Covent Garden(England)
文字数: 7215字
はじめに
私の記事「黄色いラッパ水仙」の「24 コベントガーデン・ミュージカル」の中で当然のようにして扱っている。それはミュージカルの劇場がその一角にあるからだ。この記事の中でも少し語るかもしれない。「黄色いラッパ水仙」で扱っていない画像が見つかったからだ。
コベントガーデンはロンドンの中心部、「The City」と呼ばれる地区に存在する。チャリングクロスの北500mの位置というから、交通の便が良い場所にあることになる。だから観光客にとっても、ありがたい位置関係というわけだ。そして劇場「ロイヤル・オペラ・ハウス」のことをコベントガーデンと呼ぶこともあるのだ。
この場所は相当古い歴史を持っていることでも有名だ。ノルマン人が1066年にイギリスを征服した(「ノルマンコンクウエスト」Norman Conquest)のだが、それから150年もすると、この場所はすでに現在に近い名称をいただいている。そして時代が移ろううちに現在のCovent Gardenに落ち着いてきたのだ。
無観客状態でパフォーマンスを始めるには
ここではいろいろなパフォーマンスを見ることが出来る。この項では、それらをビデオでできるだけ撮ってきたので、画像を通して楽しんでみたい。アメリカやフランスでも高度なパフォーマンスを堪能することが出来るのだが、ここ、コベントガーデンでは集中的に多種のパフォーマンスを楽しむことが出来る点で素晴らしい。
早速、あるパフォーマンスを見てみよう。これはたまたまパフォーマーが場所を取って人を集める場面に出くわしたものだ。ビデオだがコマドリ的に画像を紹介してみる。
周りには誰もいない。それでも彼は堂々としていた。見ている私はどうなるのかビデオに収めたくなったのだ。すぐ足元には、投げ銭を入れるものなのか小道具入れなのか分からないが、カバンのようなものを置いたばかりというところだ。
ここに映り込んでいる人たちは当日の観客候補者たちだ。つまり手前に映り込んでもいないパフォーマーからは随分離れた場所にいる人たちだ。彼らの何人かはパフォーマーの動きに少し気が付いてきた。まだ気づかないで商品に目をやっている人たちもいる。これからがパフォーマーの人集めの腕の見せ所なのだろうか。
最初足と元置いたカバン状のものは、大分前方に移動している。というより、カバンが観客候補者たちの目に入るように間隔を置いた。まるで遠巻きの人たちにここまでなら大丈夫だよと勇気づけているかのようだ。
すると突然パフォーマーが全速力で候補軍団めがけて走り出したのだ。急でスピードもあるのでビデオカメラで一瞬見失ったほどだ。カバンらしきものは画面に入ってもいない。私はかなり遠くからカメラを向けている。こちらに走ってこられては台無しだ。
あっという間に観客候補者たちに近づく。候補者たちはあっけにとられる。中には戸惑う人もいた。しかし興味津々であることは疑う余地なしだ。逃げ腰の人も2,3人はいるが、パフォーマンスを見たい気持ちの方が勝つのだ。パフォーマーはその後押しをするだけなのだ。
早くも数名が捕まってしまった。一人を引きずればあとはついてくることは明らかだ。本当は候補者たちはそれを望んでいるからだ。見物したいけれども最初の見学者になるのは恥ずかしいだけだ。
この後は続々と人が前へと歩を進めて行く。そしてパフォーマーの周りには大きな人の輪が二重、三重と重ねられて行った。私は少ない時間に他のパフォーマンスを撮影しなければ・・・と思い、現場を離れることにした。
そう言えば・・・
ストリートパフォーマーはここCovent Gardenだけでみることが出来るわけではない。どこでも出現する。ただここは観光客が集まる絶好の場所なのだ。アメリカのLAにあるサンタモニカやベニスビーチのようなStreet performersにとってはありがたい界隈といえる。きっとどこかに事務所があって、そこで場所や時間のやりくりがなされているのだろう。
私が自分のアート作品を展示販売するために、門司港レトロの三井俱楽部という場所の一室を借りる時と同じだ。事務所を探し出して、場所と時間を予約するのだ。書類に詳細を記載して提出する。
