【日本酒の「幅」を広げたい】第1回 和菓子×日本酒の可能性を検証する。~日本酒ペアリング研究会 報告書No.8~
※「日本酒ペアリング研究会」は、日本ソムリエ協会が認定する日本酒・焼酎のソムリエ資格「SAKE DIPLOMA」を持つ筆者が、ご家庭でもできる料理と日本酒の合わせ方を提案する企画です( ˘ω˘ )。
ついでに日本酒は三重の地酒を中心に取り上げ、料理で使う食材はほとんど三重の地物食材です。料理のレシピも詳しく解説していますので、ぜひお読みください( ˘ω˘ )。
…今回は料理じゃなくて和菓子ですけどね(笑)。
〇はじめに
こんばんは( ˘ω˘ )。
今回は日本酒ペアリング研究会の第8回目でございます。
ちょっと前に日本ソムリエ協会の協会誌「Sommelier」の2023年7月刊を読んでいたら、広島サミットで提供された食事と飲料が掲載されていまして。そこで気になったのが1日目の夜に提供されたコース料理のデザートで、水菓子(もみじ饅頭・雷おこし・みたらし大福みたいなもの)とともに10年熟成された貴醸酒(日本酒の種類の一つ)が提供されていたんですよ。それを見たのをきっかけに、かねてより考えていた和菓子と日本酒の可能性を実際に探りたいと思いました。
というわけで、今回はいつもと趣向が異なります(笑)。さっそくやっていきましょう( ˘ω˘ )。
〇今回の和菓子の紹介
さて、それでは和菓子を作っていきましょう……と言いたいところなんですが、和洋含めてお菓子づくりはほとんどやったことないんですよ(笑)。
というわけで、今回は買ってきました~。まずは四日市の笹井屋さんの「ながもち」!!三重北部にある大きめのスーパーには必ずといっていいほど置いてありますね。
柔らかいお餅で上品な甘さのあんこを包んで平たく長く伸ばしたのち、表面を焼いた三重銘菓です。また、ながもちには笹井屋さんのほかにも、同じく四日市の「太白永餅」、桑名の「安永餅」、鈴鹿の「立石餅」があります。
これ、むかしからめちゃくちゃ好きなんですよ。そういえば、三重県出身であるレスリングの吉田沙保里さんもながもちが好物だとか。
そして他にも、鈴鹿市にあるお気に入りの和菓子屋さん「とらや勝月」さんで和菓子を買ってきました~。
まずは草餅。柔らかくて、よもぎが持つ香りと複雑さのある大人の味わいがあんこによく合っています。
続いて、ぷりんとわらび餅。いや、ぷりんはたしかに洋菓子なんですが、和菓子屋さんのぷりんって固めで優しいレトロタイプで美味しいんですよ…。わらびもちはとらや勝月さんで作ってるわけではないそうですが、けっこう暑くなってきたし食べたいなと。
今回は以上4種類の和菓子で、日本酒との相性を探ります!!というわけで、続いてお酒の紹介です。
◯今回のお酒とペアリング考察
今回は合いそうなものを3種類用意しました。
左から順に、
「作 奏乃智」(三重県 鈴鹿市 清水清三郎商店)
「宮の雪 新酒 純米にごり酒」(三重県 四日市市 宮崎本店)
「古色蒼然 20年」(三重県 松阪市 新良酒造)
というラインナップです。
それでは、以下にて詳しく解説していきます。
◇お酒の基本情報とコメント
1.「作 奏乃智」(三重県 鈴鹿市 清水清三郎商店)
区分:純米吟醸
米:国産米 精米歩合50%
度数:15度
公式商品紹介ページ:
筆者のコメント:
〈香り〉
バナナやメロンを思わせる果実香が主体。
+
炊いた米やもちののような米由来の香り。
栗やさつまいものきんとんようなあまやかさ。
ライムなど柑橘の皮のような爽やかさ。
全体的にはとても華やかでフルーティーかつ、まっすぐな香り。柑橘の皮のような爽やかさが清涼感を感じさせる。
〈味わい〉
豊かな甘味を軸に柔らかい酸味とふくよかな旨味がほどよく調和。
ほのかにレモンピールのような苦味もあり、様々な味わいを感じるが、全体的には綺麗な印象で透明感がある。
〈総評〉
同じく清水清三郎商店では同系統と思われる穂乃智より甘口で、なおかつより綺麗な印象に軸を振っているが、こちらも酸味や旨味を含めた全体のバランス感が絶妙。よく冷やして飲むのがおすすめ。
2.「宮の雪 新酒 純米にごり酒」(三重県 四日市市 宮崎本店)
区分:純米
米:国産米 精米歩合60%
度数:15度
公式商品紹介ページ:
なかったので、志摩市にある酒屋「べんのや」さんがこのお酒を紹介しているページを。
〈香り〉
