【私と旅 #5】倉持美紀(もち)
「旅とガーネット」は旅が好きな20~30代の女性が各々の理想のライフスタイルを実現するためのコミュニティ。
インタビュー企画『私と旅』シリーズでは0.5歩先の旅する女性をインタビューし、旅好きオトナ女子に「自分の理想のライフスタイルは何か?」を見つける種をお届けします。
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"旅と仕事を両立させる働き方"と聞くと、一番に思い浮かぶのはフリーランスではないだろうか。
今回紹介する倉持美紀さんはフリーランスのデザイナー。イベントポスターや名刺デザインなどを手掛けながら、今までイギリスやベトナム、ミャンマーなど約30ヵ国を旅し、おすすめのカフェのような旅のお役立ち情報情報を発信している。
また、"旅先をオフィスに"という想いで活動しているフリーランス3人組、TAFICAのメンバーでもある。
そんな倉持さんに旅先での仕事術や、フリーランスとしての今後のキャリアイメージの話を伺った。
1. 旅先での仕事術
「日本にいなきゃいけない理由が無いんだったら、旅に出ちゃいたいなって思ってます」
3年前にフリーランスとして独立した倉持さんは、旅に出られるタイミングがあれば国内外問わずふらりと旅に出る。
倉持さんのSNSには彼女が実際に体験して得た旅先の情報が発信されている。特に、Twitter上で「#もちノマドスペース」というハッシュタグで紹介されているカフェはWi-fiの速度や電源など作業をする上で欠かせない情報が含まれている。旅先をオフィスにする彼女だからこそできる発信だ。
倉持さんは旅に行く前に現地のカフェの情報を収集する。ベトナムのダナン・ホーチミンに旅をする前には現地で行きたいカフェを60箇所ほど調べたと言う。仕事をしながらの旅のときは、結局日中はカフェで作業をすることになるため、ホテルなどもカフェの近くという条件で探すそう。
カフェで作業をするのなら、日本のカフェでも変わらないのではないか。そんな疑問に彼女は答えた。
「日本のカフェで作業をしていると、何してるのかな?みたいにディスプレイを覗き込まれることがあるけど、海外だと気にされません。何をしててもOKという空気があります。
また、日本は土地が狭いので店舗内での人と人との距離が近くなりますが、海外だと距離をゆったりとることができるから仕事がしやすいんです。
Wi-fiの速度も問題はないです。それどころか日本のカフェよりも速いですよ。
例えばWi-fiは日本のひかりWi-fiの速度が100Mbpsだとすると日本のカフェは20Mbps出たら良い方なんですが、ベトナムだと平均で50Mbpsが出ます」
もちろん倉持さんはカフェで仕事をするだけでなく、遺跡や美術館、博物館などの観光も楽しむ。仕事も遊びも詰め込んだ旅は忙しそうに思えるが、彼女はそんなことはないと笑った。
「ベトナムに行ったときは歴史資料館の近くのカフェを調べてギリギリまで仕事して、2時間くらい歴史資料館を見に行きました。慌ただしく思うかもしれませんが、日本で終電まで仕事をしているよりは忙しくないと思います」
2. 旅キャラというブランディング
「相手に理解してもらうって意味で、よく旅に出る"旅キャラ"として知ってもらうことはいいですよ」
倉持さんは旅の前に仕事の調整をすることはあまりない。仕事と旅が重なるときはクライアントにあらかじめ旅の期間を伝えるため、調整の必要がないのだ。
「最初にクライアントに『ライフスタイル的に旅を中心に仕事してます』と伝えておくと、『今って仕事大丈夫ですか?』って調整していただけたり、他の人に紹介してくれるときも『倉持さんは旅をしながら仕事してるんです』と一言添えていただけたりするんです。
クライアントにちょっと苦労かけたなって思うときはそのときの旅のお土産を持って行ったりします」
もちろんいつでも仕事はプロフェッショナルに取り組んだ上で、と倉持さんは付け加えた。
また、倉持さんがフリーランスとして一番最初に受注した仕事は、地方の仕事だった。それは旅をしていることを伝えたことで依頼された案件だという。旅をしていたからこそ受けることができた仕事だったのである。
では、彼女の人生は常に旅と共にあったのかと言うと、そうではない。
倉持さんのライフスタイルに旅というキーワードが重なったのは会社員時代にまで遡る。
3. フリーランスへの転身
社会人1年目、倉持さんは平日は会社と家の行き来だけ、土日はひたすら眠るだけのような日を過ごしていた。
「クリエイティブに携わる人間なのに、こんなに私生活が死んでて良いクリエイティブを生み出せるのか?と思いました」
このままでは、良くない。そう考えた倉持さんは試しに地方へ足を伸ばしてみることにした。
初めての旅先として選んだのは、鹿児島。そこでの旅の経験が倉持さんの旅に対する価値観に大きな影響を与えた。
「鹿児島には縁も所縁もなかったのですが、東京の友人から鹿児島の友人を紹介してもらって、そのツテで鹿児島に行きました。
