サツマイモのシンク能力(イモが大きくなる能力)を決める要因
この記事の要点
サツマイモのシンク能力はソース能力に影響を与える
サイトカイニンやアブシジン酸といった植物ホルモンがシンクサイズに影響を与える
ADPGPPaseやSuSyといったデンプン合成関連の酵素がシンク強度に影響を与える
ADPGPPaseの活性と塊根重には正の相関がある
日本においてサツマイモ(Ipomoea batatas L.)は基幹作物の一つであるが、イネ収量は増加している一方でサツマイモの平均収量は30年近くあまり変化していない。こうした中でサツマイモの塊根収量を向上させ、生産コストを低減させることが期待される。
これまでの研究でサツマイモの塊根収量は草型や個葉の光合成能力といった光合成の供給に関する能力(ソース能力)と塊根の光合成産物を蓄積する能力(シンク能力)により形成されることが明らかにされている。また、塊根収量に関してはソース能力よりもシンク能力の影響が大きいことが明らかにされている[2]。塊根のシンク能力にはいくつかの植物ホルモンやデンプン合成酵素の活性が関与していることが示唆されている。そこでこの記事ではサツマイモの塊根のシンク能力を形成する要因についての研究の結果を紹介する。
シンク能力の形成要因は塊根の形成・肥大に関わる要因とデンプン等貯蔵物質の合成・蓄積に関する要因に分けて考えることができ、前者については内生植物ホルモン、後者についてはデンプン合成系の酵素活性が関わると考えられている。
サツマイモの若い根に主要なサイトカイニンの一つであるトランスゼアチンリボシド(t-ZR)とスクロースを濃度を変えて塗布した結果、スクロースの量を増加させても塊根形成が誘導されるとは限らなかった。一方で、根のショ糖濃度が2%を超える根ではt-ZRの塗布によって塊根形成が誘導された。これらのことから塊根形成には若い根において高いスクロース濃度が必要であり、高スクロース条件ではt-ZRが塊根形成の引き金となることが示唆された[3]。
塊根肥大性の異なる栽培品種2品種と塊根を肥大させない近縁野生種をもちいてゼアチンリボシド(ZR)、アブシジン酸(ABA)、インドール-3-酢酸(IAA)の根の発育に伴う変化を調査した結果、IAAは3品種の間で一定の傾向が見られなかった。一方で、ABAは塊根肥大性の高いコガネセンガンで高く、塊根肥大性の低い紅赤、また塊根を形成しない野生種の根においても低かった。このことから、ABAは塊根の肥大能力と関係している可能性が示唆された[4]。
サツマイモの塊根の主要な貯蔵物質はデンプンであるため、デンプン蓄積の効率はシンク能力を形成する重要な要因だと考えられる。サツマイモにおけるデンプンは主にショ糖からいくつかの反応を経てできるADP-グルコース(ADPG)を基質としてデンプン合成酵素によって合成される[2]。地上部品種を揃えた接ぎ木植物で塊根デンプン含有率と相関の高い塊根乾物率とデンプン合成酵素(SSase)の活性との関係を調べたところ有意な相関はみられなかったことからSSaseはデンプン合成の律速段階ではないことが示唆された[5]。一方で、デンプン合成の主要な基質であるADPGを合成するADPGピロホスホリラーゼ(ADPGPPase)活性とデンプン含量との関係を調べた結果、有意な相関がみられたことからADPGPPase活性がデンプン合成の律速であり、塊根のシンク能力に関わっている可能性が示唆された[5]。また、門脇らが行ったショ糖を人為的にサツマイモに供給した実験では、ADPGPPaseの活性と塊根乾物重に有意な正の相関があり、かつショ糖を供給した区において塊根への光合成産物の分配が高かったことから、高いショ糖濃度がADPGPPaseの活性を高めることが推察された[6]。デンプン合成経路の出発点となるショ糖を分解するショ糖合成酵素(SuSy)の活性はデンプン合成において重要だと考えられるが、高収量サツマイモのこう根においては1種類の発現配列タグ(EST)のみがジャガイモのSuSy遺伝子(gb|M18745)と相同性を示したのに対し、塊根では6種類のESTがgb|M18745と相同性を示した。このことから塊根ではこう根よりもSuSy遺伝子が多く発現していることが示唆された。また、RT-PCRの結果からSuSyとADPGPPaseの遺伝子は塊根において高く発現し、両者の発現の様相が似通っていることが明らかとなった。このことからSuSyとADPGPPaseは塊根肥大に関わっており、両者の間には何らかの関係があると考えられた[7]。
これらの研究によってサツマイモの塊根のシンク機能の形成に関わる要因が明らかにされ、今後はこうした要因を指標としてよりシンク能力の高い品種が育成され、サツマイモの塊根収量が向上することが期待される。
参考文献(References)
[1] Nakatani, M., Oyanagi, A., & Watanabe, Y. (1988). Tuber sink potential in sweet potato (Ipomoea batatas Lam.) I. Development of tuber sink potential influencing the source activity. Japanese Journal of Crop Science, 57, 535–543.
[2] Murata, T., & Akazawa, T. (1969). Enzymic mechanism of starch synthesis in sweet potato roots. Archives of Biochemistry and Biophysics, 130, 604–609.
[3] Eguchi, T., & Yoshida, S. (2008). Effects of application of sucrose and cytokinin to roots on the formation of tuberous roots in sweetpotato (Ipomoea batatas (L.) Lam.). Plant Root, 2, 7–13.
[4] Nakatani, M., & Komeichi, M. (1991). Changes in the endogenous level of zeatin riboside, abscisic acid and indole acetic acid during formation and thickening of tuberous roots in sweet potato. Japanese Journal of Crop Science, 60, 91–100.
[5] Nakatani, M., & Komeichi, M. (1992). Relationship between starch content and activity of starch synthase and ADP-glucose pyrophosphorylase in tuberous root of sweet potato. Japanese Journal of Crop Science, 61, 463–468.
[6] Kadowaki, M., Kubota, F., & Saitou, K. (2001). Effects of exogenous injection of sucrose solution to plant on the carbon distribution to tuberous root and tuberous root production in sweet potato, Ipomoea batatas Lam. Japanese Journal of Crop Science, 70, 575–579.
[7] Li, X.-Q., & Zhang, D. (2003). Gene expression activity and pathway selection for sucrose metabolism in developing storage root of sweet potato. Plant and Cell Physiology, 44, 630–636.