メロン、バナナ、桃など甘やかな果実香
炊いた米やもち、もろみ由来の酒粕の香り が主体
+
柚子や蜜柑などの柑橘類の皮のような爽やかさ
全体的には穏やかかつふくよか。
〈味わい〉
裏ごしがきめ細かく、なめらかなとろみある質感によってゆったりとした甘味を感じる。
中盤にかけて米の旨味がまったりとゆるやかに広がる。
酸味は穏やかに全体を引き締め、ほのかに感じる苦味もコクを演出する。
ろ過した酒や無濾過原酒に比べて複雑ながらも、まろやかで上品な味わい。
〈総評〉
にごりならではのまったりとした舌触りがあるが、よりきめ細かく滑らかでシルキーな印象。それがもろみ由来の複雑な味わいをゆったりと広げるが、重みやしつこさはあまり感じない。とても優しく落ち着いた印象のにごり酒だと思う。
3.「古色蒼然 20年」(新良酒造)
区分:特に記載なし。
米:国産米 精米歩合60%
度数:18度
公式商品紹介ページ:なし。
筆者のコメント:
〈香り〉
熟成古酒であることからカラメルやひのき、コーヒーのような熟成香が主体。
+
ややバナナのような甘い香り。
ビターチョコレートやナッツ様の香ばしさ。
熟成によって香りに複雑さが出ているが、熟成酒らしい香りがきつすぎるわけではなく、むしろ香ばしく甘やか。カラメルが香ばしい硬めのプリンのような印象。
〈味わい〉
最初は意外にも優しい甘味を感じる。
その後、なめらかな質感とともに、その甘みが緩やかに広がる。
酸味は穏やかで、中盤からメイラード反応によるコクのある旨味とカカオのようなほろ苦さがじんわりと広がる。
少し渋みも感じられ、熟成古酒らしい複雑な味わい。
余韻も意外と穏やかに旨味・苦味が続く。
〈総評〉
熟成古酒ということで、見た目がメイラード反応により濃いトパーズ色になっている。また、独特な熟成酒らしさはしっかりとあるものの、意外と穏やかでしつこくなく親しみやすい。そのため、初めて熟成古酒を飲むという方の最初の1杯にもおすすめ。また、燗をつけると優しい甘味や旨味を感じやすくなり、よりコク深く丸みある味わいになる。
◇今回の和菓子とのペアリング検証
それぞれの酒との相性度は5点満点で表します。ただしこれは実験ですので、たとえ1点がついても酒や和菓子が悪いわけではありません。悪いのは合わせてみた僕です。
また検証前は、ながもちには「作 奏乃智」(以下「奏乃智」)が、わらび餅やプリンには「古色蒼然20年」(以下「古色蒼然」)が、そして全体的に「宮の雪 新酒 純米にごり酒」(以下「宮の雪」)が合うのではないかという仮説を立てています。
<ながもち>
奏乃智:3
宮の雪:5
古色蒼然:1
「宮の雪」はとても合うように思う。酒粕様の香りが優しく香り、香りの少ないながもちにふくよかさを与える。さらに、あんこやもちの優しくまったりとした甘さに、濁りならではのとろみある質感とまろやかな甘み・旨味が馴染む。酒粕饅頭があるので当然と言えば当然なのかもしれないが、より大人の雰囲気になってとてもよい。
一方、「奏乃智」は甘やかな香りがよく調和するものの、あんこの甘さによってやや渋みが目立つ。また、透明感のある味わいがあんこのまったりとした優しい甘さと反発してスリップしている印象。「古色蒼然」も同様に、苦味・渋みが目立ってしまう。また、香りもさすがにながもちに合わせるには主張が強すぎるかなと思う。
<草餅>
奏乃智:3
宮の雪:3
古色蒼然:2
よもぎもちが苦味や旨味、塩味など複雑な味わいを持っており、青く清々しい香りが強い。そのため、「宮の雪」「奏乃智」はおおむね馴染んでいるように感じるが、酒らしい味わいや香りはどこかへ消えてしまう。そのため、わざわざ合わせる意味合いはないといえる。「古色蒼然20年」はながもちよりは苦味が目立たないが、香りはかなり喧嘩する。
<和菓子屋さんのぷりん>
奏乃智:3
宮の雪:4
古色蒼然:4
「宮の雪」はぷりんの甘さやコク、カラメルのほろ苦さによって、酒の味は目立たなくなってしまうが、もろみ由来の深い味わいによって全体のコクはさらに増した。やはり、とろみある質感が合わせた時の一体感を増幅させている。
「古色蒼然」はぷりんのまろやかな甘味によって、どうしても最初に渋みを感じるが、中盤からは馴染んでいった。熟成酒ならではの苦味や香りが加えられてカラメルの香ばしさやほろ苦さが増幅され、味の複雑さが上がってより大人の味わいになる。今回は20年ものだが、熟成期間が10年だとよりいいのではないかとも思う。