Covent Gardenではどのようになっているのかは知らない。パリではオーディションのような審査があって、ある程度の力量を試されると耳にしたことがある。だから地下鉄の通路では素晴らしい音楽に出会える。恐らくマンハッタンの地下鉄やCentral Parkでも同じなのだろう。”へたくそ”はいない。
コベントガーデン各種パフォーマンス
とにかくCovent Gardenでは歩けばパフォーマンスに出会う。各種取り揃えています、と言えるほどの接近戦が行われている。(犬も)歩けば棒に当たる。
先ほどの場所に戻ってみると、黒山の人だかりができていた。そして別の大道芸人の登場だ。
大げさな身振りで観客を笑わせようと必死だ。毎日声を使いすぎているのかかすれている。でも動きで観客の笑いを巻き起こす術は健在だ。
かなりの高さに投げ上げた短剣をうまく取る技だ。危なくてしょうがない。
今度は斧を使って的に投げるという物騒な技だ。見ていると的に当たりはしたものの、残念ながらぽとりと地面に落ちてしまった。それはそれで観衆は拍手と笑いだ。
子供も大人も一つになれる場所がこのCovent Gardenではないのか。
肩透かし
このパフォーマーはなかなかの嫌われ業を持っていた。勇気が半端ないのだ。そもそも口にくわえている笛が人を小ばかにしている。その音色のことだ。文字では再現できないのだが・・・。
どのパフォーマーもとても忍耐深い。通路なので人の流れはよほどのことがないと止まってはくれない。それでもじっと見ている忍耐深い観衆が頼りなのだ。でなければハプニングは起こらない。
手を伸ばしたのは、釣りでいう撒き餌だ。狙いを定めたのだ。歩行者の脚が止まる。
撒き餌で引きが来たのだろうか。伸ばした腕を直角にする。次の瞬間獲物が目の前に現れるのだから、なかなかの業師だ。
男性はパフォーマーが出した手に握手をしようとしただけなのだ。しかし見事に手を引っ込められて、出した手をどうしていいか分からなくなる。だから笛の音の威力が増すのである。
男性はバツの悪そうな顔でそこを離れた。よく腹を立てなかったな、と私はハラハラしながら思ったのだった。一緒にいた家族からも全く知らない見物客からも大声で笑われたのだ。
その場に居合わせた男の子は間違いなく楽しい時間を過ごしたに違いない。だれかチップをはずんだのだろうか。そこまでは見ていなかったので不明だ。
それでも彼はその場を離れることはなかった。一緒になってこのパフォーマンスを堪能していたのかもしれない。
Music
このスペースでは弦楽四重奏が行われていることが殆んどだ。楽の音が騒音と笑いのスペースとを分け隔てているのだ。疲れをいやすには丁度いい。地下的な場所で、手前の階段を上がると手すりに寄りかかって多くの観光客が下の音楽を楽しむ景色がある。
その観客のまわりを空き缶を手にチップを入れてもらう人がいる。楽団の仲間に違いない。静かに観客の邪魔にならないように、強制的でない柔らかさで回っている。夢中で気づかない観客だっている。しかし、気にしない。
私も上から覗き込みながら音楽を聴いていた。すると下に見えたのは、大学の学生だ。しかも男子学生二人が何やらうごめいていた。彼らはいつも私のカメラの前で姿を現しては撮影の邪魔をするのが趣味なのだ。今回は気づかれずに二人を撮ってみよう。
2人はこのプログラム参加をした男子学生だ。あとは全て女子学生。その中で私にまとわりついていた。そういう意味でかわいい。私の邪魔をする姿がじゃれつく何かの動物だ。
この演奏エリア(地下)では椅子が並べられていて、音楽を楽しむことが出来る。2人はいまチップをどうしようかと考え中なのだ。前日に私が大道芸人がいたら、チップを入れてみたらいい経験になる、とけしかけていたのだ。まさかその行動を目の当たりにして動画に取り込むチャンスに恵まれるとは思いもよらないことだった。
チップを入れているのだが、楽士の目線が面白い。あたかもこの男性は楽器のケースに入っているお金を持っていこうとしているのかな?という雰囲気で覗き込んでいるのだ。それも二人の楽士がそんな目線だ。学生は気づいてはいない。緊張しているのだ。
しかし学生がチップを入れる場面をよくよく見てみると、実は楽士たちは疑っていたのではなくて、ご寄付ありがとう、の目線だったことが分かる。感謝の表現だった。疑うわけがない。残念ながら学生2人は楽士たちの気持ちを感じ取る余裕がなかったのだ。惜しい体験だ。私が後で二人に話しておいた。
