【短評】高木ブー「アロハ 90歳の僕」
私(Satoru)はドリフ世代で、メンバーの著書は、ひととおり読んでいる。いまご存命なのは、加藤茶と高木ブーだけである。文字どおりのレジェンドである。敬称略。
高木ブーは、前書きで、自らを「普通の人」と称している。押しも押されもせぬ普通の人だ、と。
いやいや。あの時代に大学を出て、東京ガスの就職を蹴って、バンドのフロントマンをやって、別役実の二人芝居に出演して、ブルーノート・ハワイで演奏して、一体どこが「普通の人」なのだろう?
けれども、穏やかで柔らかな筆致に流されていくうちに、高木ブーは本当に「普通の人」だったのではないかと、いつのまにか、錯覚させられる。普通の人が、普通に年を重ねていく。それはなんと寿ぐべきことなのだろう、としみじみ実感させられる。すごい本なのである。
空襲の夜、目の前で自宅が燃え落ちた。中学生のときに玉音放送を聞いた。軍用のパスポートを職業欄「音楽師」で取得した。米軍の演習場のトイレには隣の壁がなかった。デブだから、という理由でドリフターズに誘われた。娘が生まれた。妻が亡くなった。孫が生まれた。画集を出した。運転免許証を返納した。ウクレレをこよなく愛した。
それが高木ブー。今年91歳である。
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