発刊順:67 死への旅
発刊順:67(1954年) 死への旅/高橋豊訳
裏表紙に「本格物をまさるとも劣らぬ女史会心のスパイ・スリラー」とあるが、それ・・・ほんと?
本格物といわれるスパイ・スリラーを読んだことがないので、私には比較するのは難しい。だが、この作品、スパイは確かに出てくるが、スリラーというような展開が途中からトーンダウンしてしまう。
自殺願望を持ったヒラリーは、いくつもの薬局をめぐって睡眠薬を手に入れる。偶然居合わせたイギリス諜報部員のジェソップは、ヒラリーの行動から自殺しようとしていることに気づき、説得したうえで、ある任務へ誘う。
それは失踪した科学者の妻オリーブになりすまし、旅をするというものだ。
旅先で出会う人々、見知らぬ異国での体験、高揚感はクリスティーの得意とする描写でそれなりに楽しめる。
だが、旅の目的もわからず、到着した「秘密の建物の中」で軟禁されてからラストまで、ほぼ冒険やスリルという味わいがなく、主人公が何するわけでもなく事件は解決する。
自殺を企てようとするほどの落ち込みは、与えられた任務を遂行して行動すると瞬く間に生きる意欲へと変容し、「心理的な葛藤」はかなり端折られている。
なので、ラストにはちょっとしたロマンスのハッピーエンドが待っているのだが、それほど盛り上がることもなく読み終えました。