「え、見てたんですか?」
2人に聞くと入れた金額を教えてくれた。そして彼らは付け加えた。
「先生、俺らポケットに入っていた飴も入れたっすよ」
パフォーマンスの後片付け
あちこち回って元の広場に舞い戻ると、すでに別のパフォーマンスだ。脚立に立っている人と、語りの人がいた。この語りが大切な役割なのだ。観衆を一つにするしゃべりは笑いを誘う。私は観客の一番後ろでカメラを上にあげて映す。中で何が行われているのか分かりづらい。あとで来たから尚更だ。
語りの役が必死で声を張り上げる。その声に観衆は笑いの渦を作る。両者の合作だ。では脚立の人は何をしているのか。脚立を履いたまま時折難しい歩きを披露する。
まさかの綱渡りか・・・。私は待った。私は綱渡りをする現場を見逃した。他の現場が気になっていたのだ。少しして戻ってみると現場の綱渡りは終了していた。しかもこのパフォーマーの芸は終盤に突入していたのだ。
棒の先にあるバケツにチップを入れろ、とでもいうのか?観衆はパフォーマンスの終了を予感し始める。だからと言ってチップを入れないで逃げるようなことはしない。
次々とパフォーマーを称えるチップが入れられる。見ていて気持ちがいい。私?今回は終わりころしか見ていないから遠慮した。ここだけ遠慮した。パフォーマンスが悪かったわけではない。最後を見届ける決心をしているからチャンスを逃したくないのだ、などと言い訳だ。
乳母車の子供を連れたおじいちゃんが微笑ましい。こうして子供たちはパフォーマーを尊敬することを学んでいくのだ。
地面に敷かれた敷物が片付けられたら終わりの告知だ。完全終了だ。私が撮影した動画にはこの後もまだチップを持ってくる観客が続いた。その分パフォーマーとのおしゃべりという特典付きだ。お互い笑顔になれる瞬間が両者を結びつけるのだ。
下ネタOKなの?
一つ終われば次のグループの出番だ。
今度は短剣の使い手?の登場だ。
これは少々下ネタの語りなので説明したくない。と言って画像からは想像できないというストレスを感じる読者が殆んどだろう。困った!
パフォーマーが手にしている白いものは”シビン”だ。
パフォーマーが指さしているのは、女性の助手だ。彼の左手にはシビンが白く見えている。中身が入っているという流れの中の下ネタなのだ。
可愛いこどもたちがたくさん見ているというのに、何ということだ。
しかし親たちはおおらかだ。大笑いだ。子供たちは何がおかしいのか分からないから助かった。。。
こどもとパフォーマーの連係プレイ
私がこの人の輪の中に入った時には、この可愛い男の子は既にパフォーマーの助手に任じられていた。一生懸命さがかわいさを増しているのだ。
可愛い助手は、どうしていいか分からなくなるとパフォーマーではなく私のすぐ前の白いコートの母親の元に駆け寄る。逃げているのではない。アドバイスを求めての行動だ。これが観衆の目を奪うのだ。
何やら木箱のようなものを預けられる少年助手。師匠は決して言葉で指図をしない。指、目、しぐさ、あらゆる武器を駆使して助手に命令を出す。
少年助手が一生懸命師匠の命令の意図を探りながら動き回っている最中でも、お菓子に夢中な少女が観衆の輪の中にいる。寄り添う家族の胃痛シムその姿は一見の価値がある。
少年助手の目にはお菓子を食べる少女は全く目に入ってこない。目に入っているのは師匠の顔の表情だ。手足の表情だ。後ろの母親はきっとドキドキしながら若き少年助手に懸命の眼差しを向けているのだ。
師匠と助手の間には疑いの余地なく絶対的な信頼関係が成り立っている。周りを囲む観衆の中でこれに疑念を抱く者などもはや存在しない。一人を除いては・・・。それはあの少女だ。2人の関係には無関心だ。関心の中心はその時食べていたお菓子だけだ。
画像の制度が悪くて申し訳ない。私でさえどの場面だったか手探り状態なのだ。
師匠が(少年の向かって左側の)手をあげる。つまり師匠は右手を挙げたのだ。すると助手は賢いことに自分の左手をあげる。師匠のあげ方と同じだ。肘を直角に曲げた状態であげるのだ。
師匠がうなずき助手を称える。少年は誇らしげだ。すると師匠はやおら自分の上着を脱ぎ始める。もったいぶった脱ぎ方だ。脱いだ上着をどうしてよいか戸惑うしぐさが観衆の笑いを誘う。観衆は師匠の動きの意図を理解したのだ。思った通りに支障は脱いだ上着を少年助手のあげた手にかける。拍手、拍手、拍手!
