発刊順:71 愛の重さ
発刊順:71(1956年) 愛の重さ/中村妙子訳
メアリ・ウェストマコット名義の愛の小説シリーズ第6弾。
今回は、「姉と妹」の関係性がテーマ。
プロローグから始まって、「ローラ」「シャーリー」「ルゥエリン」と、3人の視点で物語は進み「第4部「初めのごとく」で締めくくる展開は、ほどよく場面が切り替わるのでテンポ良く読めた。
幼少期のローラは、見た目にはおとなしく手が掛からない子供なのだが、とても可愛らしい兄チャールズへの両親の愛情を、つい自分に向けたものと比較して僻みっぽい日々を送る。
その後、急な病でチャールズが亡くなると、子供心に愛情をついに独り占めできると期待するのだが、新たに誕生した妹が再び両親の愛情をローラの分まで奪い取っていく。
子供っぽい独占欲や僻みの感情を描くのがとても上手いなぁ。
良き隣人である、ボールドック氏の存在がまたいい。
前作の「娘は娘」のローラのようで、偶然なのか第1部の主人公と同じ名前なのだ。
ローラとボールドック氏の会話より
ローラは、煮詰まると時々ボールドック氏と対話するのだが、この対話の部分がとても素敵です。
ボールドック氏は決してローラを「ただの子供」扱いをせずに、真摯に向き合って自分自身の真理を語る。ただ、決してやり過ぎないのも、前作のローラのごとく。
そして、ローラの人生の長きに亘りそっと寄り添い、親代わりに見守ってくれている存在なのだ。
妹のシャーリーの苦しみや夫リチャードとの葛藤は理解しずらいこともあるが、リチャードが病を患うことによって、なお一層離れることができなくなり、普通ならば看病に嫌気もさすところだが、「彼には私しかいないのだ」という自己犠牲による愛情が生きがいになる。
テーマの「愛の重さ」は、ローラやシャーリーの、それぞれの愛が、果たして真に相手のためになっているのか、自己犠牲からくる愛情によって苦しむことになりかねない人間性を、深く考えさせられる物語です。
クリスティーの愛の小説シリーズの締めくくりとして、ラストもハッピーエンドとなっています。