海外での見知らぬ友 5
(この記事は、「行方不明のスーツケース4‐2」の出だしに次のように書いています。「(この省略した部分は「海外での見知らぬ友 5」のタイトルで書くことにしました」というわけで、その続きを書いています。ちなみに「行方不明のスーツケース4‐2」はすでに公開記事としてアップしています)
長蛇の列は・・・
なかなか短くなってくれない。
後で考えれば、写真でも撮っておけば面白かったのに・・・。
そんな心の余裕があるわけもない。
列に並んでも、そうそう話すことはない。
気が付くと、私の前に並んでいた青年は姿を消していた。
そんな時には急に列が前に少しだが移動するのだ。
私は移動しないといけないが・・・
名も知らない前にいた彼の場所には
スーツケースとバッグが置かれている。
その所有者は雲隠れだ。
アメリカでスーツケースなどを
自分から離れてしまうなど、私には考えられない。
私は同じ境遇のよしみで、
スーツケースを私の前に進める。
しかも・・・脚でけりながらの前進だ。
ジグザグに並んでいるので、
カウンターでの作業が見えてきた。
勿論チケットの変更だ。
希望にできるだけ沿うように考え考えの時間が過ぎていた。
大分列が進んだ頃になって
ようやく前に並んでいた彼が戻ってきた。
「夕食を食いに行っていたんだ」
「時間が有効に使えてよかったじゃん」
「そうだよ。お前も誘えばよかったな」
などと他愛ない話が続く。
しばらくのおしゃべりで彼はふと気づく。
「おー、オレのスーツケースを移動させといてくれてありがとよ。助かったぜい」
「 You’re Welcome!」
こうして私はようやく人のスーツケースの番人の役を解任された。
いよいよ私の番が巡ってきた。
列に並んでからどれくらいの時間が過ぎたのか分からない。
もう既に日が巡って夜中の2時頃だった。
私はトロントが目的地だ。
空港はトロント・ピアソン国際空港。
しかし、列が長すぎて既に満席になっていた。
トロントに行くには、モントリオールで乗り換えなければならない。
やむを得ない。
素早く決断して時間が動き出す。
受付の方に、電話を借りることにした。
3人くらい列の前の人が、電話を借りていたからだ。
「ごめんなさい。カナダはダメなのよ。外国だから・・・」
思いもよらないことに少し愕然。
卒業生に一応電話したかったのだ。
仕方ないので、固定電話を探してかけることにした。
どこかで書いたことだが、
私は一人旅ではスマホは持って行かない。
スリルが好きなのだ。
とは言え、その頃はガラケーだった。勿論日本に置いて来ていた。
キャンセルのスリルは、怖いだけだ。
急いでフロントを離れて固定電話探しだ。
歩いていると、人発見。
その人はスーツケースの人だ。
「よー」と手を挙げて素通りだ。
こっちは急いでいるのだ。
夜中の2時を大きく過ぎていたのだ。
「電話ならこれ使いなよ」
あのスーツケース置き去り犯がスマホを差し出してきた。
「さっき、見てたのさ。電話を借りようとしたけど断られていただろう」
こんなに助かったことはない。
早速スマホを借りた。
卒業生に、一応フライトがキャンセルになって
モントリオール経由に代わったことだけを連絡した。
「夜中に起こしてごめんね」
「先生、息子が嵐できっとキャンセルだよって言ったから心配していたんですよ」
というわけで、トロント着を教えないで電話を切ったのだ。
私はこんな事件が(終わってみれば)最高に気に入っているのである。
それにしても、あの若者は何者なのか。
まさか、スーツケースを置き去りにして夕食に行く彼が
頼みもしていないのに、私にスマホを貸してくれるなど考えも浮かばなかった。
列に戻ってきた時に、「ありがとう」とは言ってくれたが
それだけの関係だ。
似たような「見知らぬ友」は他にもいる。
この「友」のことは既に記事にしているものと思い込んでいた。
このシリーズの1~4まで見返してみた。
見当たらない。
ロサンゼルスでのことだが、やはりこの記事に付け足すのはやめにした。
別の記事にした方が(私は)楽しい。