Covent Gardenの雰囲気堪能
音楽ならチップを入れよう。でなければ楽しくない。CDを買うのも手だ。入れた途端にCovent Gardenの雰囲気が押し寄せてくる。
幼い子供には優しい音色で勇気をたたえてくれる。恥ずかしい気持ちを励ましてくれる。
もう楽士さんたちを怖がらなくてよいのだ。音色を聴きながら階段を上れば新たな出会いがありそうな気がしてくる。母親が付いていてくれるし。。。
親娘を見送れば、そろそろ最終章だ。一気に盛り立てる算段だ。
演奏に熱がこもる。聴いているだけで分かる最後の雰囲気だ。思いのほか盛り上がるのだ。勢いが半端ない。
フィナーレよろしく客の間を駆け巡る演奏だ。すぐそばで見る楽士たちの頼もしさ。力強さ。音色のすばらしさ。客はチップを払おうと払うまいと音楽にどっぷりと浸かる楽しさを深呼吸で胸の奥深くまで吸い込む。
ではこの周辺を散策してみようではないか。
忘れてはいけない。ここは元々市場なのだ。アート作品などが手に入る場所なのだ。
ガラス瓶を熱で溶かしたものが色合いを暖かなものにしてくれる。思わず買ってしまった。買ってから既に20年近く経つが今でも見惚れる瞬間がある代物だ。一つずつ分けておくと、味わいの違いが分かって来る。
何が起こるか分からないのが観光地だ。バイクがスタンバっていた。アンビュランスだ。ふそくのじたいに備えてのスタンバイだ。
そこから少し歩くと劇場のある場所に行き当たる。急に華やかな賑わいがそこにある。
(ミュージカルについては「黄色いラッパ水仙」の「24. コベントガーデン・ミュージカル」を参照ください。画像もこの記事とはかぶっていませんよ)
このネオンサインの下にカメラを向けると、いたいた、例の男子学生二人組(矢印)だ。邪魔をされないうちに彼らを撮ってしまえ。
あとはカメラが許される範囲でその賑わいを味わっていただくしかない。
少しずつしか進まないから、衣装でも見て楽しもう。
ブロードウェイなどではカメラで撮ってみようなどと思える雰囲気もない。しかし現在はどうなのだろうか?スマホでちゃっかり映している輩もいるかもしれない。
リンタクまで出現するとは思ってもいなかった。まるで東南アジアの風景だ。
これでこの記事を「完」にしようと思っていたのに、もう1種類の映像を放っておくわけにはいかない気がしてきた。解説付きの記事にしたくなってきたのだ。いずれにしてもあと少しで終わることになる。
黄色い手、ながっ!
何とも異様な姿だ。金属音をガシャガシャ立てながらうろつく。劇場の近くだ。ガシャッガシャッ・・・。以前マンハッタンで似たようなものを見たような気がした。その時は急いでいたので通り過ぎただけだ。今回はどのような動きになるのかを確認したくなった。
しばらくして腕が動いたような気がした。小さなガシャッという音。すると、突然、本当に突然延びる両腕!すぐ目の前の父親に抱かれた子供めがけているのだ。
意表を突く飛び出し。意表を突く長さ。意表を突く曲がり方だ。遠目に見ても体が逃げてしまう。そばにいる父子はどれだけ驚いたことか。。。
最後はあっという間に腕全体が縮んでしまうからそのからくりを知りたくなる。しかし教えてくれるわけもない。だから、聞く勇気など持ち合わせてもいない。
それよりも心配なのは、チップを入れる場所だ。どこを探しても見つけることが出来なかった。あるに決まっているのに未発見のまま帰国だ。仲間がいて、あのカルテットのグループのように一人が空き缶を観客に見せて回っているのかもしれない。
最後は(手を振っているわけではないが)手を振ってお別れだ。私も次の日には学生たちと日本を目指した。
完
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