「奏乃智」は卵やカラメルの香りに酒の香りが消されてしまう。味わいとしては甘やかさがちょうどよく調和してまとまりはいいものの、酒らしさはどこかに消えている。
<わらびもち きなこ黒蜜>
奏乃智:3
宮の雪:3
古色蒼然:5
これは予想通り、きなこ黒蜜と「古色蒼然」の相性がとてもよい。まず、黒蜜の独特な香りときなこの香ばしさに熟成香がとても合う。ヒノキなどの木のような香りもよいアクセントになっているのでは。また、わらびもちと黒蜜が合わさったほろ苦さやコクのある複雑な甘みが、熟成酒の複雑な味わいと調和して増幅し、より深みのある味わいになっている。
「奏乃智」と「宮の雪」はまったく合わないということもないが、きなこ黒蜜にすべてを持っていかれて酒の香味がどこかへ消えている。
〇検証を終えて
今回は3種類の日本酒に和菓子を合わせてみました。いつもと違ったアプローチでしたが、とても面白かったです。ただ、予想の反して「奏乃智」があまり合わなかったのは残念でした。やはり全体的に甘味に負けしまったり、高い透明感があるがゆえに和菓子のまったりした味わいと反発してしまったりしていたように思います。今度はサツマイモとかかぼちゃなど、野菜の甘さを活かしたものと合わせてみようかなと思っています。また、燗をつけたら違った印象になるのかなとも感じました。
一方、「宮の雪」はよかったですね。黒蜜やよもぎの独特で強い味わいにはあまり合いませんでしたが、今回のながもちのような小豆を使ったシンプルな甘味にはとても合うと思います。まったりとした上品な甘みと複雑さが、和菓子ならではの優しい甘味やふくらみのある味わいとの親和性が高く、もろみ由来の酒粕のような香りが全体のふくよかさを増幅してくれました。
また、「古色蒼然」は和菓子の種類こそかなり選びますが、香ばしい苦みや香りのある黒蜜・黒糖・きな粉などとの相性はとてもいいと感じました。今度はかりんとう饅頭とかも試してみましょうかね。みたらし団子もいいと思います。ちなみに、このお酒はほかにもペアリングの提案をしているので、そちらもぜひ。
そして、この検証を進めていくなかで実感したのは、まず「強い甘味」の重要性です。なぜデザートワインはかなり甘口につくられているのかがよくわかりました。(といっても、長野の五一ワインの「氷菓の雫」しか飲んだことないですが…。)日本酒やふつうのワインでいう「甘口」では、酒の甘味がデザートの甘味に負けてしまい、酒にはどうしても含まれる苦みや渋みといったマイナスな部分が目立ってしまうんですね。かといって「淡麗辛口」を合わせてしまえば味が消し飛ばされるし、「旨辛口」をあわせれば旨味が目立ってくどいんだと思います。やはり、それらを回避するには、それ同等かそれ以上の甘味を合わせなければいけないわけなんですね。
また、「質感」の重要性も感じました。今回でいう「奏乃智」のように透明感があって輪郭がはっきりしたお酒は、どうしてもデザートのまろやかな・まったりとした甘味を流すような働きをします。一方、熟成酒やにごり酒は同じくまろやかな質感をもっており、デザートの甘味の質感と一体化することができます。もしかすると、無濾過生原酒もややとろみがあるので、質感という意味では親和性があるのかもしれませんね。
以上を踏まえると、広島サミットにて、あのデザートのラインナップに「10年熟成物」(熟成すると質感がまろやかになる)の「貴醸酒」(特殊なつくり方をすることで、めちゃくちゃ甘く仕上げる日本酒)が出されたこともうなずけます。願わくば、ぜひ一度食べてみたいですね( ˘ω˘ )。
というわけで、今回はここまで。次回かどうかはわかりませんが、「和菓子×日本酒」はこれからも続けていこうと思います。今度はスパークリング日本酒や貴醸酒、無濾過生原酒をよういしたいですね~。…手に入るかな(笑)。
それでは、また次回会いましょう。
素敵な日本酒ライフを~( ˘ω˘ )。
「日本酒ペアリング研究会 報告書」のまとめを作りました。
他のメニューとペアリングもあわせてお読みいただけると嬉しいです( ˘ω˘ )。
本企画とは別でやっているエッセイ企画「淡い雲をとどめて」のまとめです。ぼちぼち書いていきますので、こちらもぜひに。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?