鹿児島って面白い人が多いんです。例えば、元大手代理店社員の人がやっている焼酎の蔵元。芋焼酎って結構癖があってロックや水割りで飲むのが普通なんですが、この方は新しい飲み方の提案をされていて。ライムとミントを芋焼酎に合わせて、まるでモヒートみたいに飲むんです!面白いですよね。
こんな感じで『鹿児島の面白い人の話を聞きに行きたい』と、人から人へ繋いでもらったりするうちに鹿児島に私のフィールド、私の人間関係ができていきました」
"その土地の面白い人と出会う旅"。旅は観光のように場所を巡るものだと思い込んでいた倉持さんは旅先で人と出会うということの魅力を知り、旅をすることに大きな価値を見出すようになる。
それからは月1で旅をするようになり、会社には「3ヶ月後の土日はいません」と事前に伝えていたという。
会社員としても"旅キャラ"というブランディングを行い、旅と仕事の両立を実現していた彼女が会社を辞めた理由は、非常にポジティブなものである。
「会社を辞めるときは自分で2つ条件を決めていました。
アートディレクターという自分でチームを持って動かすポジションに到達することと、次の目的を決めた上で辞めるということです。
そしてアートディレクターに到達し、海外留学という目的を見つけたから辞めました。
退職後はフィリピンの語学学校に通った後、イギリスにある美術大学の春季コースに参加しました。
その春季コース終了後に海外を放浪しているとき、私の前に会社を辞めた先輩から帰国したら仕事を依頼すると言われて、そのままその先輩を手伝っている内に自分にも仕事が舞い込んできて。その延長線上で今もフリーランスを続けてます(笑)」
倉持さんはいつの間にかフリーランスになっていたと軽く笑いながら話すが、3年もの間フリーランスとして活躍しているのは、彼女のプロフェッショナルとして仕事に取り組む姿勢があるからこそなのだろう。
4. フリーランスと会社員、キャリアの考え方
フリーランスも会社員も経験した倉持さんは、それぞれにメリットがあるため、どちらも考慮した上でキャリアを選択していく必要があると語る。
そんな彼女がフリーランスでいる理由はやはり自由に旅ができることだという。では、フリーランスのデメリットは何だろうか。
「フリーランスの一番大きいデメリットは自分の力量以上の仕事をしにくいから成長のスピードが遅いこと。
大企業だと『あなたの力量じゃ足りないかもしれないけど、この先輩がついてるからやりましょう』というチャンスが大いにあります。だから、企業に所属する方がスキルアップは速いと思います。
今の年齢だと周りからは自由なフリーランスが憧れられるかもしれないけれど、例えばフリーランスを続けた40歳と企業に所属した40歳を比較したとき、スキルや収入でどれくらい格差があるのか。まだ想像ができないです」
どちらのメリットも知っている倉持さんは、コロナで旅に出れない今は、もう一度会社員になるのも良いと話した。
5. 理想の旅を追い求めて
倉持さんが今後叶えたいライフスタイルはどのようなものなのだろう。
「片道切符だけを持って半年くらいどこかに行きたいです。例えばドイツ行きのチケットのみを取って、ドイツに行ってそこで生活をして、その中で行きたい場所ができたらそこに行く。そういう生活に憧れてます」
グラフィックデザイナーという仕事柄、実際の印刷物の色味を確認する色校などで帰国する必要が出てくるため、現状は旅の期間を長く取れても2週間や1ヶ月となる。
「半年ずっと旅ができるライフスタイルを叶えようとすると対面が必要となる仕事は減るんじゃないかと思います。そういう仕事を減らしたとき、じゃあ私の何を価値として仕事を取っていくのかだとか、そういうことを考えていかなきゃいけないんです」
それもまた一つの挑戦なのかもしれない、と倉持さんは言う。
逆に仕事の依頼が大量に舞い込んだとき、どのような基準で仕事を選んでいくのか。
「もし仕事が溢れてどうしてもどちらかを選ばなければならないという状況に陥ったとしたら、好きな仕事を優先します。
作品集を見て仕事がくるわけなので、作品集が自分の"好き"で溢れると自然と好きな仕事が舞い込んでくる。そんな好循環になるんじゃないかと思います」
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フリーランスは時間に縛られない。案件によっては場所にも縛られず働くことができる。そのため、"旅と仕事を両立させる働き方"としてイメージされることが多い。
ただ、自由には責任が伴う。どのような案件を受注し、どのように業務を行い、どのような成果をあげるのか。全て自分で決断し、全て自分の責任となる。
倉持さんは仕事に対して会社員時代も、フリーランスである今も常に真摯に向き合っている。だからこそ、アートディレクターという目標を達成し、フリーランスを3年間継続することができているのではないだろうか。
どのような働き方であっても成果をあげられるようになることが、理想のライフスタイルを実現する近道なのかもしれない。
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