ピコピコ天国ブラジルのエレクトロ・サウンド - 過去記事アーカイブ
この文章は「alphanote」という音楽サイトが運営していたブログに書いた連載原稿(2017年8月7日掲載)を再編集しています。掲載される前の生原稿をもとにしているため、実際の記事と少し違っている可能性があることはご了承ください。また、著作権等の問題があるようでしたらご連絡ください。
ピコピコ天国ブラジルのエレクトロ・サウンド
ラテン・アメリカのちょっと変わった音楽を紹介するコラムの第2回。今回は、ブラジル音楽に注目してみたいと思います。
ブラジルというと、サンバやボサノヴァといったアコースティックで人間味に溢れたサウンドを思い起こす人がほとんどでしょう。実際、サンバをはじめとするブラジルの土着的なリズムは、日々鍛え上げられたミュージシャンたちの肉体があってこそ。ブラジルという国はとにかくミュージシャンの腕がいいことで有名ですから、演奏技術やラテン特有のリズム感などは他の国よりもレベルが高いという印象があります。
ただ、その一方で、ブラジルの音楽家たちは新しモノ好きでもあります。最新の機材を取り入れつつ、流行りのサウンドを研究するスキルもなかなか見事。だから、いつも新鮮な音楽に溢れているのです。
そんなブラジルだけに、ここ数年の世界的なエレクトロ・ブームもしっかりと吸収。エレクトリック・サウンドの音楽も、イメージに反してとても充実しています。エレクトロニカ系のクリエイターはどんどん世界に飛躍しているし、MPB(ブラジリアン・ポピュラー・ミュージック)といわれる音楽シーンのメインストリームにも、アコースティックな流れとは別に、電子音がどんどん導入されているのです。まさに「未来世紀ブラジル」的なフレッシュな音楽家が多数登場しており、高い評価を得ているブラジル。ここでは、そんなユニークなアーティストを紹介しておきましょう。
Amon Tobin「ISAM 2.0 Live at Outside Lands」
ブラジリアン・エレクトロニカということでいえば、アモン・トビンはまさに世界的な成功者のひとりでしょう。彼のキラキラとしたインダストリアルな電子音は、もはやブラジルだからというものではありません。UKの名門レーベル、Ninja Tuneからリリースしており、世界のエレクトロニカ・シーンにおいてトップ・クラスの人気を誇ります。また、プロジェクション・マッピングを超える斬新な映像と組み合わせた強力なライヴ・パフォーマンスも必見。五感で楽しむ総合芸術といってもいいかもしれません。
Lucas Santtana「Só O Som」
一方、同じく世界的に評価の高いルーカス・サンタナは、アモン・トビンとは対極。古いブラジル音楽のエッセンスをしっかりと持ちながらも、緻密なエレクトロニクスを融合させた音楽性がとても高く評価されています。自らを「エレクトロアコースティック」と呼びつつ、MPBの流れの中で新たな改革を進めており、日本でも熱心なファンがいるのだとか。彼の場合は歌やメロディがしっかりしているからこそ、どんなに先鋭的なサウンドにトライしても、ポップで親しみやすいのが特徴です。
Silva「Sufoco」
2012年にデビューしたシルヴァも、ルーカス・サンタナと同じく、歌を大切にしながら大胆なエレクトロ・サウンドを導入するアーティスト。プログラミングされたサウンドは、ときにはチープな手作り感あるものだったりもしますが、そこがまた味わい深く彼の個性が際立ちます。最近では、MPB界の女王マリーザ・モンチをカヴァーして話題になるなど、ブラジル音楽ファンには目が離せない存在として人気が高まりつつあります。
Mahmundi「Sentimento」
エレクトロ・サウンドは男性だけではない、ということで、クール・ビューティーなルックスに目を惹かれるマームンヂにも注目。彼女はリオ・デ・ジャネイロを拠点とするシンガー・ソングライターですが、シンセサイザーやプログラミングを多用するサウンドが特徴。英国あたりのエレクトロ・ソウルにも通じるひんやりとした雰囲気が素晴らしく、往年のシャーデーあたりを思わせる瞬間もあります。こういうのを聴くと、電子音でもブラジルらしいなって思いますね。
TAP ft. BadSista「So Special」
女性クリエイターでは、バッドシスタも今注目の存在のひとり。いわゆるDJとしてサン・パウロのクラブ・シーンで活躍しており、サンバ・ソウルの重鎮歌手エルザ・ソアレスのリミックス・アルバムにも参加するなど、その活動の幅を広げています。この曲は、同じく新進クリエイターのTAPとコラボレートした一曲。エモーショナルで一時代先を進んだようなエッジの効いたサウンドは、中毒性があって惹き込まれます。
Dillon「Lightning Sparked」
最後に、これまた優れた女性クリエイターで締めましょう。ディロンもシンガー・ソングライターではありますが、そのサウンドがとてもクールかつスタイリッシュで、ブラジルのイメージとは一味違うのがユニーク。現在はテクノ王国ドイツを拠点にしていることもあり、ブラジル音楽というよりはヨーロピアン・エレクトロの流れで認知されており、一部ではビョークに匹敵する才能ではないかとの評価もあります。
アモン・トビンやディロンのようなグローバルな評価を得ている才能が活躍しているということが、まさにブラジル音楽の裾野の広さを物語っているといえるでしょう。サンバやボサノヴァだけでなく、最新のブラジル音楽にも是非注目していただければと思います。
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後記
この原稿を書いた時期から状況はかなり変わっていて、Silvaなどは大ブレイクしてメインストリームのMPBになりましたし、Mahmundiもさらにスケールの大きなシンガー・ソングライターに成長しました。なので、2017年時点のドキュメントとしてお読みいただけるとありがたいです。
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