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発刊順:70 死者のあやまち

発刊順:70(1956年) 死者のあやまち/田村隆一訳

有名な探偵となると、事件の調査ばかり依頼されるとは限らない。ポアロは、田舎屋敷の園遊会で余興に行われる犯人探しゲームで、賞品を渡してくれと頼まれた。しぶしぶ引き受けた彼は、ゲームの筋書きを考えた女流作家オリヴァと、死体役を務める少女を見舞いにでかけた。場所は河畔のボート倉庫―そこでは、少女が自分の役を演じきっていた。本当に絞殺されていたのだ!思いもよらないところから死体が飛び出したのに続き、屋敷の主の夫人が失踪した。一見平穏な屋敷を包む悪意の正体をつかもうと灰色の脳細胞をフル回転させるポアロの推理は?

ハヤカワ・ミステリ文庫の裏表紙より

ポアロの友人の一人である女流探偵作家のアリアドニ・オリヴァ夫人が登場。相変わらず、人をあっと言わせる髪型と服装、そしてリンゴ。
電話で要領を得ないことを言われるが、結局ポアロはオリヴァ夫人の誘いのままに「ナス屋敷」に赴く。
ここら辺の安定したやり取りの面白さはクリスティーのユーモアセンスが光る。
 
田舎屋敷の園遊会の余興で行われる「犯人探しゲーム」を企画したオリヴァ夫人。ポアロは、自分がその企画のお膳立てを手伝わせようとしたのでしょう、とオリヴァ夫人に言うと彼女は即座に否定する。

「あたしって、ほんとにお馬鹿さんね、でも、なにか腑に落ちないおかしな点があるような気がしますの」
「どういうふうにです?」
「それがはっきりしないのよ・・・それで、あなたに調べていただこうと思って。なんだかあたし、自分があやつられているような感じがだんだんしてきたの・・・
明日、犯人探しの余興の殺人のかわりに、ほんものの殺人があったとしても、あたしは驚かないわ!」

自分が書いた筋書きが、実は誰かの思惑で誘導されているのではないか、と。
 
そして、オリヴァ夫人の直感したとおり、ほんものの殺人が起こる。
被害者役のマーリンという10代の少女が、まさにシナリオ通りに絞殺された状態でポアロとオリヴァ夫人が発見する。
 
更に同じ日に、屋敷の主であるジョージ卿の最愛の妻ハティが行方不明になる。
殺人と行方不明は関連があるのか。
イベントに参加していた村の人々にも怪しいと思われる人もいて、誰が犯人なのかは最後にポアロが打ち明けるまで予想がつかなかった。
 
予想もつかない事実が隠されており、ポアロの灰色の脳細胞が大活躍したのだが、会話の中にヒントはあっても発想をかなり飛ばさなくてはならない謎を前に、推理するのは難しい。
ただ、ポアロが会話をする人物の言動が時として不自然に感じるな・・・ということが、後々「そういうことだったのか」となるのだが。
 
タイトルの「死者」のあやまちは、読後納得なのだ。


HM1-72 昭和62年12月 第13刷版
2023年5月2日読了

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