにとっての薬局実習はこれで終わりですが、これからも病院実習や国家試験など大変な時間は続きます。

それでもユキちゃんなら、きっとこれまでのように、真面目にしかし楽しみながら向き合って、薬剤師として羽ばたいていくのだと思います。

毎年薬剤師国家試験の合格者数は約1万人。これだけの数の全国のユキちゃんが、実習に取り組み、そして薬剤師として社会に出てくるのです。

もしこれを読んだあなたが薬局や病院でユキちゃんに出会ったときは、ちょっとだけこの話を思い出して、頼ってみていただければ幸いです。

長らくの間、お付き合いいただきありがとうございました。

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